~俺は何をしにこの世界に来たのだろう~
とにかくわかった。この世界にも歴史があるのだ。モンスターと戦うことになった理由が。魔人と魔物が区別されるようになった理由が。
俺はこれでも結構な数の異世界漫画を読んできた。それが原因だろうか、異世界に行ったって結局はなんとかなると思っていた。しかし、違うのだ。
ここは地球だ。日本だ。
そう考えた方がしっくりくる。異世界でも現実だ、と言っても結局それは異世界という夢に包まれている。
俺はもうここで生きていくしかない。しかも日本とは違って、いつモンスターが襲ってきてもおかしくない世界で。いつ変な気を起こすかわからないドラゴンと暮らしていくしかない。
どうだ?これでもまだ異世界に行きたいと思うのか?
俺はめちゃくちゃ行きたいね。
怖い?死ぬかもしれない?は、そんなこと、考える必要はない。
俺はこういう世界にいきたかったんだよ。
誰の力も頼りにならない。明日の食料もない。力があっても理屈がわからない。こういう世界に一人きりになる。
決心した俺は、もう誰に流されることもないだろう。
また幾らかの月が流れた。
俺の住んでいた家の周辺は、一つの村となっていた。といっても家はまだ一つだけだが、5つくらいの世帯があっても食いつなげられるほどの畑はできた。
もうここで一生暮らしていっても、食い物に困ることはなさそうだ。がむしゃらに頑張っていたが、いつの間にかスローライフができるような環境になっていた。
魔物の家畜を放牧するスペースもある。魚を人工的に管理する区間もある。油や胡椒などの調味料を育てる畑もある。
もう、不自由がない。
そして気づいた。
「俺、何のためにここにきたんだ?」
もう目的がなくなった。
今から冒険するか?いやしかし、せっかく作ったこの畑や、エヴァンスからもらった家はもう固定されているので持っていくことはできない。
ならば日本にあったものを作ってみるか?いやしかしその知識も技術も俺の手にはない。
スキルを使って色んな人物と仲良くなるか?いや、もうルージュとストラでお腹いっぱいだ。
あ……
やることがなくなったな……
そもそも俺は何がしたくてこっちの世界に来たんだっけか。あ、そうだ、特に何も考えてなかったんだ。
とにかく生きようと必死だっただけだ。死にたくないから、そのために川にもぐったりわけわからんキノコを食べたんだ。
でももうその必要はない。生活に余裕が生まれた。
俺は、異世界に来てまで何をしてたんだ。まさか、厄介ごとがあっちからやってくると思ったのか?自分は何もしなくても、何かやることが降って湧いてくるとでも思っていたのか?
関わっていかねば、何も始まらない。
俺から何かを始めなければ誰も関わらない。
そうか、だからみんな冒険者になるんだ。冒険して、色んな世界を回って。そこで仲間に出会って。
そうさ、この家は帰る場所にすればいい。いつか帰る場所として、新しい冒険に行けばいいじゃないか。
「ダイ、少しいいか?」
「あれ、どうしたストラ」
「お主、この前炭酸とやらを作ろうとしていたよな」
あー、そういやそんなこともあったような。
「もしかして、これではないかと思ってな」
アイテムボックスから取り出されたそれは謎の紫色の液体が入った小瓶。
「飲んでみろ」
「え、やだよこれ、絶対毒でしょ」
「早よ飲め」
確かに見た目はかなり派手だが、もしストラの言う通りならこれは炭酸飲料ってことになる。
ええい、ままよ!
俺は勢いよくそれを飲む。瞬間、弾ける喉。
シュワッとした爽快感、喉の奥をキュッと絞るような感覚。まさに求めていたそれが俺を襲う。
「っか〜〜〜〜!!うんめぇえええ!これだよこれ!」
「おお、やはりそれが炭酸とやらか!」
「え!なにそれお兄ちゃん!私にも飲ませてよ!」
畑仕事をしていたルージュが興味を持つ。畑仕事といっても、ポチと一緒に走り回っているだけだが。
「っぷはぁぁー!すっごいわね、これ!すごくおいしい!」
「はっはっは、ルージュはさっきまで動いていたからな。普通に飲むより旨く感じているはずだぜ」