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9. 再会

辛うじて生きてます。



「結局、無駄足だったみたいね。」

「まあいいんじゃないか? 白磁龍への挨拶は、ちゃんと出来たってことで。」

「わたしは今までと変わらないだけ、だから。あんまり気にしないで。」


 白磁龍との会合を終えた私たちは、「先生」の背に乗って黒耀龍の住処に帰った。



 あの後、洞窟を抜けた瞬間、私たちの試練は始まった。まず、先頭を歩いていたリューゼに雷が落ちた。しかし、ダメージは全くないようで、牽制のためのものだと推測できた。売られた喧嘩を買わない理由などない。リューゼの様子を見る前から、メリアは正面に現れた強大な気配に向けて魔法を撃っていた。

 メリアが使ったのは、煙が大量に発生する低威力の魔法。先の雷と同じ、相手を妨害するためのものだ。煙は即座に霧散し、龍の巨体に吸い込まれていったため、煙幕としての効果は無に等しい。しかし、私たちが体勢を整える隙を作ることはできる。

 それを見越していたのか、龍はすぐに三重に重なったシールドを展開した。そして、挑発的に行われた、情報の開示。


 「白磁龍の鱗は触れた者の魔素を吸収する。そして対魔法用の多重シールドも展開した。貴様らに突破できるかな。」


 情報の開示は、相手にプレッシャーを与えることを目的に行われる場合が多い。これはその、分かりやすい例だと言えるだろう。だが、今差し出された情報は私たちに圧をかけるどころか、むしろ余裕を与える結果になった。

 何せ、私たちの刃は魔素を持たないのだから。


「対魔法用の多重シールド、ね。そんなもの、アタシの魔法で吹き飛ばしてあげるわ。リリィ、援護は頼んだわよ。」

「任せて。」


 リューゼを一瞥したメリアは、意気揚々と龍に魔法を打ち込んだ。調整なんてしていない、超高火力のものを。威力の制御が苦手なメリアはこっちの方が性に合っているようで、撃つたびに魔法の威力が上がっていた。

 私はリューゼに一つの支援魔法をかけ、後はメリアの魔法に追撃を加えたり、龍がブレスで攻撃してきたら防御したり、メリアのサポートに集中した。

 対魔法用と言っても、耐久力には限界がある。そう踏んでメリアは一か所、龍の顔面に向けて魔法を撃ち続けてようとしていたが、どうやら予想が外れたらしい。わずか三発で一層目は割れた。二層目は一発、そして最後の層は四発。想定よりシールドが弱いか、メリアの火力が人知を超えたものになっているのかは分からないが、好機であることに変わりはない。二人で思い切り攻撃魔法を放ったが、すぐにシールドが展開されて簡単に防がれた。

 鱗が魔素を吸収すると言っていたが、どうやらそれはシールドを隔てていても機能するようだ。先程のものよりも、シールドが強力なものになっていた。そこからは、シールドを破っては張り、破っては張りの膠着状態となった。と、思われた。

 四度目のシールドが展開されると、さすがの巨龍にも疲れが現れ始めた。それまでに比べ、シールド生成に少しだけ時間がかかったのだ。それを見逃す私たちではない。休む暇を与えないように、全力で魔法をぶつけた。一層目、二層目と障壁を破った瞬間、私とメリアはピタリと攻撃を止めた。これが私たちの合図だ。

 不審に思った龍が私たちを見、何かに気づいたように目を見開いたが、既に遅い。背後に接近していたリューゼが、巨大な背中に剣を突き刺した。


「勝負あり、だな。このまま首を落として持って帰るか?」


 白磁龍が「先生」に助けを求めるように向けた泣き顔は、割と印象的だった。



 その後、私の魔法で白磁龍を回復しながら事情を説明した。私とリューゼの体質について話した時は悲痛そうに顔を歪め、「申し訳ないが力になれそうにない」と言われた。「代わりになるか分からないが、三人の鍛錬には協力しよう」とも。


 そんなことを想い返しているうちに、黒耀龍の住処まで帰ってきた。「先生」の背から降りると、気がついた他の龍たちも集まってきた。

 労りの言葉をかけてくれる中、ある龍が言いずらそうにしながらも「先生」に言った。


「来客がありまして。お疲れのところ申し訳ないのですが、会って頂けますか。」

「構わんよ。案内してくれ。ああ、お主らは適当に休んでいてくれ。」


 姿を人間に変え、駆けていく「先生」を見送ったのだが、「先生」は一分もせずに戻ってきた。私たちにもその客人に会って欲しいのだそうだ。

 断る理由もないからと、ついて行った先に待っていたのは、


「マスター?」

「お前たち、本当に生きていたんだな!」

「なんだ、知り合いだったのか。」

「知り合いも何も、この前紹介したいって言った冒険者は彼らのことだ。今日は街の様子と彼らの訃報を伝えるつもりだったんだが、まさかこんなサプライズが待っていたなんてな。」

