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11. 幕開け



迷いなく断りを入れた私たちだったが、グラウンさんはそのままの調子で話を続けようとした。


「まあ待て。話はまだ終わっていない。」

「話す必要なんてないわ。アタシたちには戦う理由がないもの。」

「メリアの言う通りだ。それに、国からの依頼なら、グランツェ教会も絡んでるんだろ。俺たちの大事な街を荒らした連中になんて、協力できるわけがない。」


 聞く耳を持たない二人に、グラウンさんは溜め息を溢した。因みに口をはさんでいないだけで、私もメリアとリューゼと同じ意見だ。まあ、私たちが断っている理由はそれだけでないのだが。


「君たちの言い分は分かった。だがな、王命だと言ったはずだ。君たちに断る権利はない。分かってくれ。」

「どうして、わたしたちなんですか。」

「勇者と同年代で、普通の冒険者より実力のある者なんて、他にいないだろう? 安心しろ。顔を合わせて、そりが合わないようなら帰っていい。」


 そう言われてしまえば、私たちにはどうすることもできない。乗り気でなくとも、了承するしかなかった。


 勇者については、「先生」からの忠告があったのだ。『白』の加護を受けた少年が、王都で勇者と仰がれていると。『白』の加護を受けているということは、グランツェ教会の息がかかっている可能性が高い。つまり、私たちの敵になる可能性も高い。接触は避けた方が得策と言えるだろう。


 とはいえ、こうなってしまえば仕方がない。せっかくなら、相手の実力を把握するために活用しようではないか。


「勇者、か。確かに俺たちは最強だからな、他に肩を並べられる奴なんていないだろ。だが、その勇者って奴は、俺たちについて来れるのか?」

「そうね、アタシも同意見よ。アタシたちを利用したいなら、三人で魔王討伐に行った方が現実的だわ。」


 二人の言い分はもっともだ。私たちがパーティを組んでから、もう五年は経っている。付き合いの長さで言えばもっと長い。呼吸を合わせた数々の戦術は、私たちの付き合いの長さが成せる業でもあった。人数が増えると作戦の幅は広がるが、今まで使っていた戦術が使えなくなることも忘れてはならない。

 戦闘面だけではない。勇者と私たちは全くの他人。メリアはともかく、私とリューゼは人付き合いが苦手な部類に入る。メリアとリューゼ、もしくはマスターが相手であれば多少慣れてきてはいるが、私は誰かと話すときに言葉を詰まらすことが多い。人との会話は、前世から変わらない、私の最も苦手とするものだ。リューゼも私ほどではないにしても、他者とのコミュニケーションは上手くいっていないことが多い。意図的なのかは不明だが、相手を煽って怒らせることが多いのだ、彼は。


 それに、私の中の勇者像は、紛れもなくリューゼなのだ。私自身、新たな仲間を勇者と認めることは難しいかもしれない。これはおそらくメリアも同じだ。


 考えるほど不安が募ってくるが、それらはグラウンさんの一言で吹き飛ぶこととなった。


「言い忘れていたな。君たちの心配は不要だ。招集がかかったのは、リリィ殿一人だけだからな。」

「…………え?」

「勇者パーティはほとんど完成しているんだ。だが、支援魔法を使える者がいなくてな。それに、みんな優れた戦士ではあるが、協調性が欠けていて、冷静に指示を出せる人材も必要なんだ。リリィ殿が適任だろう?」


 メリアとリューゼの表情が曇った。しかし、すぐに不自然なほどの明るい笑みを浮かべてグラウンさんに同意した。


「え、えと、少し、二人と話す時間をいただけますか?」

「ああ、もちろん。何度も言うが、これは決定事項だから理解してくれ。出発は明日の夕方だ。私はマステオのところにいるから、質問があれば来てくれ。」


 それでは、とグラウンさんはテントから出て行った。このテントは自由に使っていいと事前に言伝をもらっていたため、私たちは遠慮なく居座ることにした。


「……行ったな。よし、リリィ、作戦を立てるぞ。」

「作戦?」

「そうよ。リリィが、勇者パーティに馴染むための、ね。」

「馴染むって、どうして?」

「前に言ってただろ、色んなところに行って、この世界を堪能したいって。丁度いい機会なんじゃないか?」


 それは確かに、冒険者になったばかりの私が言ったこと。この世界の隅々を見て回りたい願望は、今も変わらず残っている。しかし、それはメリアとリューゼが傍にいることが前提だ。私は二人の、楽しそうな姿を見るのが好きなのだから。


「嫌、だよ。二人がいないと、わたしは……。」

「アタシも、リリィと離れるのは嫌よ。でも、あなたを縛りつけるのはもっと嫌なの。」

「別に、一生の別れってわけでもないんだ。俺たちが過ごした年月を考えれば大したことないだろ。俺たちには、別の役目もあるんだから。」

「そうね。魔王なんてさっさと倒して、またアタシたちと冒険者になればいいのよ。それまでこの街を守る役割も必要でしょ?」

「それに、勇者とはいずれ敵対する可能性もあるんだ。相手の実力を知っておくのも大切だろ?」


 納得はできないけれど、理解はした。ここまで言われたら引き下がるしかない。

 しかし、私の不安はどうしても拭えない。私以外のメンバーは既に揃っているようだから、勇者たちに馴染める気がしないのだ。


「まあ、あなたの不安は理解できるわ。だからこそ、作戦を考えるのよ、三人で。」

「そういうことだ。安心しろ、お前を独りにはしない。ほら、グラウンさんだって言ってただろ。勇者たちが合わないようなら、帰って来ればいい。お前の居場所は、ここにあるんだからな。」


 そうして大量の策を練っている間に、夜は更けていった。






 出立の時間は瞬く間に訪れた。噂を聞きつけたらしい街の人々が見守る中、私はグラウンさんの馬車に乗る。その最中、「勇者が気に入らない奴だったらすぐ帰ってきていい」だとか、「街の天使がまたいなくなってしまう」だとか、私の旅立ちを惜しむ声が聞こえた。


「俺たち、リリィに負けないぐらい強くなっておくから、帰ったらまた手合わせしてくれよな。」

「街のことはアタシたちに任せなさい。リリィの名声が届くの、楽しみにしてるわね。」

「うん。行ってくるね。」


 必ず帰ると約束し、荒れた温かい街に手を振った。そうして、私の旅は幕を上げた。









「……寂しくなるわね。」

「だな。」

「アタシ、ちゃんと笑えてた?」

「ああ、完璧だったよ。……もういいよな、無理しないで。」

「そう、ね。ねえリューゼ、アタシたち、これからどうすればいいの?」

「街を戻して、リリィを迎える環境を整える。他は、俺にも分かんねえよ。」


 馬車が走り去った方角を見つめ、静かに流れた二人の涙は、黄昏の空に溶けていった。




ここまでお付き合いいただきありがとうございました。次回から本編に入ります。今後も牛歩で不定期な更新になりますが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

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