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1. 会合


 世界を破滅に導く存在、魔王。それがつい先日誕生し、一つの国を滅ぼした。次に魔王の裁きが下るのは、その隣国であるグランツェ王国だと各地で噂されている。恐れをなしたグランツェ王国の国王は魔王を倒す手管として勇者を召喚した。召喚といっても、実際のところは教会の教祖に頼んで特別な力を持つ少年少女を招集したのだが、勇者たちの生まれや育ちを知る者がいないため「召喚」という言葉で定着した。

 現在集められているのは四人。特別な力を買われて王宮に集められた彼らは、全員が前世の記憶を持つ転生者であり、高校時代の友人同士でもあった。

 彼らが集まり、まもなく数年。あと一月もすれば魔王討伐の旅が始まる。そんな最中に届いたのは、新たな仲間が加わる、という知らせだった。

 今日はその仲間、聖女である少女が王城に来る日である。





 穏やかな草原に小さな火花が散った。鳥の囀りと小川がせせらぐ音をかき消すかのように、金属がぶつかる音が響く。平和な空気が満ちる王都近郊の林の中、小さな川の傍らに少しだけ開けた場所がある。

 勇者たち四人は、よくこの場所で実践形式の鍛錬を行っていた。雑談を交えながら行うのはよくあることで、いつもはお互いを煽り合うようなやり取りをしているが、今日は聖女の話で持ち切りだった。


「今のメンバーで十分だってのに、トップの奴らは随分と臆病だな。」


 剣を振るいながら言ったのはアキナ・ルブルム。赤く光る鋭い瞳と目つきの悪い顔をしているために怖がれられることが多いが、彼こそが人類の希望を背負う勇者である。

 対面していた少女、クレハ・ウェスペは小柄な体系に似合わない大きな剣でアキナの剣技を裁きつつ言い返した。彼女も勇者の一人だが、控えめな性格と可愛らしい容姿から変な男に絡まれている場面が頻繁に発見されている。


「サポートができる人がいないのも事実だし、仕方ないんじゃないかな。」

「攻撃こそ最大の防御、とか言うじゃない。それに、危険度が高い魔獣も討伐できたんだし、今のままでも大丈夫でしょ。」


 剣を交える二人を観察しながら意見を述べたのはテリナ・メディエ。桃色のツインテールを風に揺らしながら、得意の魔法を用いて二人の模擬戦を映像に記録している。華やかで可愛らしい容姿からは箱入りのお嬢様のような印象を受けるが、その実、彼女は四人の中で一番聡明であり、緊急の際には誰よりも頼りになる存在であった。


「リナもアキナに同意。人が増えて今のバランスが崩れる可能性があるなら、このまま四人で頑張った方がいいと思うかな。」

「そうは言っても、聖女様が来るのは今日なんだから今更断れないだろ? 来てくれる聖女様にも悪いし。」


 メンバーの追加に乗り気でないテリナとアキナを説得しようと、ユウヤ・ノークスは弓を磨く手を止めて言った。優等生という言葉を彷彿させる見かけから、彼がパーティのまとめ役だと思われることが多いのだが、中学時代は不良として名を馳せていた、メンバー一の問題児である。


「ユウヤの言うことは分かるけど、聖女様っていうからには女の子でしょ? リナたちのこと、忘れたわけじゃないよね。」

「それは僕も分かってる。けど……。」

「ともかく、今は言い争ってても仕方ねぇだろ。まずは会ってみて、それから受け入れるか決める。それでいいな?」


 アキナの一言に一先ずは三人とも同意した。

 彼らが新メンバーに抵抗があるのは理由がある。四人が前世からの友人同士であったのも一因だが、かつての彼らが人間関係で問題を起こしがちであったのが大きい。特にテリナとクレハはクラスの女子との揉め事が多かった。大抵は勝手な言いがかりをつけられて嫌がらせをされていたのだが、繰り返されるそれらの行為によって他人を信用できなくなっていた。

 たとえここが異世界であっても、前世の記憶がある以上は簡単に意識を変えることなんてできない。テリナが聖女を拒むのはそのためだ。

 とはいえ、聖女がどんな人物か分からないうちから悩んでいても仕方がない。アキナの言う通り、一度会ってみてから決めるのが賢明な判断だと言えるだろうと、テリナも納得していた。そういうわけで今は鍛錬を続けることにした。


