Prologue
思えば、全ては破綻していた。
流れる水の音。停滞している世界の中、それだけはゆっくりと動いているように感じる。
目も、耳も、全ての五感が消え去ったというのに、それだけは感じ取れる。
静かだった。自らの肉体すら存在しない完全なる暗闇。それは恐ろしく、しかし安らぎを感じる。
手・・・そう感じられる何かをゆっくりと動かせば見えない壁に覆われていることが判る。
手・・・なのかどうかはわからない。今となっては既にどうでもいい事なのかもしれない。
何もかもが終わっている。いや、始まっても居ないのか。曖昧な自意識と肉体の境界線。
溶け合っていくような緩やかな時間の中、繰り返し思い出す景色がある。
あの日、あの時、僕に一体何が出来たのだろう?
無限に続くような停滞した時間の中、繰り返し続けた後悔。
今でも強く覚えている。生臭い血のにおいも、振り上げた狂気の重さも。
だから僕はきっと忘れない。そして思い出し続けるのだろう。
何度でも繰り返し、繰り返し・・・・。
暗闇の中、誰かが僕に微笑みかけている。
きっと時間は止まらないのだと、彼女は僕に告げている気がした。
Noise
自分が目にした事もない景色を思い浮かべる。
その物語には二人の人物が出てくる。そして彼らは僕の中で語る。
少年は自らの因果と追い求める背中を捜し、血に染まった道を歩み始める。
青年は自らの正義と追い求める友人を探し、闇に暮れた道を歩み始める。
そして僕は眠り続ける。目覚める事も無く、終わる事も無く。
ただ静かに、世界を見守っていた。




