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第四章13 【帝国奪還編】炎獄の獣

「――去るがいい、愚かなる人間たちよ」


 帝国ガリアへ向けて、マガン大陸を進むライガたち一行。


 軍港の町・ズイガンで老人と出会ったライガたちは、協力を得ることで陸路にて帝国を目指すことを決める。しかし、陸路には危険も多く、その最たるものは軍港の町・ズイガンと帝国ガリアの中間地点に存在する異形の大地だった。


 ――業炎が支配する灼熱の大地。

 ――凍てつく氷が支配する氷獄の大地。


 かつて、異世界全体を巻き込んだ大陸間戦争時に生まれた二つの大地は、強大な魔獣たちが生息する場所と化しており、ライガたちは早る気持ちを抑えて異形の大地を迂回するルートを選択しようとしていた。


「おいおい、どう考えてもコイツ……やばいだろ……」

「まぁ、相当な力を持っているのは間違いないじゃろうな」


 迂回ルートを進んでいたライガたち一行は、突如として発生した突風によって離れ離れになった結果、決して足を踏み入れてはいけないと念を押された異形の大地へと迷いこんでしまった。


「あいつを倒さなくちゃいけないんだよな……コレ……」


「そうなるじゃろうな。帝国へ向かうのなら」


 灼熱の大地へと迷いこんだライガとリエルを待っていたのは、全身を業炎で包んだ四本足の獣だった。それは虎のような姿をしており、堂々たる姿でライガたちの前に立ち塞がる。


「そういえば、リエルは氷系魔法の使い手だったよな。だったら、あいつも簡単に倒せる……とか、あったりしない?」


「ふん、この状況で氷が瞬時に解けなければな」


「……しゃーねぇか。倒さないと進めないんじゃ、倒すしかないだろうな」


「覚悟を決めたか?」


「――あぁッ!」


 戦わなければならない。

 それが決まっているのなら、後は覚悟を決めるだけ。


 ライガは背中の大剣に手を伸ばし、その顔に笑みを浮かべて炎虎と対峙する。



「――我と戦うと言うか。身の程を知るがいいッ!」



「来るぞッ、ライガッ!」

「あいよッ!」


 大剣を構えて飛び出すライガ。

 それに合わせて魔法の詠唱を始めるのはリエル。


「儂が魔法でトドメを刺すッ……時間稼ぎは任せたぞッ!」

「足止めねッ……了解ッ!」


 簡単な言葉でお互いの意思を確認し合うと、ライガは先陣を切って灼熱の中に飛び出していく。燃え盛る炎を切り裂くようにして走り出すライガは、大剣を低く構えると炎虎の身体を切り裂こうとする。


「――――ッ!」


「うぉッ!?」


 近づこうとした瞬間だった。

 ライガの周囲に存在していた炎が意思を持って襲い掛かってくる。


「なるほど、大地の主だから炎も自由に操れるってかッ!」


「ライガッ、後ろからも来るぞッ!」


「分かってるってッ――風牙ッ!」


 リエルの声が響くのと同時に、ライガは大剣を持った状態で身体を一回転させる。回転して全方位に風の刃を放つことで、襲い掛かってくる炎の渦を消し去っていく。


 そして、すぐさま体勢を立て直すと、相変わらず立ち尽くす炎虎との距離を一気に詰めていく。


「喰らいやがれええええええぇぇぇぇ――風牙ッ!」


「小賢しいッ!」


「ぐぅッ!?」


 ライガが振るう大剣が炎虎に届こうかという瞬間。ライガの視界が眩い炎の壁に支配される。


 炎虎が自身の身体を守るように炎の壁を設置したのだと理解した時には遅く、ライガの大剣は炎の壁に阻まれ、飛び散る火の粉がライガの身体に降り注いでくる。


「あっちいいいぃッ!?」


「これに捕まるんじゃッ――氷柱一通(アイス・シュート)ッ」


「うおおぉッ!? 今度は冷たいッ!?」


 リエルが生成するのは、無数の氷柱が連結した一本の柱。ライガの身体を容易に上回る大きさを誇っており、それが目にとまらぬ速さで飛翔すると、地面に突き刺さっていく。


 全身を熱されたライガは苦悶の表情を浮かべて炎虎の近くから飛び退ると、リエルが放った氷柱に抱きついていく。


「文句を言うんじゃないッ、こうしなければ、今頃丸焼きじゃぞッ!?」


「ちッ……そうなんだけどよッ……」


「ライガッ、一旦戻るんじゃッ!」

「――ッ!? あいよッ!」


 氷柱に向かって炎が迫ってきていることを察して、リエルの怒号が周囲に響き渡る。鼓膜を震わせるリエルの言葉に、ライガも瞬時に判断を下すと氷柱から距離を取って、リエルの隣まで後退する。