「んじゃ、二人とも一回こっちに来て。」


 剣を構えていた二人を呼び寄せ、テリナは記録していた映像を再生した。


「前も言ったけど、アキナは動きが単調で単純。基本を大事にするのは悪くないけど、その分次の行動が読みやすいからすぐに対処されるよ。クレハは守りに入ってることが多いね。アキナの動きを呼んで対応できてるけど、ちゃんと反撃もしないと。」

「反撃、かぁ。うん、アキナくん、もう一回お願い。」


 それぞれが武器を構え、再び鍛錬の準備をした。その時、静観していたユウヤが突然弓を構えた。



「気を付けろ、何か来るぞ。」


 言い終わると同時に、ユウヤのいた場所に光り輝く矢が刺さった。方向からして王都の反対方面から放たれたものと思われる。間一髪で避けられたようにも見えたが、右腕にかすり傷が出来ている。

 獲物を逃した光の矢は役目を終え、瞬く間に光の粒子となって消え去った。


「外した? いや、そんなはずはない。それなら……。」


 王都の反対側から何か呟きながら現れたのは、アキナたちと同じ年頃の少女だった。木々から漏れる光に反射する薄い金色の髪と灰色の瞳、線の細い身体からは儚い雰囲気が溢れている。しかし、当の本人はというと、魔法で光の矢という物騒なものを次々と生成している。

 五本の矢が出来たところで少女が軽く手を振るうと、光矢は一斉に飛んで行った。が、方向を認知する間もなく、五つの光矢はユウヤの服を縫い留めるように着地した。


「は?」


 今度の矢は先程と違って消えるそぶりを見せない。あっという間に身動きを封じられたユウヤは悪態を吐きつつもテリナに向けて言い放った。


「テリナ、僕に構うな。早く策を!」

「わ、分かった。でも、ユウヤ抜きでとなると……。」


 いつもであれば、クレハが相手の気を引きつつアキナが攻撃、ユウヤが援護をしながら敵の行動範囲を狭め、テリナは後ろで様子を見ながら魔法を放つ。パーティのバランス的にもこれが最適だった。

 しかし、今まで相手にしていたのは魔獣であり、人間と対することは初めて。しかも一瞬でこちらの態勢を崩してしまうほどの実力がある上、明らかにアキナたちより経験がある。いくら人数の差があると言えど、こちらが有利でないことは明白だった。


「クレハ、アキナ、いつも通りでお願い。できるだけ耐える方向で。」

「分かった。アキナ、今日は好きに動いて。私が合わせるから。」

「いいのか? ちょうどオレも、試したいことがあったんだ。」


 目を合わせて頷き、クレハは呪文を唱え始めた少女のもとへ駆け出した。のだが、


「『その身を現し我が身を守れ』。」


 少女が言葉を紡ぐと、瞬く間に光の壁が出現した。しかし、今更止まれるはずもなく、クレハは壁に向けて思い切り剣を振るった。キン、と鋭い音が響き、壁には小さくはない亀裂が入った。それにすかさずもう一撃を入れると、壁は呆気なく光の粒子となって消滅した。

 その隙にアキナは少女の背後から接近を試みる。少女は気づいているようだったが、奇襲を仕掛けるつもりではないため問題ない。攻撃の手段からして魔法使いだと踏んで接近戦に持ち込もうとしていたのだ。

 アキナの予想は間違いではなかった。現に少女の身体はアキナの動きについていけていない。ように見えた。


「あ?」


 アキナの剣は少女を引き裂いた。それはもう、簡単に。手ごたえのない感触の後、少女だったものはさらさらと消えていった。


「偽物だった、ってこと?」

「だな。感触がまるでない。」


 そうなれば、とテリナの方を振り返った二人。その瞬間、目の前に光閃が迫った。少し経って、剣を突き付けられていることに気がついた。目元にあったそれは喉元までゆっくりと移動していく。ふよふよと浮遊する光の剣はユウヤを縫い留めているものと同じ、少女が作り出したものだろう。手持ちの短剣をテリナに突き付けた少女は微かに口角を上げて言った。


「チェックメイト、ですね。」



 その瞬間。空気を引き裂くような怒号が轟き、強烈な魔素の気配が五人の上部に迫った。見上げた先に見えたのは、巨大な炎の玉のような魔素の塊だった。一早く異変に気付いた少女は、テリナに向けていた短剣を手放し、その手を空、莫大な魔素の方角に振るった。それと同時に現れたのは透明感を持つ巨大な障壁。薄い膜のように見えたそれは、儚い見た目とは裏腹に、迫りくる魔素の塊を受け止め、相殺した。

