1.七月人事
[人事異動のお知らせ
平成2*年7月1日付で下記の通り、人事異動が発令されました 。
記
氏名:――
旧所属:―― → 新所属:――
氏名:――
旧所属:―― → 新所属:――
氏名:――
旧所属:―― → 新所属:――
氏名:里中 咲月
旧所属:企画三課 → 新所属:営業一課
氏名:――
旧所属:―― → 新所属:――
以上。]
◇◇◇◇◇
人間、向き不向きって、あると思う。
七月の人事で、入社当初から今までいた企画部から営業部に回されることになった。
営業部は社の中でも、言わずと知れた花形部署。
会社の業績に直接影響してくる部署だし、周りからも憧れと羨望の眼差しで見られてる。
だから、これは一種の栄転と言ってもいいんだろう。
それは分かってる。
分かってるけど。
(そんな部署に何だって私が……)
どんよりとした気持ちで、辞令が出てから何度も自問したことを繰り返す。
営業の仕事と言えば、商品の売り込み、顧客の開拓、コストの相談……。
対人コミュニュケーションが苦手というか、物事に対して押しが弱い自覚のある私としては、行きたくない部署トップ3に入るわけで。
(胃が痛い……)
渡された辞令の紙を見ながらキリキリと今にも痛み出しそうな胃に、そっと手を添えた。
昨日の六月末日まで、私が配属されてたのは企画三課という課で。
言っては何だけど、企画三課って、私以外は20代の子が一人もいない、他は40代以上のおじさん、おばさんで占めてる会社の中でも隅っこの隅っこにあるような課なのに。
入社当初からその課に配属されちゃったような私が?
いきなり営業部?
(むり。ムリ、ムリ、無理)
心の中、何度も首を振る。
しかも、一課と二課に分かれてるこの会社の、一課の方だなんて……っ。
営業一課。
その課は、噂話に疎い私でさえ知っている――社内のアイドル集団の巣窟だ。
営業一課のメンバーは、たった五人。
その五人全員が、種類の差こそあれ、見目麗しいと称されるほどの美しい人たちだ。
そして、見た目の美しさだけではなく、実力も高い。
大型の契約もバンバン取って、当然のように社内の業績はトップ。
まさに少数精鋭という言葉がピッタリなエリート中のエリートが集う課だ。
そんな課に、今日から私が配属――。
(なおさら無理……!)
とは、思うものの。
すでに決定された人事を、単なる平社員の一人でしかない私が覆せるわけもなく。
結局は、来てしまった営業一課フロアのドアの前で、項垂れるしかなかった。