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〜王都で虐げられた私が魔法商会を支配する〜  作者: レノスク


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15/28

第15章 合法という名の刃、孤立するのは、どちらだ

攻撃は、音もなく始まった。

 剣も、兵も、脅しもない。

 あるのは――

 書類と印章と、正義の顔。

「……エリナ商会に対し」 「臨時監査を実施する」

 王都商会連盟名義。

 正式な通達だった。

「理由は?」  トーマが、紙を握りしめる。

「“手続き上の不備の可能性”」  エリナは、静かに読み上げる。

「……曖昧すぎませんか?」

「だからこそ、合法よ」

 彼女は、視線を上げた。

「理由が曖昧でも」 「制度が動けば、止まらない」

 その日の午後。

 倉庫。

 検査官が、ずらりと並ぶ。

「帳簿を」 「輸送許可証を」 「契約書原本を」

 矢継ぎ早。

 だが――

 異常なほど、細かい。

「この印章」 「規定より、わずかに摩耗していますね」

「……使用年数の問題ですが」

「再確認が必要です」 「一時的に、この荷を差し止めます」

 トーマの顔が、青ざめた。

「これ、明日出さないと――」

「規則ですので」

 検査官は、

 感情のない声で言った。

 結果。

 ・出荷遅延

 ・違約金

 ・信用低下

 完璧な“合法攻撃”。

「狙ってますね……」  トーマが、歯を噛みしめる。

「ええ」 「王都の奥にいる人間が」

「提携を断った罰」

 エリナは、

 机の上の書類を並べていた。

「でも」 「想定内」

 その夜。

 エリナは、

 一通の書簡を開く。

 王都法務局。

「……来た」

 内容は、

 さらに露骨だった。

「地方商会の王都進出に関する」 「運用基準の再確認」

 要するに。

 締め付け強化。

「これ」 「完全に潰しに来てますよ!」

「ええ」 「正面からね」

 エリナは、

 静かに笑った。

「だから」 「正面から、受けて立つ」

 翌朝。

 エリナ商会は、

 行動を開始した。

 第一手。

「地方商会連合」 「共同声明を出します」

「え?」  トーマが目を見開く。

「うちだけじゃない」 「同じ被害を受けてる商会が、ある」

「声を、まとめる」

 第二手。

「監査の記録」 「全部、残して」

「はい?」

「誰が」 「いつ」 「どんな理由で」 「何を止めたか」

「一字一句」

 第三手。

「王都議会の」 「公開委員会の日程、確認して」

 トーマは、

 息を呑んだ。

「まさか……」

「ええ」 「表に出す」

 数日後。

 王都議会・公開委員会。

 傍聴席は、

 異様な熱気に包まれていた。

 地方商人。

 記録官。

 記者。

 そして――

 王都商会連盟の関係者。

「次」 「エリナ商会代表」

 呼ばれた瞬間。

 ざわめきが、

 走る。

「発言を許可します」

 エリナは、

 一礼した。

「本日は」 「不当な運用について」 「事実のみを、述べます」

 机に、

 分厚い資料が置かれる。

「これは」 「過去三ヶ月の監査記録です」

「停止理由」 「差し止め期間」 「実害」

「同条件で」 「王都商会には」 「適用されていません」

 ざわり。

「質問です」

 エリナは、

 委員に向けて言った。

「これは」 「公平な運用ですか?」

 沈黙。

「さらに」

「この規定は」 「“裁量”とされています」

「つまり」 「恣意的に使える」

「それが」 「地方商会にだけ」 「集中している」

 委員席の空気が、

 明らかに変わった。

 これは――

 商業の話ではない。

 統治の話だ。

「……記録は、確認します」  委員長が、低く言った。

「本件」 「調査対象とする」

 傍聴席が、

 どよめいた。

 その夜。

 王都の奥。

「……やられたな」  男が、歯を鳴らす。

「合法で来るなら」 「合法で潰せると思ったが」

