10.外回り②
「今日の交渉、お前がやれ」
一条課長についての外回り中。
通された取り引き先の会議室で相手が来るのを待っていると、唐突に一条課長が言った。
「え……!?む、無理!無理ですよ……っ!」
唐突過ぎる言葉に驚いて、隣を見る。
一条課長は何ということもなさそうに平然と、書類を読むために下を向いていた顔を上げて私を見返した。
「今日の相手との契約内容は覚えてるだろ?」
「それは……、覚えてきました、けど……」
でも、突然そんなことを言われても。
「なら、無理って言うな。やれるって言え。やる前から出来ないって決めつけるな」
真っ直ぐに私を見詰めて、課長が言う。
そう言って貰えるのは嬉しい。
「でも……」
どうしても、不安と戸惑いが大きくて頷けないでいる私に、一条課長が言葉を重ねた。
「何も全部一人でやれとは言ってない。隣にいて、マズそうならフォローしてやるから。――やってみろ」
力強い一条課長の目に、射貫かれる。
その瞳に、言葉に、後押しされて、ゆっくりと頷く。
「……はい」
「よし。任せたぞ」
その私の言葉に、一条課長は満足そうに口角を吊り上げた。
◇◇◇◇◇
「ま、多少フォローは必要だったが、初めてにしちゃ上出来だ」
会社へ戻るために助手席に乗り込んだ私に、開口一番、一条課長が言った。
その言葉に驚いて、一条課長の方に顔を向ける。
すると。
「――頑張ったな」
そう言って、課長は私の頭をくしゃりと撫でた。
「――っ」
今日の交渉、はっきり言って“上出来”とは程遠かったと思う。
まだまだ半人前だ。
だけど。
――「頑張ったな」
その一言で、異動してからの頑張りが認められたような気がして。
動き出す車の中、緩む頬は抑えられそうもなかった。




