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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

抵抗も虚しく、人外になった幼馴染に性的に頂かれる話。

作者: 中毒のRemi

 白く長い廊下を歩くたびに、靴音が静かに響いた。

 面会時間ギリギリの病院は、どこか時間が止まったような空気をまとっている。

 『病室302号室』――

 小さなプレートを確認して、私は扉の前で一度、息を吸う。


 ……会うのは久しぶりだ。

 千早(ちはや)が体調不良で学校を休み始めてから、丁度一週間くらい経つ。

 もちろんただの風邪なら、お見舞いへ行ったりなどしない。

 だけど今回は入院していると聞いた。

 いつも元気な彼女が病院のお世話になるなんて初めての事だ。

 流石に唯一の友達である千早のお見舞いへ、行かないという選択肢はなかった。

 

 ノックをする指が迷った末に、私はそっとドアノブを回し、静かに扉を押し開けた。




 ---



 

 ベッドの上。

 淡いレースのカーテン越しに、千早が眠っているのが見えた。


 目を閉じて、呼吸は静かで、まるで物語の中のお姫様みたいだった。

 その顔に見とれて、気がつけば私はそっと歩み寄っていた。


「……千早……」

 

 声を出すつもりはなかったのに、こぼれてしまった。

 だけど目覚める気配はない。

 それならと思い、私はそっと手を伸ばし、彼女の頬に触れながら小さく呟いた。


「……早く学校に来て下さい」


 ……いつもは千早が一緒にいてくれるから大丈夫だった。

 でも、彼女が学校になってからは周りの視線が怖い。

 まるで独りなのが見抜かれているような、クラスメイト達にそれが哀れまれているような……

 授業を受けている間、そんな自意識過剰の感情に頭が支配されて、まともに先生の話を聞くことが出来なかった。


「……貴女が来ないせいで、私は一人ぼっちです……」


 そう言いながら、私はうつむいた。

 時間はもうかなり過ぎていた。

 ここまで来るのに、一時間以上もかかったのに、千早は目を開けてくれない。


 仕方のないことなのは、分かってる。

 頭ではちゃんと、理解してる。

 だけど――

 

 せめて、私が来たことだけは気づいてほしかった。

 放っておけなくて、病室まで会いに来てしまうような、そんなおせっかいな友人がいることを、覚えていてほしかった。

 数多くいるであろう友人の中で、私だけがここに来たのだから……


 そう思って千早の頬を抓ったり、髪に触れたりしたけど、やっぱり起きない。

 よほど体調が悪いのだろう。

 

