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〜王都で虐げられた私が魔法商会を支配する〜  作者: レノスク


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29章 流れ

異変は、同時に起きた。

 倉庫街の東。

 市場裏の細道。

 旧水路沿いの空き区画。

 どれも小規模。

 どれも致命的ではない。

 だが、時間が揃いすぎている。

「三件、ほぼ同時刻」

 カイルが報告をまとめる。

「荷の破損、作業員への威嚇、通行妨害。

 怪我人は出ていない」

「出さないようにしてる」

 エリナは地図を見下ろす。

「これは“事故”の形をした圧力だ」

 派手な暴力ではない。

 評議会が動くほどの被害でもない。

 だが、積み重なれば物流が止まる。

 街は、静かに締め上げられる。

 市場裏。

 倒れた木箱を起こしながら、年配の商人が吐き捨てた。

「最近は、ついてねぇ」

 原因は分からない。

 だが、連続して起きると、人は考える。

 ——ここは危ない。

 ——別の場所に移ろう。

 噂は、刃より速い。

 夕方。

 評議会からの連絡は、短かった。

「現時点では、自然発生的な混乱と判断」

 ギルバートの声は冷静だ。

「巡回範囲の拡張は検討中ですが、即時対応は——」

「遅い」

 エリナは言った。

「これを放置すれば、倉庫街は自壊する」

「被害が数値化されれば」

「その時には、もう戻らない」

 一瞬の沈黙。

「……ご理解ください」

 それで終わりだった。

 夜。

 拠点の一室。

 アーロンが腕を組む。

「向こうは、街を人質にしてる」

「しかも、表のルールを守りながら」

 トーマが苦く笑う。

「嫌なやり方だ」

 エリナは答えない。

 代わりに、倉庫街で働く人々の名簿を広げた。

「被害に遭った場所の共通点は?」

 カイルが視線を走らせる。

「……外部商会と直接取引してる所」

「ルーヴェルと距離を置いた倉庫だ」

「つまり」

 エリナが言う。

「選別が始まってる」

 従う者。

 従わない者。

 その線引き。

 翌日。

 一人の荷運びが、拠点を訪れた。

 若い。

 だが、目は落ち着いている。

「……話を聞いてくれるか」

 エリナは頷いた。

「昨日、声をかけられた」

「誰に?」

「分からない。

 顔は隠してたが……言われた」

 彼は言葉を選びながら続ける。

「“余計な巡回が続くなら、仕事が減る”って」

 脅しでも、命令でもない。

 “忠告”。

「断ったら?」

「笑ってた」

 それが、一番厄介だ。

 同じ頃。

 ルーヴェル商会、地下。

「やりすぎでは?」

 部下の一人が言った。

「まだだ」

 ガルドは即答する。

「これは確認だ」

「何の?」

「——どこまで耐えるか」

 正面から潰す気はない。

 今は。

 評議会が動かない限り、

 こちらは“事故”の範囲で揺さぶれる。

「合法を信じる連中ほど、折れやすい」

 ガルドはそう判断していた。

 夜。

 倉庫街中央。

 灯りの下で、作業が止まっていた。

「今日は、ここまでだ」

「明日、様子を見よう」

 小さな判断の積み重ねが、流れを変える。

 エリナは、その様子を屋根の上から見ていた。

「……待ってるだけじゃ、負ける」

 誰に言うでもなく呟く。

 合法の刃は、

 振らなければ意味がない。

「次は、こちらから仕掛ける」

 だがそれは、

 完全に表の線を越えない形で。

 評議会が動かざるを得ない状況を、

 作るしかない。

 裂け目は、もう入っている。

 あとは、どちらが先に踏み込むか。

倉庫街の朝は、早い。

 日の出前から、人は動き始める。

 荷車の軋む音。

 帳簿をめくる音。

 合図の笛。

 だがその朝、音は揃っていなかった。

 止まる場所と、動く場所が、はっきり分かれていた。

「……回ってないな」

 アーロンが低く言う。

 中央通りは静かだ。

 一方で、脇道の小倉庫には人が集まっている。

 自然発生ではない。

「誘導されてる」

 カイルが頷く。

「誰かが、“安全な流れ”を作ってる」

 エリナは地図を取り出した。

 昨夜、引いた線。

 物流、契約、人員。

 それらが、今まさにその通りに動いている。

 仕掛けは、単純だった。

 まず、契約の再確認。

 倉庫街で扱われる荷の多くは、

 慣習的な取り決めで動いていた。

 曖昧。

 口約束。

 帳簿だけの信用。

 そこに、エリナは手を入れた。

「確認書を出す」

「条件は?」

「変更なし。

 ただし、責任の所在を明確にする」

 それだけ。

 だが、それだけで、

 “事故”を好む連中は距離を取る。

 次に、人。

 巡回に協力した作業員。

 情報をくれた荷運び。

 彼らを、目立たない形で別動線に配置した。

 報酬は、少しだけ上乗せ。

 理由は、説明しない。

 人は、守られる場所に集まる。

 三つ目は、評議会。

 エリナは直接交渉しなかった。

 代わりに、数字を送った。

 稼働率。

 損耗率。

 事故頻度。

 巡回区域内と外。

 差は、明確だった。

「これは……」

 評議会の事務官が、眉を寄せる。

 誰も非難していない。

 誰も要求していない。

 だが、数字は嘘をつかない。

 結果は、昼前に現れた。

 商人たちが、動線を変え始めた。

「今日は、あっちを通ろう」

「管理がしっかりしてる」

 誰も“脅された”とは言わない。

 ただ、合理的に判断しているだけだ。

 午後。

 倉庫街の外れ。

 ガルドは、報告を聞いて沈黙した。

「流れが、逸れてます」

「……数字か」

 ガルドは舌打ちする。

 暴力では、止められない。

 合法。

 合理。

 選択。

 どれも、こちらが否定できない。

「評議会は?」

「静観です」

 それが、一番腹立たしい。

「……やはり、直接だな」

 ガルドは立ち上がった。

「“象徴”を折る」

 街の流れではない。

 それを作っている存在。

 夕刻。

 拠点に戻ったエリナは、違和感を覚えた。

 静かすぎる。

「……来る」

 そう言った瞬間。

 外で、何かが倒れる音。

 警戒。

 だが、襲撃ではない。

 運ばれてきたのは、一通の書簡だった。

 封はない。

 署名もない。

 だが、内容は明確。

 ——話がしたい。

 ——今夜。

 ——条件は、対等。

「……出てきたな」

 アーロンが呟く。

 エリナは、紙を折った。

「ようやく、表に」

 街の流れが変わったことで、

 隠れていられなくなった。

 それだけの話だ。

 だが、この“対話”は、

 交渉では終わらない。

 ここから先は、

 誰が主導権を握るかの勝負になる。

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