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〜王都で虐げられた私が魔法商会を支配する〜  作者: レノスク


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14/27

第14章 差し出されたのは、鎖付きの好意と逆提案という名の宣戦布告

王都のやり方は、

 いつも穏やかだ。

 怒鳴らない。

 脅さない。

 敵意を見せない。

 だからこそ――

 断りにくい。

 交流会から三日後。

 エリナは、再び呼び出されていた。

 場所は、

 商会連盟の本部。

 だが、

 会議室の格が違う。

(……ここは) (“決定を下す部屋”ね)

 壁に掛かる紋章。

 机の材質。

 椅子の配置。

 すべてが、

 **「対等ではない」**と主張していた。

「お忙しいところ、ありがとうございます」

 応対に出てきたのは、

 昨日までの顔ではない。

 王都商会連盟・副代表。

 実質的な実務トップ。

「こちらへ」

 通された席の向かいには、

 三人。

 全員、

 市場の“上澄み”。

「本題に入りましょう」

 副代表は、

 一切の雑談を省いた。

「エリナ商会に」 「正式な提携を提案します」

 トーマが、

 息を呑む。

 提携。

 それは、

 一見すれば“栄誉”だ。

「内容は、単純です」

「物流網の共有」 「仕入れルートの統合」 「価格調整の共同決定」

「見返りとして」 「王都市場への全面参入を保証します」

 条件だけ見れば、

 破格。

 地方商会が、

 一気に中央へ食い込める。

 だが――

(甘すぎる)

「質問しても?」  エリナは、静かに言った。

「もちろん」

「意思決定権は?」

「連盟側が、最終判断を行います」

 即答。

 躊躇すらない。

「つまり」 「私は、実務担当ですね」

 副代表は、

 笑った。

「分かりやすく言えば、そうです」

 それは、

 支配の言い換え。

「断った場合は?」

 エリナは、

 視線を逸らさずに聞いた。

 一瞬の沈黙。

 だが、

 それが答えだった。

「……断る理由は、ありませんよ」

「あなたほど賢い方なら」

 柔らかい声。

 だが、

 圧は明確。

 “断るな”。

 会議室を出た後。

 トーマは、

 明らかに緊張していた。

「エリナさん」 「これ……」

「ええ」 「完全に、囲い込み」

「でも」 「王都に出るには……」

「だから、出されたのよ」  エリナは、即答した。

「逃げ道を塞ぐ形で」

 宿に戻り、

 エリナは一人、考える。

(受ければ) (商会は拡大する)

(でも) (自由は、消える)

 価格。

 取引先。

 商品選定。

 すべてが、

 “承認待ち”になる。

 それは、

 商人の死だ。

 一方。

 別の場所。

「どうだ?」  既得権益側の男が、報告を待っていた。

「提携を提示しました」

「反応は?」

「……慎重です」

 男は、

 薄く笑った。

「いい」 「賢い証拠だ」

「だが」 「賢い者ほど、追い詰められる」

「もし、断れば?」

「物流」 「税制」 「許可」

「どれか一つ」 「“遅らせる”だけでいい」

「表向きは、合法だ」

 その言葉は、

 冷酷だった。

 暴力は使わない。

 ただ、

 生きづらくする。

 翌日。

 エリナは、

 商業ギルドの古い知り合いを訪ねた。

「正直に言って」 「この提携、どう思う?」

 巡察官は、

 即答しなかった。

「……君が断れば」 「敵は増える」

「受ければ?」

「“便利な道具”になる」

 どちらも、

 地獄。

 その帰り道。

 エリナは、

 足を止めた。

(なるほど)

(だから、みんな従う)

(壊すには) (“第三の選択肢”が必要)

 受けない。

 断らない。

 条件を、逆に使う。

 夜。

 エリナは、

 トーマを呼んだ。

「準備するわ」

「何を?」

「“断れない提案”への」 「逆提案」

 トーマの目が、見開かれる。

「正面から、行くんですか?」

「ええ」

「王都は」 「力を示した者しか、尊重しない」

 彼女は、

 紙に文字を書き始めた。

 市場データ。

 物流改善案。

 税収への影響。

 それは、

 国家レベルの資料だった。

(利用するつもりなら) (こちらも、利用する)