「俺たち、死んだことになってるのか?」

「お前たちが魔の森を救ったのは明白だったが、二月も連絡が取れないと、流石にな。」


 あの日、魔の森からの生還者がいなかった以上、私たちが死んだことにされていても不思議ではない。しかし、二月というのはどういうことなのだろう。私が目覚めて、まだ二日も経っていないのだが。気になるところではあるが、今はマスターの近況報告を聞く方が大事だ。


「それで、街に何かあったのか?マスターがここまで来るってことは、それなりのことがあったってことだろ。まあ、誰がここと繋がっているのかは知らないんだけどな。」

「さすがの推理だな。非常事態だ。グラウンを狙う連中が、街を荒らし始めた。」

「それじゃあ、アタシたちも早く帰らないと。今の街の冒険者たちじゃ、限度があるわよね。」


メリアを筆頭に憤る私たちとは裏腹に、マスターは神妙な顔つきで考え込んでいる。熟考の末、何を思いついたのか、悪役のような邪悪な笑みを浮かべた。


「この状況、こちらとしては都合がいい。お前たちはこのまま、ここで待機していてくれ。街の方はこっちで何とかする。」

「どういうこと? 街に危機が迫ってるなら、アタシたちの力もあった方がいいと思うけど。」

「まあ聞いてくれ。奴らの目的はグラウンだけじゃないんだ。」


 グラウンさんを狙っているのは『白』の勢力の中心でもあるグランツェ教会。グラウンさんが『黒』の勢力の一員だということがバレてしまったらしい。とはいえ、グラウンさんは一商人に過ぎない。それにこの件は教会にとっても極秘事項であるはずだ。一般市民には『黒』の存在さえ秘匿されているのだから。


 では、なぜ私たちの街が襲撃されているのか。それは、国家転覆を防ぐため、だそうだ。

 私たちが育った街であり、北領の中心でもある街、ゾルフェア。そこは豊富な魔素を有する森、通称「魔の森」の近隣であり、グランツェの防衛の要でもある。しかし、ここには国の管理する騎士団は存在しない。自警団としての役割もこなす冒険者たちが優秀過ぎたのだ。


「心配性の宰相が教会と手を組み、今回の暴動を起こしたようだ。つまり、目的は優秀な冒険者を狩ること。」

「アタシたちも、その対象ってことね。」

「そういうことだ。お前たちが狩られるとは考えにくいが、最終兵器は隠しておくものだろう?」

「最終兵器……。そうか、リリィの両親がいないから、Sランクは俺たちともう一つ。火力だけで考えると、俺たちがトップになるのか。」


 一通りの話を聞き、私の中でほぼ確信に近い仮説が生まれた。


「わたしの両親は、国に殺された……?」


 私の父が受けた依頼は、存在しない商人の護衛で、Sランク以上の冒険者が対象だった。それに、教会に属する者であれば、あの呪いを白竜にかけることも可能であろう。つまり、父の殉職も、あの場所で白竜が暴れていたのも、すべて仕組まれていた、ということだ。


「俺、やっぱり街に行きたい。マスターの言っていることは分かる。でも、師匠の仇はまだ街にいるんだろ? それに、街には俺たちの大事な人がたくさんいる。危険が迫っているのに見過ごすなんて、俺には……。」

「アタシも。アタシは大切な人を守るために力をつけたの。今こそ、その成果を発揮する時よ。」

「……リリィはどう思う。」


 マスターに話を振られ、私は悩んだ。

 リューゼとメリアの言い分はよくわかる。両親の仇を取るチャンスであることに間違いはないし、街が危機に陥った時のために私たちは力を付けてきた。しかし、マスターの言っていた内容が本当なら、私たちが街に行くことで被害が拡大する可能性もある。それに、父が負けた相手なら、今のわたしたちで勝てるとは限らない。


「わたしは、ここに残るべきだと、思います。」


 意外な反応だったのか、メリアとリューゼは動揺を露わにしていた。が、それをおいて私は理由を並べる。そうすると、私の意図を汲んだらしい二人は渋々ながらも私の決断を受け入れた。


「ふむ。ならば決まりだな。街の動乱が落ち着いたらまた連絡に来る。」

「街のことは頼んだぞ、マスター。」

「誰に言ってるんだ。お前たちの成長、楽しみにしてるぞ。」


 必要なことは伝えたとばかりに、マスターは早急に帰って行った。「先生」とはほとんど話していなかった気がしたが、よかったのだろうか。


「奴め、吾輩の話を聞かずに帰りおった。まあいい。お主ら、明日からは予定通りの修行だ。覚悟しておくがいい。」


 そうして、修行の日々が始まった。の、だが。


「その前に、森での一件から二月って、どういう?」

「あ。」


 その気の抜けた母音が誰のものだったかは定かでないが、私が随分と長い間眠り続けていたことは、その時ようやく知ることになった。




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