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〜王都で虐げられた私が魔法商会を支配する〜  作者: レノスク


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20/27

第20章 港で起きた、ありふれた問題と遠回りの真意

問題は、あまりにも“普通”だった。

「……港湾使用料が、上がった?」

 トーマが、書類を見つめたまま声を落とす。

「はい」  担当者が、淡々と答えた。

「正確には」 「“優先使用枠”の再編です」

 王都港。

 物流の心臓部。

 そして――

 誰が使えるかで、商会の生死が分かれる場所。

「再編って……」  トーマが、眉を寄せる。

「昨日まで」 「普通に使えてた枠ですよ?」

「ええ」  港湾管理官は、肩をすくめた。

「ですが」 「新規参入商会が増えまして」

「公平性のために」 「再調整を」

 エリナは、

 黙って話を聞いていた。

 そして。

「……確認ですが」

「この再編」 「地方商会だけが対象ですか?」

 一瞬。

 管理官の視線が、

 わずかに揺れる。

「……いえ」 「その、結果として」 「そうなっただけで」

 否定になっていない。

 港を出たあと。

「……偶然、ですか?」  トーマが問う。

「いいえ」  エリナは、即答した。

「でも」 「前回より、ずっと厄介」

「どういう意味です?」

「今回は」 「“正しい顔”をしている」

「規則」 「公平」 「再編」

「どれも」 「間違っていない」

 その日の午後。

 地方商会数社から、

 同時に連絡が入った。

「港の使用枠、減らされた」 「納期が、守れない」

「違約金が……」

 点が、線になる。

「……狙いは」  トーマが、唇を噛む。

「ええ」  エリナは、頷く。

「地方商会全体」

「一社ずつじゃない」 「まとめて、首を締める」

 一方。

 港湾管理局・上階。

「……動き出したな」  男が、窓から港を見下ろす。

「はい」  部下が、静かに答える。

「表向きは」 「単なる再編です」

「地方商会は?」 「反発しそうか」

「不満は出ます」 「ですが――」

「規則違反ではない」 「議会も、口出しできません」

 男は、

 満足そうに頷いた。

「いい」 「これでいい」

「彼女は」 「正面から来る」

「なら」 「こちらは、正論で殴る」

 同日夜。

 エリナ商会・会議室。

 地方商会代表が、

 集まっていた。

「これは……」 「どうする?」

「文句を言っても」 「通らんだろう」

 重い空気。

 エリナは、

 ゆっくりと口を開いた。

「焦らないでください」

「これは」 「“試し”です」

「試し?」

「ええ」

「私たちが」 「感情で騒ぐか」

「それとも」 「冷静に、次の手を打つか」

「……次の手は?」  誰かが、問う。

 エリナは、

 港の地図を広げた。

「港は」 「一つじゃない」

 代表たちが、

 目を見開く。

「まさか……」

「ええ」

「遠回りになります」 「利益も、下がる」

「でも」 「“止まらない”」

「相手は」 「遅延と違約金を」 「狙っている」

「なら」 「狙いを、外す」

 その夜。

 王都港。

 一隻の船が、

 静かに出航した。

 目的地は、

 王都ではない港。

 港湾管理局。

「……報告です」 「地方商会の荷が」

「別港へ」 「回り始めています」

 男の眉が、

 わずかに動いた。

「ほう」

「……想定より」 「反応が、早いな」

 男は、

 小さく笑った。

「だが」 「遠回りだ」

「必ず」 「音を上げる」

 その時。

 彼は、

 まだ気づいていなかった。

 遠回りは――

 逃げではない。

 布石だということに。

 港の灯りが、

 夜に溶ける。

 静かな水面の下で。

 次の一手が、確実に形を成し始めていた。


王都から半日。

 地方港――リュンデル港は、

 地図で見れば小さな点にすぎない。

 だが。

 船が接岸した瞬間、

 トーマは違和感を覚えた。

「……思ったより」 「人が、多いですね」

 荷役人夫が行き交い、

 倉庫の扉が忙しなく開閉されている。

「ええ」  エリナは、静かに頷いた。

「ここは」 「“王都に行けなかった商人”が」 「集まる場所」

「王都港の使用枠を取れなかった」 「貴族に嫌われた」 「政治に巻き込まれた」

「理由は様々」

「でも」 「共通点がある」

「……何です?」

「しぶとい」

 エリナは、微笑った。

 港湾事務所。

 年配の男が、

 帳簿をめくる手を止めた。

「地方商会、だと?」

「ええ」  エリナは、名刺代わりの書状を差し出す。

「王都で」 「少し、目立ってしまいまして」

 男は、鼻で笑った。

「“少し”か」

「王都港の再編」 「噂になっとる」

「よくもまあ」 「ここへ来る気になったな」

「ここなら」 「規則は、違いますか?」

「違うさ」  男は、即答した。

「王都ほど」 「整ってはいない」

「だが」 「縛りも、少ない」

 トーマが、

 小さく息を呑む。

「……使用枠は?」

「空いとる」  男は、帳簿を叩いた。

「ただし」

「安定は」 「保証せん」

「構いません」  エリナは、迷いなく言った。

「必要なのは」 「“今、止まらないこと”」

 その言葉に。

 男は、

 じっと彼女を見つめた。

 しばらくの沈黙。

 そして。

「……面白い」

「名前は?」

「エリナです」

「俺は、グレイ」 「この港の」 「管理を任されている」

「正式じゃない」 「肩書きもない」

「だが」 「港は、動かせる」

「なら」  エリナは、深く一礼した。

「お願いします」

 その夜。

 倉庫街。

 地方商会の荷が、

 次々と積み下ろされる。

「……本当に」 「回り始めたな」

 商会代表の一人が、呟いた。

「遠回りだが」 「止まってはいない」

「納期は?」 「間に合うのか?」

「ギリギリだ」 「だが――」

 エリナが、

 地図を指し示す。

「王都に直接は行かない」

「途中で」 「別の市場に、流す」

「……え?」

「王都だけが」 「売り場じゃない」

「今までは」 「そう“思わされていた”だけ」

 一同が、

 息を詰める。

「つまり……」

「ええ」  エリナは、頷いた。

「王都依存を、切る」

 一方。

 王都港湾管理局。

「……報告です」

「地方商会の荷が」 「王都を通らず」

「地方市場で」 「売れ始めています」

「何?」  男が、声を荒げた。

「数量は?」 「影響は?」

「王都向けの供給が」 「一部、減少しています」

 男は、

 歯を食いしばった。

「……想定外だ」

「遠回りすれば」 「必ず、利益が落ちる」

「それでも」 「動き続ける、だと?」

「しかも」  部下が、続ける。

「地方市場での価格が」 「安定しています」

「支持が」 「広がり始めています」

 男の脳裏に。

 あの夜の言葉が、

 よぎる。

――独占は、次の歪みを生む。

「……まずいな」

 彼は、

 初めて本気で思った。

 リュンデル港。

 夜明け。

 潮の匂いの中で。

「……成功、ですね」  トーマが言う。

「まだ、よ」  エリナは、首を振る。

「これは」 「“耐えた”だけ」

「相手は」 「次を、出してくる」

「でも」  トーマは、笑った。

「もう」 「一手、遅れました」

 エリナは、

 遠くの海を見つめる。

「ええ」

「次は」 「港じゃない」

 その言葉の意味を。

 この時点では、

 誰もまだ知らなかった。

 だが。

 王都では。

 別の場所で、別の歯車が、静かに回り始めていた。

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