23.エピローグ
「何とか丸く納まったみたいだね」
次の日、二人で一緒に出社した私と一条課長を見て。
上田さんが、呆れた顔で言った。
入口に立つ私たちの周りに、一課の皆さんが集まってる。
「やーホント、良かった!一時はどうなることかと……」
ホッとしたような顔で笑う井上さん。
「そうですか?私としてはお互いが意識してるのがモロ分かりで、じれったくて仕方ありませんでしたが」
そんな井上さんに、若月係長が首を傾げる。
「そーそー、課長なんて避けられて落ち込んじゃってさー。見ててウザったいったらなかったよ」
「和希は、いざってとこでヘタレるから」
苦笑するように言う上田さんと、追い打ちをかけるような北村さんの言葉。
「そうですね。絶対逃げられないように外堀をがっちり埋めておかないと行動にも移せない上に、実際に嫌われたかも知れないとなったら途端に怖くなって逃げ腰になるなんて――、ヘタレ以外の何者でもないですね」
「お前らな……」
締めくくる若月係長に、私の隣に立つ一条課長がガクリと項垂れた。
やり込められる一条課長の姿が意外で、唖然としてしまう。
そんな私の様子に気付いた若月係長が、笑う。
「貴女がここのドアを開けた瞬間から、こうなることは既に確定してたんですよ」
その言葉に、力なく苦笑した。
そんな私に、井上さんたちがさらに笑って。
フロアの中に笑い声が響く。
と。
「……好き勝手、言ってくれるじゃないか……?」
ふいに私の横で、項垂れたままの一条課長から声が発せられた。
低いその声に、私に向けられた声じゃないのに思わず肩が跳ねる。
ゆっくりと一条課長が顔を上げる寸前。
「さて!スッキリしたところで、今日の業務を始めよっか!」
そんな上田さんの声を合図に、皆が一斉に持ち場に戻った。
(はや……っ)
蜘蛛の子を散らすような変わり身の早さに唖然として、思わず隣にいる一条課長を見る。
すると、似たようなタイミングで一条課長もこっちを向いて。
驚いた顔をしてる一条課長と目が合った。
きっと、私も同じ表情をしてるだろう。
そう思ったら、何だか可笑しくて。
バッチリと合ったお互いの顔に、笑みが漏れた。
一条課長もそんな私に、ふ、と微笑んで。
「若月、昨日の会議の報告はどうなってる?」
私の肩をポンと叩いて、自分のデスクに向かって行った。
そして私も――、
「上田さん、纏めるよう言われてた資料なんですけど――」
用意周到な包囲網。
二重、三重に張り巡らされた網に気付かないうちに引っ掛かって。
気付いた時には、もう遅い。
絡め取られて。
「ああ、そうだ。里中、今日の昼は空けとけよ?」
「はい?何かあるんですか?」
「――俺の親と顔合わせ兼ねて食事するから」
「え!?」
「――逃げられると思うなよ?」
完全降伏、するしかない。
END.




