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〜王都で虐げられた私が魔法商会を支配する〜  作者: レノスク


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21/27

第21章 正義の名を借りた刃、そして正しさが焦りに変わる時

それは、朝だった。

 あまりにも静かで、

 あまりにも“正しかった”。

「王都監査局より」 「臨時検査に参りました」

 そう名乗った男は、

 整った制服に、整った表情。

 声には、

 一切の感情がない。

「臨時、ですか?」  トーマが問い返す。

「はい」  男は即答した。

「最近」 「物流に関する動きが」 「活発になっておりますので」

 “活発”。

 言い換えれば。

 想定外。

「対象は?」  エリナが、静かに問う。

「地方商会連合」  男は、名簿を開いた。

「全社です」

 会議室に、

 重い沈黙が落ちる。

「……理由は?」

「定期監査の前倒し」 「そして」

 一拍。

「不正防止のため」

 否定しづらい言葉。

 正論。

 誰も、

 真正面からは逆らえない。

「協力いたします」  エリナは、即座に答えた。

「必要な資料は」 「すべて提出します」

 男は、

 わずかに眉を上げた。

「理解が早い」 「助かります」

 だが。

 彼の目は、

 すでに“探す側”の目だった。

 監査は、徹底的だった。

 帳簿。

 契約書。

 輸送記録。

 そして――

 地方港での取引履歴。

「……この港は」 「正式な王都指定港ではありませんね」

「ええ」  エリナは、頷く。

「規則上」 「使用に問題はありません」

「ですが」  男は、淡々と続ける。

「監査基準は」 「王都基準で行います」

 トーマが、

 思わず口を挟む。

「それは……」

「合法です」  男は、即答した。

「臨時監査ですから」

 逃げ道は、ない。

 一方。

 王都・北区。

「始まったか」  あの男が、報告を受けて頷く。

「ええ」  部下が答える。

「監査は」 「王都基準で」

「地方港の粗は」 「必ず、出ます」

「いい」  男は、椅子に深く腰を下ろす。

「罰する必要はない」

「“是正勧告”でいい」

「……勧告、ですか?」

「そうだ」

「改善期間を設け」 「物流を一時停止させる」

「それだけで」 「十分、死ぬ」

 彼は、

 確信していた。

 商人は、止まれば終わる。

 その夜。

 リュンデル港。

「……厳しいですね」  地方商会代表の一人が、唇を噛む。

「倉庫の基準」 「書類の様式」 「全部、王都仕様だ」

「直すには」 「時間が……」

「時間は」  エリナが、静かに言う。

「与えられない」

 視線が、集まる。

「監査官の狙いは」 「罰じゃない」

「“止めること”」

「じゃあ……」

「止めない」

 エリナは、

 迷いなく言った。

「……どうやって?」

「監査官は」 「王都基準で見ている」

「なら」 「王都基準の倉庫を用意する」

 一瞬。

 理解が、追いつかない。

「……新しく、ですか?」

「いいえ」  エリナは、首を振る。

「もう、ある」

 彼女は、

 ある書類を取り出した。

「王都港の再編で」 「使われなくなった倉庫」

「形式上は」 「空き物件」

「まさか……」

「ええ」

「短期賃借で」 「押さえます」

 トーマが、

 息を呑む。

「それは……」 「相手の“庭”ですよ」

「だから、いい」

 エリナの声は、

 驚くほど冷静だった。

「相手は」 「私たちが」 「地方に留まると思っている」

「でも」 「私たちは、戻る」

「しかも」 「規則通りに」

 翌朝。

 監査官のもとに、

 追加資料が届いた。

「……王都港倉庫?」 「使用再開、だと?」

「はい」  部下が答える。

「合法です」 「書類も、完璧です」

 男は、

 初めて言葉を失った。

「……物流は?」

「止まっていません」 「むしろ……」

