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〜王都で虐げられた私が魔法商会を支配する〜  作者: レノスク


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17/27

第17章 口を開いたのは、内側の人間だったそして逃げ道は、もう残っていない

夜更け。

 エリナ商会の裏口を、

 一人の男が叩いた。

 ――控えめで、焦った音。

「……失礼します」 「エリナ商会の代表の方に」

 扉を開けたトーマは、

 男の顔を見て、息を呑んだ。

「あなた……」

「声を、落としてください」  男は、周囲を警戒する。

 応接室。

 ランプの灯りに照らされた顔は、

 疲れ切っていた。

「王都商会連盟」 「監査部所属、リオルと申します」

 その名に、

 空気が張り詰める。

「……なぜ、ここに?」  エリナが問う。

「もう」 「黙っていられなくなった」

 リオルは、

 拳を強く握った。

「車軸の件」 「事故じゃありません」

「やはり……」  トーマが、低く唸る。

「命令が、出てました」 「“輸送遅延を起こせ”と」

 沈黙。

 重く、深い。

「誰の命令ですか」  エリナは、感情を殺した声で問う。

「……正式文書は、ありません」 「だが」

 リオルは、

 震える手で封筒を差し出した。

「監査内部の」 「非公開通達の写しです」

「担当者名」 「日付」 「対象商会」

「そして」 「“事故もやむなし”という文言」

 トーマが、

 思わず立ち上がる。

「……人命軽視じゃないか!」

「ええ」  リオルは、目を伏せる。

「だから」 「俺は、ここに来た」

「告発すれば」 「あなたは、終わりますよ」  エリナは、静かに言った。

「職も」 「立場も」

「……分かってます」

 リオルは、

 顔を上げた。

「でも」 「俺は、役人だ」

「守るべきは」 「貴族じゃない」 「市民と、商いだ」

 エリナは、

 しばらく彼を見つめていた。

 やがて、

 ゆっくりと頷く。

「……預かります」

「ただし」 「あなたは、一人じゃない」

 翌日。

 地方商会会議・緊急招集。

 部屋の空気は、

 重苦しい。

「これは……」 「本物なのか?」

「監査内部の符号だ」 「偽造じゃない」

 ざわめきが、

 一気に広がる。

「皆さん」

 エリナが、

 前に出た。

「これを」 「どう使うか」

「今日」 「決めましょう」

「議会に出す」 「今すぐだ」

「いや」 「まだ早い」

「相手は、貴族だぞ!」

 意見が、

 ぶつかる。

 エリナは、

 静かに手を上げた。

「一気に、行きます」

「段階は、三つ」

「第一」 「証言の保全」

「第二」 「第三者の確認」

「第三」 「公開の場」

「逃げ場を」 「一つずつ、潰す」

 沈黙。

 そして。

「……賛成だ」  オルドが、低く言った。

「半端に出せば」 「揉み消される」

「なら」 「完全に、包囲する」

 同時刻。

 ヴァルド伯爵邸。

「……妙な動きがあるそうです」  側近が報告する。

「地方商会が」 「急に、静かになった」

 伯爵は、

 ワインを止めた。

「……静か、か」

「それは」 「嵐の前だな」

 夜。

 エリナは、

 机に並ぶ資料を見下ろしていた。

「……ここまで来たら」 「もう、戻れない」

 トーマが、

 静かに言う。

「最初から」 「戻る気なんて、ありません」

 エリナは、

 微笑んだ。

 内側の人間が、

 口を開いた。

 それは――

 剣より鋭い刃。

 王都は、

 まだ気づいていない。

 自分たちの足元が、

 すでに崩れ始めていることに。


動き出したのは、同じ日の朝だった。

 ――三方向から。

一つ目:議会

 王都議会・調査委員会。

「本日の議題」 「商会監査運用に関する件」

 委員長の声が、

 いつもより重い。

 机の上には、

 分厚い資料。

 地方商会連合名義。

 正式な提出物だ。

「事故記録」 「監査内部通達」 「担当者証言の書面」

「……数が、異常だな」  委員の一人が呟く。

「しかも」 「相互に、整合している」

 ざわめき。

 これは――

 一商会の訴えではない。

二つ目:世論

 王都中央広場。

「聞いたか?」 「地方の荷、わざと壊したって」

「事故じゃなくて?」 「命令だったらしいぞ」

 記者が、

 紙を握りしめて走る。

 記事の見出しは、

 刺激的だった。

「監査制度は、誰のためにあるのか」

三つ目:証言

 安全な場所。

 リオルは、

 書類に署名していた。

「……これで」 「もう、後戻りはできませんね」

「はい」  エリナは、はっきり言った。

「でも」 「守ります」

「あなたの証言は」 「一人の勇気じゃない」

「連帯の一部です」

 昼。

 ヴァルド伯爵邸。

「……議会が動いています」  側近の声が、硬い。

「新聞も」 「完全に、地方側寄りです」

 伯爵は、

 黙って窓を見る。

「……誰が、裏切った」

「内部です」 「監査部から」

 グラスが、

 音を立てて置かれる。

「そうか」

 その声には、

 怒りよりも――

 焦りが滲んでいた。

「締め付けを、止める」 「いや」 「今さら、止めても――」

 側近の言葉は、

 途中で止まる。

 伯爵が、

 こちらを見たからだ。

「……完全に」 「包囲されているな」

 夕刻。

 地方商会会議。

 集まった代表は、

 以前よりも多い。

「逃げられない状況です」  トーマが報告する。

「議会」 「世論」 「証言」

「すべて、揃いました」

「……次は?」  誰かが問う。

 エリナは、

 静かに答えた。

「“名指し”です」

 部屋が、

 一瞬で静まる。

「制度の問題ではなく」 「誰が、どう使ったのか」

「責任の所在を」 「明確にする」

「そうしなければ」 「同じことが、繰り返される」

 夜。

 王都は、

 不気味なほど静かだった。

 嵐の前の、

 完全な凪。

 エリナは、

 書簡を一通、封じた。

 宛名。

ヴァルド伯爵

 内容は、短い。

「公開の場で

お話ししましょう」

 翌日。

 王都中に、

 噂が走る。

「……ついに」 「名が出るらしい」

「逃げ道、あるのか?」

 答えは――

 もう、誰も期待していなかった。

 網は、閉じた。

 引き金は、

 引かれていない。

 だが。

 逃げ道は、すでに存在しない。

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