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あやかし代行稼業の落ちこぼれ〜使い魔の鬼の子に過保護に愛されています〜  作者: 水都ミナト@12/10『転生幼女』②巻配信
第一章 代行稼業と迷い猫

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結衣と亜衣②


 帰り道、結衣の足取りは重かった。

 ようやく、宝月の人間として初めて大きな依頼への参加が叶うと思った。けれど、やはり結衣は不要だったのだ。



「結衣。少し遠回りをして帰らないか? 今日は冷えるが空が高くて星が綺麗に出ている」



 俯き、足を引き摺るように歩く結衣を見かねた鬼丸が提案した。鬼丸なりに結衣を元気付けようとしているのだ。彼の不器用な優しさが乾いた心に潤いを与えてくれる。



「そうね。こんな時間に散歩する機会もないものね。今日の依頼は時間がかかるでしょうし、帰りが遅くなっても誰にも咎められないわ」



 立ち止まり、空を見上げる。鬼丸の言う通り、空気が澄んでいて星の瞬きが美しい。


 ようやく気持ちが浮上した結衣は、鬼丸と並んで気の向くままに夜道を歩いた。



「あれ?」



 等間隔に並ぶ街灯が照らす夜道の先に、見知った人影を捉えた。結衣と鬼丸は顔を合わせると、駆け足でその人の元へと向かった。



「安田のおばあちゃん? こんな時間にどうしたの?」


「ああ、結衣ちゃん。それに鬼丸ちゃんも」



 キョロキョロと不安げに軒下や塀の裏を覗き込んでいたのは、先日依頼を受けたばかりの民代だった。結衣と鬼丸の顔を見て安心したのか、民代は胸に手を当てて息を吐いた。



「いやね、実はタマが帰って来なくてねえ……もう三日になるんだよ。何かあったんじゃないかと心配で探しているの」



 タマというのは民代が飼っている三毛猫のことだ。民代の膝の上が定位置で、よく二人揃って縁側でまどろんでいる姿を目にする。タマはたまにふらりとどこかへ出かけることはあるが、決まって日が沈む頃には民代の元へと帰ってくる。それが三日も戻らないとなると、事故や事件に巻き込まれたのではないかと不安になってとうとう夜の街に繰り出してタマを探し始めたようだ。



「おばあちゃん、一人じゃ危ないよ。うちに依頼してくれたらいいのに」



 結衣は民代の背に手を添えながら、すっかり冷たくなった手を握る。



「そうさねえ。今夜見つけられなければ、結衣ちゃんたちにお願いしようかと思っていたのよ。まさか依頼前に見つかっちゃうなんてねえ」



 民代は困ったように眉を下げつつも、素直に白状した。



「そっか。ここで会ったのも何かの縁だよ。一緒にタマを探そう」


「そうだな。婆さんまで迷子になったら大変だしな」


「こら、鬼丸。失礼だよ」


「ふふっ、いいのよ。鬼丸ちゃんの言う通りだもの。二人とも、ありがとうねえ」



 こうして出会ったのも何かの縁。結衣と鬼丸は民代と一緒にタマの行動圏内を隅々まで探索した。



「いないねえ」


「どこに行っちゃったんだろう」


「……婆さん、タマが数日戻らないのは初めてなのか?」



 結衣や民代が入れない狭い小道から出てきた鬼丸が、神妙な顔をして民代に問うた。



「いんや。流石に三日戻らないのは初めてだけど、一晩戻らないことは偶にあるねえ」


「そうか。よし、次はあっちを探すぞ」



 思い返すように顎を撫でながら答えた民代を流し見て、鬼丸はまだ捜索していない道を指差した。民代がそちらへ向かい、結衣もあとに続こうとしたが、鬼丸が手招きしていることに気がついた。



「? どうしたの」



 呼ばれるままに結衣が腰を落として鬼丸に耳を差し出す。民代に聞かれると困ることでもあるのだろうか。



「恐らくだが、このまま探していてもタマは見つからんぞ」


「え? どうして? そんなに遠くに行っちゃったの?」



 鬼丸の言葉に驚き、思わず大きくなった声を慌てて落とす。幸い、民代には聞こえなかったようだ。彼女は少し先を歩きながらタマの姿を探して周囲を見回している。



「この辺り、僅かだが隠世(かくりよ)の気配がする。きっとどこかに向こうに通じる綻びがあるんだ。今お前の妹が対峙しているあやかしも、元はと言えば境界の綻びから迷い込んだのだろう」



 鬼丸の言う通り、亜衣が神社で対応しているあやかしが通ってきたであろう境界の綻びは、すでに宝月の捜索により発見されている。今日、あやかしを隠世(かくりよ)に送り返した後、その綻びは閉じられることになっている。



「え……じゃあ、今日の依頼が終わったら、タマは戻って来られなくなっちゃうの!?」


「いや。恐らくだが、タマが迷い込んだのは他の小さな綻びだろう。それこそ、猫が一匹通れるほどの。ふむ……小さな綻びを見つけるのは骨が折れるな」



 ガシガシと頭を掻く鬼丸は、足早に民代を追うと隣に並ぶ。



「婆さん。タマが最近一番よく出入りをするのは何処だ?」


「うーん、そうさねえ……魚屋の絹さんのところか……ああ、うちの裏手の公園。そこにお地蔵様がいらっしゃるんだけどねえ、最近よくその辺りをうろついているところを見かけるねえ」



 どちらも既に捜索済みで、タマは見つからなかった。



「なるほど。地蔵のあたりが怪しいな」



 鬼丸は、顎に手を当ててしばし考え込んだ。そしてパッと顔を上げると、結衣と民代に指示を出した。



「今夜はこれ以上探してもタマは見つからんだろう。明日の夕方、逢魔時に地蔵の前に集合だ。婆さんはタマの好物かお気に入りの玩具を持って来てくれ」


「好物かおもちゃだね。分かったよ」



 タマが見つからずに不安だろうに、民代は鬼丸を信じて頷いてくれた。結衣も同様に頷きを返すと、パチンと小さく手を打った。



「よし、じゃあ安田のおばあちゃんを家まで送って、私たちも帰ろっか」


「そうだな」



 こうして結衣と鬼丸は、民代を家まで送り届けると、宝月家へと帰宅した。二人だけ母屋の面々よりも早くに帰宅したことに、時子は驚いた様子だったが、深くは尋ねずに熱い湯を沸かしてくれた。


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