~いわく、ドラゴンの言い伝えによると~
「うお、いたのかよルージュ!」
後ろの茂みからいきなりババーンと飛び出てきたのは最近の行動を流石に自重しているルージュ。こないだは俺が一生懸命作った食器を壊そうとして、途中でやめていた。えらい!
「そもそもこの世界の成り立ちについて、教えてあげるわね」
ルージュの話はこうだ。
この世界には、多くの種族が存在する。オーク、エルフ、ドワーフ……NPCと呼ばれる彼らも、一つの種族と考えられる。
そして彼らは、もともとこの世界に住んでいなかったのではないかとされている。進化の過程でそう言う種族になったのではなく、ある日突然オークが生まれたんじゃないかと言う考えだ。
根拠は、ドラゴンの言い伝え。
そもそもこの世界にまともな歴史は残っていないのだ。
この世界には多くの種族が存在する。いつからいたのか、どこからきたのか。なぜそれを証明する異物や伝承が言い残されていないのか。
もう一度言うが、この世界には多くの種族がいる。そう、その数だけ自分たちとは違う生物に出会うのだ。そして、そのたびに違う考えにぶつかり合う。
そんな世界で、戦争をしないようにするなんてことは無理だ。いくら互いに見た目が似ているからと言っても、魚人と人間が同じ陸で過ごせるとは思えない。しかし人間たちが増えるにあたって、住める土地を増やさなければならない。
同じ世界に住んでいるのだ。どこかで必ず他の知性ある生き物と対立してしまうだろう。
そしてその争いで失うものは命だけではない。どちらかが負ければ、その種族の歴史はなくなっていくだろう。国が滅べば、その名前はいずれ知られなくなるだろう。
そうやって歴史は消えていったのだろう。発掘しようにも、今もまだ対立している国もある。まだこの世界は戦争をしているのだ。
ならばその種族はどこからやってきたのか。そんなに多くの種族、一体どうやって進化していったのか。どこからそんな生物が出てきたのか。
異世界だ。
別の世界からやってきた、だから姿形があまりにも違う。そう考える方が自然なのだ。肌の色、髪の色ならまだしも、鱗、牙、ツノ、ヒレ、触手……それどころじゃない。顔の位置、手の数、体型、足の生え方……全てが、何もかも違うのだ。
曰く、ドラゴンに伝わる言い伝えによると。
―我らドラゴンはドラゴンの神により生み出された。ドラゴンの神はこの世界の空間に穴を開け、そこに人間を入れた。すると人間どもはみるみる姿を変えて、ドロドロに溶け苦しみに溺れて死んだ。
そしてその空間の穴に人間を入れたことにより、ドラゴンは生まれてきた。ドラゴンは穴の奥、空間の奥に封印されていたのだ。
我らドラゴンがこの世界に存在しているのは、ドラゴンの神が世界の空間に穴を開けたおかげなのだ―
なるほど、捉えようによっては異世界からドラゴンがやってきたように思える。ドラゴンの神、と言うのが本当にいるのかは定かではないが、大まかな流れは正しそうだ。
「だから、ドラゴンは人間に対して基本は敵対的なのよ。人間を舐めていると言うか、圧倒的下に見ていると言うか」
ルージュはそんなこと言う。なるほど、だからルージュはドラゴンを見て戦おうとしたのか。
「だが、中には人間のことをよく思っているドラゴンもおるぞ。我らがこの世界にやってこれたのは、人間たちのおかげだという輩もいるのだ」
ストラが補足的に説明してくれる。でもそれも、なんか人間を下に見ているようなんだけど。