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病んだ奴らの短すぎる小説

病んでる彼女の彼氏

作者: もみじ

病んでる彼女の彼氏


彼女と賃貸アパートで同棲中。仕事を終えて、すっかり暗くなり、明かりは街灯と住宅から溢れる電気のみ。人気のない帰り道を歩きやっと自宅に着いて、ドアを開けようとドアノブに手をかけた。けど、俺は開けなかった。中から彼女の奇声と物が壊されていく音が耳に入ったからだ。おー、今日はこの日か。


もうすっかり慣れたものだ。彼女が完璧でない事。調子が悪い時がある事。最初こそ驚いた。なんせ、部屋の中で台風でも起きたのかって状態になるまで彼女は狂い暴れる。気が回らない俺は、どうしたの?とか、何があったの?とか、そんな紳士的な対応もできず、ただぽかんとしただけだったっけ。よく分からなくて、取り敢えず片付けをした気がする。彼女の不完全な部分を知った次の日、「優しいね」って褒められたっけ。別にジェントルマンにならなくたって良いんだな、ってちょっとほっとした。


彼女が完璧で無ければ、俺だって完璧じゃない。だから、俺は彼女に理想を求めない、彼女は今の俺で良いと言う。俺の事を冷たいという人間もいる。どうして彼女を慰めようとしないのか、2度と苦しまないように対策や原因の追究をしないのか。正義感の塊の様な奴らはそう聞いてくる。彼女がそれで良いと言うから、という理由では納得してくれない。だったらどうしろって言うんだ。彼女自身が何も求めてないというのに。求めてない事をされたところで、何になるのか。押し付けがましいのは嫌いだ。いつの間にか、全てを知らない第三者に何か求めるのも面倒になって、彼女の事は誰にも話さなくなった。


部屋の中がいつの間にか静かになっていた。もう入っても大丈夫な頃だ。部屋を開ければ彼女の肩がピクッと反応して、俺の存在に気付いたと知らせた。彼女は振り返ってくれない。おかえりの挨拶も無かった。別に怒ってないのにな。彼女は良い人だ。だから罪悪感にでも支配されているのだろう。別に良いのに。何も気にしてないのに。俺だって物を壊したくなる時はある。やりきれない事だって沢山ある。生きる目標だってこれといって無い。飼犬が死んでも家族で俺1人だけ泣かなかった。道端で人が倒れても、どうして良いか分からないから近寄らない。子供は煩いから嫌い。


君を許すのは俺が出来損ないでいられるから。


最低なのは俺なのかもしれない。彼女のこういう部分を見て、本当は安心したんだ。不完全なのは俺だけじゃない、彼女もそうだって。多分、見下している。自分の彼女を上から見てる。でも、この位置は心地良い。だから、君はこのままで良い。寧ろ、このままで居て欲しい。俺は彼女を後ろから抱きしめて、頭を撫でてやった。彼女は泣いていた。俺の事を優しいとでも思っているのか。こんな事で褒めてもらえるなら、何度でもしてあげる。


さ、一緒に片付けでもしようか。そうすれば、君は「お寿司でも食べに行こうか」って言ってくれるんでしょう?



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