モンブランって、なんですか?
モンブラン。
それは10年前この国に来た勇者が大事そうにアイテムボックスの奥底に取っておいたものだった。
勇者は旅の途中、イーリュ王国へと立ち寄り、王女の美貌に大変感心したそうな。そして、彼女のために最後の一つのモンブランと、そのスイーツが生まれた日本の話を献上し、この国をさったそうな。
「その時食べたモンブラン、あの味が今でも忘れられないのです!」
当時王女は6歳。甘いものはまだ流通しておらず、そのクリーミーな舌触りとほのかに香る謎のきのみの味がその舌に刻まれたという。
「ダイ様は、日本からきたのですよね?あいにく、以前イーリュにいらっしゃった勇者はモンブランをおいただけで出て行ってしまいました。彼の話ももう10年聞いていません」
え?それって死んだってことなんじゃ……
「お願いです。ダイ様はモンブランを持ってはいませんか?持っていなくとも、その製造法を知りませんか?お願いです、またあの味を堪能したいのです!」
な、る、ほ、ど。
つまりはこういう話だ。
お前日本から来ただろ!だから日本のスイーツ作れるんだろ!こういうことだな。
なわけあるかい!俺は今までチーズケーキも作ったことないぞ!ましてやモンブランなんて、どうやって作るのかさっぱり想像つかん!
だが、その材料は知っている。栗だ。多分あれは栗と砂糖をどうにか混ぜるとうまい感じに出来上がるのだろう。
つまりこの世界で栗を見つけることができれば、もう簡単な話になるんじゃないか?
しかしどうやって探すというのか……この世界がどれだけ広いのかは分からないが、一つの食材を探し当てるのはかなり難しい話だろう。
俺が悩んでいるのをみたのか、王女はその身につけていた首飾りを取る。
「これは、イーリュの王族関係者である証。これがあればこの国で何を買うにしても不自由を強いられることはないでしょう」
「え、なんですかこれ!?」
「おお、それをあげるのか、フラン!」
ちょ、ちょっとこれ大事な奴なんじゃないの!?あんま気軽に受け取れないでしょ!
「幸いこの国には世界から様々なものが届いてきます。お願いです、何とかモンブランを作ってはくれないでしょうか」
ぎゅっと手を握られる。うわわわわ、なんか幸せだぁ〜。
「わかりました、任せてください!」
気づけば俺はそんなことを言っていたのだった。
さて。
「おい、あれ狂凶の……」
「馬鹿野郎、目を向けんじゃねぇ!」
ひそひそ声がそこらじゅうで聞こえる。やっぱ街は喧騒で溢れているな。
しっかし、どうしたものか。
「あんた、お姫様のお願い事ほいほい聞いちゃったけどさ、どうするわけ?」
な、なんかルージュにあんたって言われるとなぜか傷つくな、いやこういう関係の方が自然なはずなんだけど。
「モンブランてのは何?あんた、作れるの?」
「モンブランってのは俺のいた世界で作られたスイーツさ。任せとけ、ありゃ栗を使ってるんだ、それさえあれば簡単だ」
ポケットに入れていた首飾りを見る。誰かの顔が刻まれた金華だろうか、何だかオリンピックのメダルみたいだな。あれよりはちょっと小さいか。
「ふむ……貴様、そのクリとやらに覚えがあるのか?」
「いや、栗ってのは何かしらの手法の名前じゃ無くてだな、食材の一種だよ。トゲトゲしたやつに入っててな」
あの王女様は港を探すように教えてくれた。この国には世界各国からあらゆるものが届くとも言っていた。
そしてその際に不自由がないように手段も持たせてくれた。この金貨は無くさないようにしないとな。
「よし、じゃあ港で探すぞ!目的は栗だ!」
俺は異世界に来てまで何をしているのだろうかと、一瞬思った。
が、あんな可愛い王女の頼みだ、それを無下にすることはできないってもんだ!