 これ以上は流石に良くないと思って、彼女の顔から指を離そうとした瞬間――


 ふっ、と空気が割れた。

 何かが風を切って走り抜ける気配。


「え──」


 言葉が終わる前に、それは私の腹部に深く入り込んだ。

 刺された、という確かな感覚があった。けれど痛みはない。

 ただ、体から力が抜けていく。視界が歪む。


 膝が崩れかけた、そのとき。

 落ちそうになる私の身体を、すっと細い腕が包むように支えた。

 柔らかな力で、まるで揺れる灯火を守るかのように、私の背をそっと抱き寄せる。


「大丈夫だよ、菜乃花(なのか)……ゆっくり、腰を下ろして」


 耳元で優しく囁かれる声に、抗う力もなく従うしかなかった。

 膝から力が抜けていくのを感じながら、おずおずと重心を落とす。

 千早は細い腕で私の背を支え、壊れ物でも扱うように、慎重な手つきでベッドの端へと誘ってくれた。


 布団に触れた瞬間、ひやりとした感触と、そこにわずかに残されたぬくもりが、皮膚の奥まで染みこんでくる。

 ゆっくりと腰を下ろすと、ようやく彼女の手が私の背から離れた。


 隣に腰を下ろした千早が、のぞき込むようにこちらを見てくる。


「痛みはない? 大丈夫?」

「…………」

「菜乃花〜? 返事がないと、ちょっと心配になるんだけど……」

「……いったいこれは……私に何を……」


 体に殆ど力が入らないせいで声が震えた。

 だけど、痛みは――ない。

 だから、まだ大丈夫な……はず。


 それより――彼女の姿のほうが、よほど衝撃だった。


 病院のベッドに腰かけるその姿に、人間とは思えない特徴がある。

 頭には薄く湾曲した角。背後には、今なお微かに揺れる細長い尻尾。

 皮膚の色も、どこか透けるような白さを帯びていて、人工的にさえ見える。


「……っ、それ……まさか、コスプレなんかじゃ……ない、ですよね……?」


 言いながら、自分でも馬鹿なことを口にしたと思った。

 こんな設備の整った病院で、そんなふざけた真似ができるわけがない。

 そもそも――さっき、私の腹を貫いたのは……この尻尾だ。

 体に痛みはまだ無いし、こんなのを見せられてしまっては、やられたら事に対する怒りも全く湧いてこなかった。


 すると、千早が少し困ったように、でもどこか悪戯っぽく笑う。


「あぁ……驚かせちゃったよね、ごめん。でも、菜乃花が帰っちゃいそうだったから――」


 どこまでも軽やかな声。だけど、どこかに陰がある。


 私は、震える指を無理やり抑えつけるようにして、口を開いた。


「……いえ、私のことは……もういいです。……それより、貴女のその体は……どうなってるんですか?」


 問いかけに、千早は一瞬だけ黙り、目線を落とした。

 そして、再び私を見つめながら、静かに言う。


「う〜ん……説明するのが難しいんだけどね。これは――“未知の病気”なんだって。

 お医者さんたちも詳しいことは分からないらしくて」


 曖昧に笑うその顔に、冗談では済まされない何かがあると感じた。

 彼女自身も、きっと本当の意味では理解していない。


「でも、私は本能で理解したんだ。たぶんこの体は……他人の精を啜らないと、生きていけない――そんな風にできてるんだと思う」

「……つまり、私をここで喰い殺すと……?」

「ちがうちがう……ちょ〜っと菜乃花の体液を拝借するだけだよ」


 背筋がぞくりとする言葉だった。


「……つまり、私はここで貴女に喰い殺されるってことですか……?」

 声がうわずったのは、自分でもわかった。冗談のつもりで返したつもりだった。

 けれど、千早の返事は、さらにその上を行く軽さだった。


「ちがうちがう。殺すだなんて物騒なこと、しないよ」

 

 彼女は小さく笑って立ち上がり、くるりと向きを変えると、

 私の目の前まで歩み寄り、そして膝をついた。


 そのまま、私のお腹――さっき彼女の尻尾に貫かれた箇所に目を落とす。


「……血、出てるね。まだ温かい」


 囁くような声に、ぞくりと背筋が震える。

 露わになった肌に、ひやりと空気が触れるたび、鳥肌が立った。


 千早の指は傷口の周囲をなぞるように動きながら、ぽつりと呟いた。


「……この一週間、本当に辛かった」

「……え?」

「何を食べても味がしなくて……お腹は空くのに、ご飯は飲み込めなくて……」

 

 瞳が細められる。

 笑っているのに、どこか狂っているようにも見える。

 

「看護師さんが部屋に入ってくるたび、声も匂いも、全部が刺激になって、気がついたら……噛みつきそうになってた」


 静かに、深く息を吸うようにして、千早は私の顔を見上げた。


「だから、菜乃花が来てくれて……ほんとに、よかった」

「よかった……って、どういう……」

「だって菜乃花は私しか友達がいないから、私が学校に来なくなったら困るよね?」


 平然と言われた言葉に、心臓が音を立てる。

 図星だった。

 でも、それを肯定することも否定することも、できなかった。


「このままじゃ、きっとバレる」

 

 千早の手が、私の指にそっと触れる。

 

「病院の人たちに、私の“異常”が。そしたら、私……きっと閉じ込められちゃう」

「…………」

 

 ぽつんと落とされたその一言は、痛みもないのに胸を締めつけた。


「もう、菜乃花と一緒にいられなくなるかもしれない。今の私は、どうしようもない化物だから」

「…………そう、ですね」

「でも菜乃花が協力してくれるなら、きっと退院することも出来るし、一緒に学校へ行くことできる――だから、お願いを聞いて欲しいの」

「お願いとは……具体的に何をすれば良いんですか?」

「キミの()()を少しだけ分けて欲しいの。大体1週間に一度くらいで」


 体液……たぶん血の事だろう。

 

 たったそれだけのお願い。

 その程度の協力で、千早は私と一緒にいてくれる。

 それに……


「つまり貴女は……私がいないと生きていけないって事ですよね?」


 彼女は小さく微笑み、呟く。

 

「……そうかもね」


 その笑顔に、胸の奥がざわついた。

 彼女は私だけを必要とする。

 他の誰でもない、私を。

 それなら――きっと、彼女はもう他の友達に気を取られたりしない。

 この歪んだ関係でも、私が側にいる限り、千早は私だけを見てくれる。


 だって、千早は化物になってしまった。

 こんな異形と、まともに付き合ってやれる人間なんて、私しかいないのだから。


 そう思った瞬間、迷いは霧のように消えた。


「分かりました。千早に協力します……」


 その言葉が、私達の関係の境界線を越えた合図だった。

 千早の顔が、ぱっと明るくなる。

 

