大学生とコスプレ少女
逆異世界転移ものって意外と少ないよなぁと思い書いてみました。
俺、真白大河は大学の近くのワンルームアパートを借りて一人暮らしを絶賛満喫中の大学生だ。
父親がとある大企業の重鎮と言う事もあり、学費はもちろん家賃や一人暮らしに必要な生活費まで送ってくれるため、バイト代は全て自分自身の娯楽に充てる事ができている。
家族との仲はお世辞にも良好とは言えないものの、お陰様でアルバイト漬けの日々を過ごしていないため、こればかりは親父殿に感謝している。
さて、そんな俺でありますが、バイト先からの帰宅中、絶賛夕立に巻き込まれておりました。
「クソッ、急に降り出すなんてついてないな……!!」
どうせ後は帰るだけだ。シャワーを浴びれば良いわけだし、濡れた服はこの後洗濯すればいい。もうこのまま帰ってしまおうか。
…………。
「いや、橋の下に避難するか」
どうせこの後は見たい番組やネトゲの約束はないのだ。ならばわざわざ気持ち悪い思いをしてまで急いで帰ることにこだわらなくて良いだろう。
ちょうど渡ろうとしてた橋の下で雨宿りできそうだし、暇な時間はスマホでネットサーフィンでもしていれば良い。雨が止んでから帰ろう。
「お邪魔しま……っと、先客がいたか」
「……」
どうやら俺と同じことを考えた人がいたようで、橋の下で座る銀髪の女の子と目が合う。
「…………」
「……なにか?」
「あ、すいません」
いけないいけない、ジロジロ見過ぎてしまった。
しかし仕方ないだろう。なんたってこの女の子、そこらのアイドルが可愛く見えるレベルの整った顔立ちをしてるし、そして何より………….ボロボロとはいえ西洋風のドレスを着込んでおり、どこかの貴族のお嬢様と言った印象を受ける。
この現代社会にはあまりにもミスマッチな服装……これをガン見しない方がおかしいというものだ。
とはいえ今は見るハラとか訳のわからない理由で訴えられる社会だしなぁ……。余計な面倒事を起こさないためにもこれ以上視線を向けるのはやめておこう。
彼女を警戒させないように彼女から少し離れたところに腰掛けてスマホを取り出してネットサーフィンを開始する。
「…………」
「…………」
お、ハマってるネトゲ、近々大幅アップデート来るのか。
しかも前々からでネットの掲示板で要望されてた機能の追加だし、これにはネット民も大盛り上がりするだろうなぁ。
「…………」
「…………」
な……魔法少女マジカル☆シスターズの新シーズン制作開始だと!?
Blu-rayボックス欲しいけど、放送時期に気になってるアニメが重なりすぎてるからなぁ、こりゃBlu-ray制覇の為にバイトのシフトを増やしてもらわないとな。
グゥウウウゥ〜…………
「ん?」
「…………」
女の子の方から何かが鳴る音が聞こえ、チラリと彼女の方を向くと、先ほどから変わらない無表情でありながらも、頬を真っ赤に染めてお腹を抑える女の子の姿。
「…………////」
「…………」
無言でリュックを漁ると、今日の休憩時間に食べようと買っていたが、電話注文のドタキャンで余ったべなかったメロンパンと正午の紅茶を発見。
「あの、口つけてないんでこれどぞ」
「……よろしいので?」
「腹減ってないんで」
「……いただきますわ」
彼女は服装に違わぬ口調でそう言いながらメロンパンと紅茶を受け取ると、手を組んでまるでキリストに祈るような独特な食事の挨拶を行う。
そして丁寧にメロンパンの包装紙を破くと、一口サイズに千切ってそれを口に運んだ。
「……甘い」
「メロンパンっすから」
それにしてもやけに丁寧に食べるな。まるで本物の貴族のお嬢様みたいだ。
そんなことを考えていると、メロンパンで口の中が乾いてしまったのか、包装紙を敷いた膝にメロンパンを置いて紅茶の入ったペットボトルに手を伸ばす。
