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〜王都で虐げられた私が魔法商会を支配する〜  作者: レノスク


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26章 頭脳戦

三日後。

 王都の空は高く、雲一つない。

 だがその青は、エリナの目にはどこか薄く、張り付いたように見えた。

 拠点の一室。

 契約書は机の中央に置かれ、誰も触れていない。

 時間だけが、確実に削られていく。

「期限は今日の正午」

 トーマが淡々と告げる。

「評議会は、もう動いてる」

 カイルの言葉に、全員が理解していた。

 すでに警備隊の巡回は減っている。

 取引許可の確認が、複数の商人に入った。

 噂も流れている。

 ——倉庫街は、また危険になるかもしれない。

 エリナは椅子に深く腰掛け、視線を天井に向けた。

 前の敵なら、ここで強行突破した。

 怒りを力に変え、正面から叩き潰した。

 だが今回は違う。

「……受ける」

 その一言に、誰も驚かなかった。

「ただし」

 エリナはゆっくりと身体を起こす。

「“全部”は渡さない」

 マリスが、わずかに口角を上げた。

「表の顔は従順。

 裏は、こちらの戦場」

「そう」

 エリナは頷く。

「鎖を差し出されたなら、

 まずはその重さと長さを知る」

 その日の正午。

 王都管理評議会に、正式な受諾書が届けられた。

 指定商会――

 ルーヴェル商会。

 王都南区に本店を構える、老舗の流通業者。

 外観は整い、倉庫は清潔。

 従業員の動きは統制され、帳簿も一見すると完璧だった。

 だが。

「裏口が多すぎる」

 アーロンが低く言う。

「倉庫に対して、出入りの経路が不自然だ」

 エリナたちは“視察”という名目で、堂々と商会を訪れていた。

 契約上、正当な権利だ。

 出迎えたのは、商会長代理を名乗る男だった。

「これはこれは。

 お噂はかねがね」

 丁寧すぎるほどの態度。

 笑顔は貼り付けたように一定。

「今後は、良きパートナーとして」

 その言葉に、エリナは微笑み返す。

「こちらこそ」

 ——表の顔。

 倉庫の中。

 木箱の配置。

 荷札の番号。

 作業員の手つき。

 すべてが“正規”の範囲に収まっている。

 だが、カイルの目は細部を逃さない。

「……二重帳簿」

 彼は心の中で呟いた。

 番号の流れが、わずかにズレている。

 正規ルートと非正規ルートが、同じ倉庫内で交差している。

 しかも、その境界が意図的に曖昧だ。

「ここを通った物は、

 どちらにも行ける」

 つまり。

「責任の所在を、常にぼかせる」

 マリスが小声で言う。

 視察の最中、エリナは“偶然”を装って問いかけた。

「警備は、どこが担当しているの?」

「表は王都警備隊。

 裏は……」

 商会長代理は、一瞬だけ言葉を濁した。

「信頼できる外部の方々です」

 その瞬間。

 倉庫の奥から、重い足音が聞こえた。

 姿を現したのは、数人の男たち。

 体格が良く、動きに無駄がない。

 剣も棍棒も、装飾のない実用品。

 ——暴力担当。

 彼らは視線だけで、こう告げている。

 余計なところを見るな。

 エリナは、その圧を正面から受け止め、視線を逸らさなかった。

「安心したわ」

 そう言って、微笑む。

「安全そうで」

 男たちは何も言わず、奥へと引いた。

 商会長代理は、ほっとしたように息を吐く。

「では、今後の流通比率ですが……」

 交渉は滞りなく進んだ。

 表向きは。

 拠点に戻った夜。

 灯りを落とした一室で、仲間たちは集まっていた。

「完全に黒だな」

 アーロンが言う。

「しかも、評議会と裏社会が直結してる」

 トーマが帳簿を叩く。

「でも、証拠がない」

 それが最大の問題だった。

 評議会は“仕組み”だ。

 暴力を振るう必要がない。

「だから——」

 エリナは静かに言った。

「“一度”、彼らの流れに乗る」

 全員が顔を上げる。

「指定通りに流す。

 指定通りに運ぶ。

 指定通りに黙る」

 その言葉だけを聞けば、完全な屈服だ。

 だが、エリナの目は冷えていた。

「その代わり、

 全部、見せてもらう」

 沈黙。

 そして、理解。

 鎖を受け取る。

 だが、それは繋がれるためじゃない。

 引きずり出すためだ。

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