「危なかったぜ……」


「ふんッ、全く時間稼ぎになっていないの」


「そりゃ、仕方ないだろ……アイツ、ココの炎を自由に使えるみたいだしな」


「この炎を自由に扱える、か……厄介じゃの」


「……そういうことだ」


 ライガたちが立つのは、周囲を灼熱の炎に包まれた大地である。


 炎を自由に操ることが出来る。それは、この場においては絶望的にも聞こえる事実であり、ライガたちは敵が圧倒的に有利な場所での戦いを余儀なくされるということである。



「――業炎に焼かれ、消えろ」



「――ッ!?」


 炎虎が咆哮を上げたかと思えば、辺りを包んでいた炎が巨大な渦を巻いて上空に持ち上がっていく。一瞬の静寂が支配した後、人間を数十人は飲み込めそうなほどに成長した炎の渦がライガたちに襲いかかる。


「ライガッ、離れるでないぞッ!」

「お、おうッ!?」


「――氷拳剛打(アイス・グローブ)ッ!」


 リエルが魔法を唱えるのと同時に、二人の身体が炎の中に飲み込まれる。

 大地を揺さぶる轟音が響き渡り、幾度となく炎の爆発が連鎖していく。


「――ほう、これを凌ぐか」


「……凍てつく氷に包まれ、砕け散るがいいッ」


 炎の渦に包まれる空間において、凛と透き通るような声が木霊する。その声に炎虎は少しの驚きを孕んだ声を漏らす。


 ――炎が渦巻く中心。


 そこには、両腕に巨大な氷の拳を纏わせた北方の賢者・リエルが存在しており、彼女は右腕を天高く突き上げると、襲い掛かってくる炎の渦をしっかりと受け止めていた。


「すげぇな、コレ……」


「ふん、これくらいで驚くでない……」


 リエルはニヤリと唇を歪ませると、自由になっていた左腕を思い切り突き上げる。すると、全てを焼き尽くそうとする炎の渦が瞬時に凍結したかと思えば砕けて消失していく。


 眼前の光景に呆然と立ち尽くすライガを置いて、リエルは険しい表情を浮かべて跳躍する。向かう先には一歩も動くことなく立ち尽くす炎虎の姿があり、異形の姿をした魔獣へとその拳を振り下ろしていく。


「――砕け散るのじゃッ!」


 炎虎の意表を突いた形で接近を果たしたリエルの右拳が振り下ろされていく。炎虎に炎の壁を生成させる暇も与えず炎虎の全身を瞬時に凍結させていく。


「――なぬッ!?」

「――その程度の氷で、凍りつくと思ったか?」


 リエルの拳が炎虎に触れた瞬間。


 確かに異形の魔獣は凍りついたはずだった。しかしそれも一瞬であり、氷は瞬く間の内に氷釈すると、炎虎は零距離でリエルに業炎を叩きつけていく。


「リエルッ!?」

「ぐああぁッ!」


 炎虎の口から吐き出される炎球を受けて吹き飛ばされたリエルは、苦しげな表情を浮かべながらも空中で体勢を立て直すと、地面を滑りながらライガの近くまで後退してくる。


「はぁ、はあぁ……やはり、この程度では倒せぬか……」


「おい、大丈夫かよッ……」


「両腕の氷を盾にすることで、何とか致命傷は免れた形じゃの……コレが無かったら、丸焦げじゃったろうな……」


 リエルの両腕を覆っていた氷拳は解けて跡形もなく消失していた。


 触れるものを氷結させ、瞬時に破壊していく氷拳を持ってしても、炎虎を倒すことは出来ず、改めて眼前に立ち塞がる魔獣の力に慄くライガとリエル。


「まだ戦えるんだろ?」

「……当然じゃ」


 ライガの言葉にリエルは再び立ち上がる。


 未だ、立ち塞がる炎虎にはダメージを与えることが出来ていない。

 しかしそれでも、ライガたちは諦める訳にはいかない。


 灼熱の炎包む異形の大地での戦いは、静かに激しさを増して終局へと突き進んでいく。

桜葉です。

次回もよろしくお願いします。

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