「分散されています」

 その報告を受けた

 北区の男は。

「……ちっ」

 小さく、

 舌打ちをした。

「監査で」 「止まらない、だと?」

 彼は、

 ようやく理解する。

 彼女は、規則を“読む”側だ。

 エリナは、

 王都の倉庫前に立っていた。

「……戻ってきましたね」  トーマが言う。

「ええ」  彼女は、頷く。

「でも」 「ここからが、本番」

 監査は、

 まだ終わっていない。

 敵は、

 まだ手を隠している。

 だが。

 流れは、

 確実に変わり始めていた。

 正義の刃は、折れなかった。

 だが。

 致命傷には、ならなかった。


監査官――レイヴンは、苛立っていた。

 それは表情には出ない。

 声にも出ない。

 だが、

 報告書の行間が、荒れていた。

「……不自然だ」

 机の上に並ぶ書類。

 王都港倉庫。

 地方港倉庫。

 輸送ルートの分散。

 どれも――

 規則通り。

「止まるはずだった」  レイヴンは、小さく呟く。

「地方商会は」 「混乱して」 「どこかで、必ずミスをする」

「そう、教えられていた」

 だが。

 現実は違った。

「監査官殿」  部下が、慎重に声をかける。

「追加の違反は……」

「ない、です」

 一瞬。

 レイヴンの手が、止まる。

「……“ない”?」

「はい」 「書類、実地」 「すべて照合済みです」

 沈黙。

 長い、長い沈黙。

「……では」  レイヴンは、静かに言った。

「“疑義”を洗え」

「疑義、ですか?」

「そうだ」 「違反ではない」

「だが」 「“疑わしい点”だ」

 部下は、言葉を失った。

「……それは」

「監査とは」  レイヴンは、淡々と続ける。

「そういうものだ」

 一方。

 エリナ商会。

「……監査官の動き」  トーマが、眉をひそめる。

「変わりました」

「ええ」  エリナは、書類から目を離さず答える。

「“粗探し”から」 「“疑い作り”に、切り替えた」

「それって……」

「危険よ」

 彼女は、はっきり言った。

「事実より」 「印象を、重視し始めた」

 その日の午後。

「……確認ですが」  レイヴンが、帳簿を指す。

「この数量」 「記載が、二重に見えますね」

「見えるだけです」  トーマが答える。

「納品先が違います」

「……しかし」  レイヴンは、視線を細める。

「第三者が見れば」 「誤解する」

「誤解は」  エリナが、静かに遮る。

「説明で、解けます」

「説明で」  レイヴンは、微笑んだ。

「世の中が」 「動けば、いいのですが」

 その言葉に。

 トーマは、

 背筋が冷たくなる。

 同時刻。

 王都・北区。

「……監査官が」 「踏み込み始めました」

 報告を受け、

 男は、満足そうに頷く。

「いい」 「疑義で十分だ」

「商会は」 「“疑われた”だけで」 「信用を落とす」

「裁く必要はない」

「疑わせれば」 「勝ちだ」

 だが。

 その男は、

 まだ知らない。

 エリナは、

 その夜、静かに動いていた。

「……これを」  彼女は、一通の書簡を差し出す。

「誰に、です?」

「議会」

「えっ」

「正式な告発じゃない」

「照会よ」

「監査基準の運用について」 「第三者の見解を、求める」

 トーマの目が、見開かれる。

「それって……」

「ええ」  エリナは、頷く。

「監査官を」 「“正義の場”に、引きずり出す」

 翌日。

 監査官レイヴンの元に、

 一通の通知が届く。

「……議会?」

 紙を読む手が、

 わずかに震えた。

「監査運用について」 「説明を求める、だと?」

 部下が、恐る恐る言う。

「……上が」 「気づき始めた、のでは」

 レイヴンは、

 唇を噛んだ。

「……まずいな」

 正義の盾は。

 光に当たると、影が映る。

 そして。

 エリナは、確信していた。

 相手は、もう一線を越える。

 越えた瞬間。

 ――崩れる。

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