第24章 勝者は、語らない
王都は、すぐには変わらなかった。
だが――
確実に、変わり始めていた。
「監査制度の見直し、ですか?」
議会事務局で、
若い書記が目を丸くする。
「はい」 議長は、淡々と答えた。
「裁量の明文化」 「第三者監査の義務化」
「“疑義”という言葉の」 「定義も、明確にする」
「……かなり、大きな改革ですね」
「だからこそ、今やる」
議長は、
書類を閉じた。
「歪みは」 「放っておくと、次を生む」
一方。
地方商会連合。
小さな会議室に、
静かな熱が満ちていた。
「……正式、ですか」 「王都常設枠の、再割り当て」
「ええ」 エリナは、頷く。
「しかも」 「地方商会連合として」
代表たちが、
言葉を失う。
「一社じゃない……」
「“連合”として、だ」
「独占は、しません」 エリナは、はっきり言った。
「回します」 「支え合います」
「それが」 彼女は、ゆっくり続ける。
「今回」 「私たちが、生き残れた理由だから」
誰かが、
小さく笑った。
「……敵にしたら」 「一番、嫌なタイプだな」
「味方なら?」 トーマが、冗談めかして言う。
「これ以上ない」 「安心だ」
その答えに、
会議室が、穏やかに笑った。
王都北区。
あの男の館は、
静まり返っていた。
「……以上です」 報告を終え、
部下が頭を下げる。
「職務停止」 「関係文書、押収」
「……そうか」
男は、
ゆっくりと目を閉じた。
「私の名前は?」
「……表には」 「出ていません」
「なら」 男は、
小さく息を吐いた。
「まだ、終わりじゃない」
だが。
彼は、理解していた。
もう“自由”には動けない。
その頃。
エリナは、
港を歩いていた。
「……静かですね」 トーマが言う。
「ええ」 彼女は、微笑む。
「騒がない勝利は」 「長く、残る」
船が出る。
荷が動く。
商人たちが、
普通に、仕事をする。
それが。
一番の勝利だった。
数ヶ月後。
王都の市場は、
以前よりも、少しだけ広くなった。
物の話ではない。
選択肢の話だ。
「地方商会の商品」 「品質、いいらしいな」
「価格も、安定してる」
そんな声が、
当たり前に聞こえる。
エリナ商会。
新しい帳簿が、
机の上に積まれていた。
「……忙しいですね」 トーマが、笑う。
「ええ」 エリナは、頷いた。
「でも」 「嫌じゃない」
「前より」 「ずっと、いい顔してます」
「そう?」
彼女は、
窓の外を見る。
「昔は」 「奪われないために」 「必死だった」
「今は?」
「選ぶために」 「動いてる」
それだけで、
十分だった。
港。
船が、
ゆっくりと離岸する。
王都は、
相変わらず複雑で、
不公平で、
面倒な場所だ。
でも。
一つの歯車は、確かに噛み合った。
誰かを叩き潰すためじゃない。
誰かの上に立つためでもない。
ただ。
正しく商うために。
エリナは、
歩き出す。
迷わず。
振り返らず。
この世界で、
自分の選択を、
選び続けるために。