「相手も」 「同じ刃を持っていた」

 一方。

 宿。

「……エリナさん」 「これ、勝てますか?」

「まだ」

 彼女は、

 窓の外を見た。

「でも」 「向こうはもう、隠れられない」

 鎖は、

 刃に変わった。

 そして今。

 刃は、

 光の下に引きずり出された。


変化は、静かに、しかし確実に広がっていった。

 王都議会での公開委員会。

 あの日の記録は、すでに写し取られ、各所へ回っている。

 ――誰が止めたのか

 ――どの規定を使ったのか

 ――なぜ王都商会は対象外なのか

 数字と事実は、感情よりも雄弁だった。

「……最近さ」 「エリナ商会の件、聞いた?」

「聞いた聞いた」 「地方商会にだけ、検査集中してたって」

 酒場。

 露店。

 市場の裏道。

 商人たちの会話が、同じ方向を向き始める。

「うちもだよ」 「理由不明で三日止められた」

「王都に入ろうとした途端、これだ」

「……次は、俺たちかもしれん」

 不安は、

 やがて共感に変わった。

 エリナ商会。

「来ました」  トーマが、束になった書簡を抱えて入ってくる。

「地方商会連合から?」  エリナが視線を上げる。

「はい」 「正式に、連名での陳情を出したいと」

「参加商会は?」

「……二十三」

 一瞬、空気が止まった。

 二十三。

 王都全体から見れば小さい。

 だが――

 無視できる数ではない。

「代表は?」  エリナが問う。

「エリナ商会に」 「やってほしい、と」

 トーマは、

 少し不安そうに言った。

「……矢面ですよ?」

「ええ」

 エリナは、

 迷いなく頷いた。

「でも」 「もう、立ってる」

 その頃。

 王都商会連盟本部。

「報告です」 「地方商会の動きが――」

「分かっている!」

 机を叩く音。

「なぜ」 「ここまで膨らんだ!」

「……議会の件が」

「くそっ……!」

 男は、

 歯を食いしばる。

 想定していたのは、

 一商会の反発。

 だが現実は――

 連帯だった。

「締め付けを緩めるべきでは?」  側近が、慎重に言う。

「今さらか?」

「下手に続ければ」 「“不当運用”の証拠が増えます」

 沈黙。

「……一度、引く」

 男は、低く言った。

「だが」 「終わりじゃない」

 翌日。

 王都法務局からの通達。

「監査運用の一部見直し」

 言葉は柔らかい。

 だが、意味は明確だった。

 圧力が、一段緩んだ。

「……効いてますね」  トーマが、安堵の息をつく。

「ええ」

 エリナは、

 しかし表情を崩さなかった。

「でも」 「これは“撤退”じゃない」

「“再配置”よ」

 そこへ。

「失礼します」  見知らぬ男が、応接室に通される。

 年配。

 身なりは質素。

「地方商会・北部代表」 「オルドと申します」

 彼は、深く頭を下げた。

「……直球で言おう」

「あなたが動いたことで」 「救われた商会が、ある」

「だが同時に」 「狙われる覚悟も、必要だ」

 エリナは、

 まっすぐに男を見た。

「承知しています」

「だから」 「味方が欲しい」

「ほう」

「情報を」 「人を」 「場合によっては、資金も」

「個々じゃ弱い」 「でも、束ねれば――」

「王都と、対等に話せる」

 オルドは、

 ゆっくりと笑った。

「……若いのに」 「よく分かっている」

「決まりだ」

「北部だけじゃない」 「東も、西も」

「“地方商会会議”を」 「立ち上げよう」

 その言葉に。

 トーマが、

 息を呑んだ。

 それは。

 単なる商人の集まりではない。

 政治に影響を与える“集団”。

 夜。

 エリナは、一人で灯りを見つめていた。

「……前世なら」 「ここで、手を引いた」

「でも今は」

 彼女は、

 小さく笑う。

「もう」 「後戻りはできない」

 王都の空気が、

 変わり始めていた。

 孤立しているのは――

 誰か。

 それが、

 誰の目にも見え始めた夜だった。

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