表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

終わらない夢

三日月に焦がれ、星たちは沈む

作者: となりのOL

 俺の目の前には、今も昔も、変わらず輝く月がある。

 

 その月は、三日月のような儚さで……それでも、確かに優しく、常闇(とこやみ)に染まる世界を照らしてくれていた。


「こんなところで、何してるのさ」


 薄明りの夜、暗く沈む部屋に澄んだ声が響いた。

 その音に、朧気(おぼろげ)だった意識が呼び覚まされ頭を上げる。


「ねえ、お前はそのままでいいの?」

「……良いわけなんてない。待っていたんだよ、来てくれるのを」


 窓枠に月を背負って座る、その人に返事をする。

 俺の言葉に驚いた表情を見せたのも束の間、フッと笑ったかと思えば、するりと中に入ってきた。


 ……ああ、今日も美しいな。


 絹のように美しい、黒い髪。

 彫刻のような造形の顔に、艶めく白い肌。

 細い首筋に、浮き上がる鎖骨。

 そして、こちらを見つめる、宝石のような瞳。

 

 月明かりに浮かび上がる、この世のものとは思えないその姿を前にして、ゴクリと喉が鳴る。

 そのどれもが今、手が届きそうなほどに近くて、手を伸ばすことも許されないほどに遠かった。


「これまではどうだった?」

「クソみたいだったよ。あなたがいなくてさ」

「ふふふ、おかしなことを言うね。ずっと、一緒にいたじゃない」


 微笑みながらも、俺を捉える瞳に、また、ゴクリと喉が鳴る。


 ……あなたは、特別だ。

 俺にとっても……周りの人間にとっても。


 三日月のような儚さで、でも確かに優しく、闇夜を照らしてくれる。

 

 それは時に、救いのようで……。

 それは時に、誘いのようで……。


 誰もがその光に近づきたくて、手を伸ばす。

 でも、決して誰も届かない。


 人々は、さながら月の周りに浮かぶ星々のようだ。

 近づいてきては、どこかへ消えてしまう月に、いつまでも()せられている。

 

「こんなところにいていいの?」

「当たり前じゃない。お前は大切な、弟なのだから」


 そう言ってまっすぐに俺を見つめる瞳から、目が離せなかった。

 

 ……本当に、ひどい人だ。


 何も知らないような無邪気な表情で、俺の心を見透かしてくる。

 また、ゴクリと喉が鳴る。

 

「さあ、もうそろそろ夜明けだ。今度は、ちゃんとついて来いよ」

「……うん」

 

 ……兄さん。


 この呼び方は、好きじゃない。

 ここに収まりたくないと、仄暗(ほのぐら)い心で願ってしまう。


 そしてまた、あっという間にいなくなってしまった。

 静かに目を閉じて、残していった余韻にゆっくりと浸る。


 ……同じだ。


 ……でも、それでいい。

 

 縛りやしない。縛れもしない。

 

 だって、俺もまた、あの三日月に焦がれる、星の一つなのだから……。

お読みいただきありがとうございました。

二人の愛が、少しでもみなさまの心に残れば幸いです。

また、↓の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