「ありがとう!じゃあ穴を開けちゃったし、早速だけどソレ、もらうね」


 彼女は嬉しそうに微笑んだあと、ふわりと体を前に傾ける。

 私の腹部――さっき尻尾で開けた、わずかな傷口に顔を近づける。


 千早の舌が傷口に触れた瞬間、私は息を飲んだ。


 痛みは、ない。けれど……ぬるりとした感触が、肌の奥にまで染み込んでいくような気がして――思わず腰が跳ねそうになるのを、なんとか堪えた。


 ゆっくりと、丁寧に舌を這わせてくる彼女。

 それはただの行為ではなくて、明確な“摂取”だった。

 私の体液を、彼女が必要としている。

 そのことが、胸の奥でひどく甘い感情を芽吹かせていた。


「血を飲むのは初めてですよね? 美味しいんですか?」

「うん、凄く美味しい。……酷いことしてごめんね。菜乃花」

「大丈夫です。何故か痛くないですし、きっとすぐに治りますから」


 この化物にとって、自分だけが命綱。

 そんな関係が、どうしようもなく私の心を満たしていく。


 ぞく、っと背中を撫でられたような感覚が走った。


 血を舐められているだけなのに、そこから伝わる熱と湿度が、皮膚の感覚を敏感に変えていく。

 千早の唇が、舌が、肌を這うたびに、小さな快楽の波が身体をゆるやかに打つ。


「……ん、ふふ……菜乃花、少し震えてる」


 囁くように笑う声が、くすぐったいような羞恥を煽る。


「違……そんなつもりじゃ……」


 否定の言葉は、自分でも空々しいと思った。

 それよりも今は――千早に求められている、

 この瞬間が、愉しくてたまらなかった。


 やがて彼女はゆっくりと顔を離し、満ち足りたような目で私を見下ろした。

 そして、何の前触れもなく、そっと私の肩を押す。


「きゃ……っ」


 気づけば背中がベッドに沈んでいた。

 両手を軽く掴まれ、逃げられないように固定される。

 視線が重なる。


「いきなり何を……!」

「……とりあえず今すぐ私を力づくでどけてみてくれない?」

「言われなくても!」


 私は全身に力を込め、上体を起こそうとする。

 だが――彼女の身体はまるで岩のように動かない。


 ほんの少しも、びくりともしなかった。


「……なんで」

「菜乃花……その程度の力で私を支配した気になってたんだ」

「――っ?!」

「キミの考えてることはバレバレだよ」

「わ、私はそんなこと……」


 否定の言葉が喉を滑り落ちる前に、千早は微かに笑った。

 

「ホント、菜乃花って良い性格してるよね。この病気も良い機会だったってことで、その歪んだ性根を叩き直してあげる」

 

 声が耳の奥に残る。


 それと同時に、千早の顔が、すっと近づいてきた。


 目の前いっぱいに彼女の瞳が広がる。

 深く、透き通っていて、それでいてどこか底知れない、異質な光を宿している。


 呼吸の音が、二人分、重なった。


 それだけで、喉の奥が熱くなる。


「ち、千早……?」


 名を呼んだつもりだった。

 でも声は掠れて、ほとんど音にならなかった。


 そして。


 ゆっくりと、まるで時間ごと沈めてしまうような動きで、千早の唇が私の唇に重なる。

 同性からの突然のキス。


「ちょっと!やめ――んむっ?!」


 すぐに顔を離したけど、即座にまた唇を塞がれた。

 気持ち悪くて吐き気がするはずなのに、抵抗できない。


 驚きで固まる私を残し、彼女の柔らかな唇はじっとりとした熱を伝え、

 次の瞬間、舌先がそっと潜り込んできた。


「んんんんむ!?!?」


 ほんの少しの抵抗のあと、千早の舌と私の舌が絡み合う。

 それは軽やかな探り合いのようであり、同時に確かめ合う行為にすら思えた。


 絡め取られるたびに、重なる呼吸が甘く胸を震わせる。

 千早の手は依然として私の手首を優しく掴んだまま。

 どれだけ力を込めようとも逃げられない無垢な感触に、甘い緊張が全身を走る。


 すうっ、と息を吸い込むと、舌先はほんの少しずつ奥へ、奥へと滑り込んでいく。

 そのとき、唇の端に残るぬくもりと湿り気が、まるで世界を染め替えてしまうかのように…………とても最低な気分だった。


 やがて千早はそっと引き、そのまま私の瞳を見つめる。

 拘束された両手の重みとともに、二人の間にじんわりとした余韻が漂った。


「……ふざけてます。こんなの……」

「でも、菜乃花の顔は正直みたいだよ?」


 そう言われて私は手で自分の顔に触れ、確認するが、どんな表情か分からない。

 分かりようがないし、もう何も考えたくなかった。


「これからは菜乃花の事を私の()()()として、しっかり調教してあげるね」

「…………私が悪いのは認めるので、もう許してください…………」

あとがき。


最後まで読んでもらえたようで嬉しいです。

よろしければR18の回(別サイト投稿)も書いた、こちらの作品も読んでみて下さい。

https://ncode.syosetu.com/n5764kn/

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