そしてキャップを掴むとそれを真上に引っ張って…………
「……あら?」
「は? おいおい冗談だろ」
おっといけない。ついついタメ口になってしまった。
しかし、ペットボトルの開け方が分からないと言うのは流石におかしい。
なにせ田舎にも、なんなら外国にもペットボトルは存在する。ましてやコスプレをするような子がペットボトルを知らないなんてありえない。
「え、えぇ。冗談ですわ。これはこう開けるのですよね……あ、あら? か、固いですわね……」
「うん、開け方ちゃいますわ」
頬をピンクに染めながら冗談と言ったコスプレ少女だが、先ほどと同じく真上に引っ張るだけで一向に捻ろうとはしない。
……もしかして本当に開け方分からないのか……いや、コスプレしてるし、今どき流行りの異世界ものの貴族のお嬢様になりきってるのかな。
仮にそうだとしたら乗ってあげた方が面倒は少ないよな。
「……貸してください」
「え、えぇ……」
「これはこうやって捻って開けるんですよ」
「まぁ、そうなんですのね」
こりゃまた面倒な子に関わったと若干の後悔をしながらも、ペットボトルのキャップを外して再び彼女に渡すと、女の子はペットボトルに口をつけてゆっくりの中の紅茶を飲む。
「…………」
うわ、微妙な表情。
どうやらお嬢様には安物の紅茶はお気に召さなかったらしい。
しかし貰ったものに文句をつける訳には行かないと思ったのか、微妙な表情はすれどこちらに文句は言わずにチビチビと紅茶を啜る。
そんなこんなでゆっくりとお上品にメロンパンを食べていた彼女だが、やがて最後の一欠片を名残惜しそうに口に運んで紅茶で流し込むと、こちらに向いてペコリと頭を下げてきた。
「食事を恵んで下さりありがとうございました。この数日何も食べていなかったので助かりました……くしゅん! …………失礼」
「いえいえお気になさらず」
いくら初夏とはいえ、川の近くで雨も降ってるなら気温は下がるからなぁ。というかそう考えたらこっちまで寒くなってきたな……。
気温が下がっているという事実に気がつき、自らも若干の肌寒さを感じていると、袖で鼻水を拭っていたコスプレ少女は「少し暖まりますか……」言いながら人差し指を空に向けて……
「リトルファイア」
そう唱えるや否や指先から突如、ライター程度の小さな炎が発生して…………。
…………。
「……え? ……は?」
「あぁ、申し訳ありません。あなたも冷えていますわよね?食事のご恩もありますし、コチラで一緒に温まってもよくってよ」
「え、な、なにそれ。マジック?」
「えぇ、魔法ですわ」
「そ、それってファンタジーな世界にしかないものではないんすか?」
「ふぁんたじー? ……が何かは分かりませんが、ただの魔法……しかも最下級の魔法ですわよ。魔法に秀でた貴族でなくとも、この程度の初級魔法ならば才ある者なら……いえ、もしやこの世界には魔法というものが存在しない……? いえしかし、あそこの明らかに高い建物なんかは魔法なしで作れるとは……」
そう言ってブツブツと呟き出したコスプレ少女。
平然と指先から火を出し、それを魔法と平然と言ってのけた事、そしてこの世界という言葉から察するに…………も、もしや……。
「あ、あの……名前と出身国について教えてもらってもいいすか? あ、俺、真白大河っす。ここ日本で生まれ育ちました」
「マシロタイガ……マシロですわね? 私はクリスティアーナ・リズ・グリフィス。フェニキス王国の公爵家が一つ、グリフィス家の長女……だった女ですわ」
「…………」
「…………あ、あのマシロどうなさったんですの?」
「…………かよ」
「え?」
「ガチモンの異世界令嬢かよっ!!!!」
俺の驚愕の声は橋全体に響き渡ったのだった。
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