 目も開けられぬほどの爆風の後、土煙の奥から現れたのは漆黒の鱗に覆われたドラゴンだった。


「黒耀龍? どうしてこんなところに……。」


 巨体を見て呟いた少女は、何の迷いもなくユウヤを縫い留めていた矢やクレハとアキナに突き付けていた剣を消し去り、全員に回復魔法をかけた。そして一番近くにいたテリナに焦ったように言った。


「ここは危険です。早く王都まで避難を。」

「あなたはどうするの?」

「ここで黒耀龍を倒します。」

「リナたちにも協力させて。これでも勇者なんだから、あなたにだけ任せて逃げるなんてできないよ。」


 二人の会話を聞いていた他の三人も概ね同意した。だが、クレハとアキナは怖気づいた様子も見せている。それでも逃げたくはないと、強い光を放つ瞳が語っている。そんな四人を見た少女は、悩むことなく感謝の言葉を口にした。

 その間も、黒曜龍の攻撃は続いていたが、先と同じ薄い光の膜が全ての衝撃を防いでいた。




 黒耀龍。黒く輝く美しい鱗を持つ、気高く高尚な存在。王城ほどの巨体から生える羽が一つ羽ばたけば嵐が吹き荒れるとされ、放ったブレスは一瞬で一つの国を滅ぼす威力を持っていると言われている、災害級であり伝説の存在。普段は誰も知らない山の奥に住んでいるとされているが、実際の姿を目にした者は十人にも及ばないと言われている。


「黒耀龍は、魔法を打ち消す鱗を持っています。なので、剣技を使えるお二人が頼りです。首元にある鱗の隙間から、一気に首を落としてください。」

「首元……あの紫の石みたいなやつがあるところだな。分かった。」

「わたしが支援するので、攻撃は気にせず飛び込んでください。それ以外はお二人に任せます。」

「アキナ、さっきのリベンジ。私がアキナに合わせる。でも、プランはいくつか、先に考えておきたいかな。」

「だな。」


 少女が他の指示を出している間、アキナとクレハはいくつかの作戦を練ることにした。およそ十通り、一分程度で考えたにしては上出来だろうと二人で自画自賛した。



「それで、リナたちは何をすればいい?魔法が効かないなら、あんまり役に立てないかもしれないけど。」

「確かに、魔法は防がれます。でも、炎魔法は威力が高いから、足元になるべく威力が高いものを撃ってください。あ、森に影響が出ない範囲で、ですが。」

「了解。でも、威力が高い魔法だとすぐに魔素が尽きちゃうかも。」

「大丈夫、森の魔素が、味方してくれるはず。尽きてしまったら、わたしに声をかけてください。」

「分かった。」


 この時、テリナには「森の魔素が味方する」という意味がまるで分からなかったが、もしもの時は少女を頼ればいいと解釈した。



「物理攻撃が通じると言っても、鱗の高度は並みではない。弓で突破するのは無理だと思っていてください。」

「鱗がない部分ならどうだ? 上手く当てられるかは分かんねえけど。」

「話が早くて助かります。鱗がないのは目の辺り。当たらなくてもいいので、狙ってください。あと、ブレスの妨害も頼めますか。」

「ブレスの妨害?」

「はい。先程の威力のものが来たら、近距離のお二人を守ることができないので。ブレスがある程度の大きさになったら、魔素を込めて弓を撃ってください。」

「魔素を込めて……それだけでいいのか? わかった、任せてくれ。」


 少女はテリナとユウヤに支援魔法をかけた。話によると受ける攻撃を軽減させるものだそうだが、二人には攻撃が来た時は回避を優先するようにも伝えていた。

 魔法が完成したところで、二人はそれぞれ準備に入った。



「こっちも準備できたよ。確認だけど、ドラゴンの攻撃、本当に無視して大丈夫なんだよね。」

「はい、わたしを、信じてください。」

「お前、さっき回復魔法を使ってたよな。死ななければ治せるってことか?」

「それもありますが、簡易シールドを張るので、多少のダメージなら無効化できるはずです。少し、そのまま動かないでください。」


 そう言って、少女は二人にも支援魔法をかけた。


「わたしは、ここで支援をするので、何かあればすぐ戻ってきてください。」

「了解。じゃ、作戦開始、だな。」




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