 王都の夜は、静かだ。

 だが今、

 一つの商会が――

 中枢のルールを書き換える準備をしていた。

 鎖を差し出された女商人は、

 それを――

 武器に変えようとしている。


王都は、提案する側が強い。

 少なくとも――

 今までは、そうだった。

 王都商会連盟本部。

 前回と同じ会議室。

 だが、空気は違っていた。

「……では」 「エリナ商会からの返答を」

 副代表の声は、

 余裕を保っている。

 この場にいる全員が、

 同じ結論を想定していた。

 ――条件付きでの受諾。

 もしくは、

 時間稼ぎの曖昧な返事。

 逆提案など、想定外。

「はい」  エリナは、立ち上がった。

「本日は」 「提携そのものを否定しに来たわけではありません」

 副代表が、

 わずかに頷く。

(予想通り)

 だが、次の言葉で――

 空気が変わった。

「ただし」 「条件を、こちらから提示します」

 沈黙。

 一瞬、

 理解が追いつかない。

「……条件、ですか?」  副代表が、ゆっくり聞き返す。

「はい」

 エリナは、

 一切の怯えを見せずに続けた。

「物流網の共有」 「価格調整の協議」 「情報交換」

「これらは、対等であること」 「最終決定権は、共同」

 ざわり、と

 小さなざわめき。

「さらに」 「エリナ商会は」 「王都商会連盟の下部組織にはなりません」

 完全否定。

 誰もが、

 耳を疑った。

「待ってください」

 副代表の声が、

 わずかに硬くなる。

「それでは」 「我々に、何の利が?」

 その問いを、

 エリナは待っていた。

「あります」

 彼女は、

 一枚の資料を机に置いた。

「これは?」  年配の幹部が、眉をひそめる。

「市場改善案です」

「具体的には」 「地方―王都間の物流効率化」 「中間コスト削減」 「結果としての税収増」

 資料をめくる音が、

 次第に増えていく。

 最初は、

 流し読み。

 次は、

 黙読。

 そして――

 無言の精読。

「……これは」  女性幹部が、思わず呟く。

「理想論じゃない」 「実務ベースだ」

「三年で」 「王都の流通コストが」 「ここまで下がる?」

 副代表の表情が、

 初めて揺れた。

「なぜ」 「こんな資料を……」

「現場に、いるからです」  エリナは、即答した。

「市場の無駄を」 「毎日、見ています」

「上からは、見えない部分を」

 沈黙。

 だがそれは、

 敵意ではない。

 計算の時間。

「……仮にだ」  無言だった男が、口を開いた。

「この案を採用すれば」 「王都商会連盟は」 「主導権を一部、手放すことになる」

「はい」

「それでも?」 「対等を望むと?」

「望みます」

 エリナの声は、

 迷いがなかった。

「利用される提携なら」 「最初から、必要ありません」

 その瞬間。

 空気が、

 はっきり変わった。

「……面白い」

 無言の男が、

 低く笑った。

「地方の商人が」 「ここまで言うか」

「いや」 「言えるだけの準備をしてきた、か」

 副代表が、

 ゆっくりと息を吐く。

「……正直に言おう」

「我々は」 「君を“取り込む”つもりだった」

 トーマが、息を呑む。

「だが」 「この案は――」

 副代表は、

 資料を閉じた。

「“利用する側”のものだ」

 数秒の沈黙。

 そして。

「結論は、持ち帰る」 「だが――」

 副代表は、

 はっきり言った。

「今日の時点で」 「君は、交渉相手だ」

 格が、変わった。

 会議室を出た後。

 トーマは、

 言葉を失っていた。

「……エリナさん」 「これ……勝ちました?」

「いいえ」  彼女は、首を振る。

「戦場に上がっただけ」

「でも」 「もう、下から見下ろされない」

 一方。

 王都の奥。

「……想定外だな」  既得権益側の男が、唸る。

「提携を断らず」 「逆に、主導権を要求するとは」

「どうします?」

 男は、

 静かに笑った。

「決まっている」

「潰す」

「今度は」 「合法の皮を被った“本物”でな」

 空気が、

 冷えた。

 その夜。

 エリナは、

 宿の窓から王都を見下ろしていた。

(来る)

(でも) (もう、一段上の場所に立ってる)

 鎖は、

 投げ返した。

 次に飛んでくるのは――

 刃。

 だが、それもまた。

 準備済みだ。

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