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〜ルージュはすごいやつだとわかった〜

 その後ストラは俺の家に住み着くことになった。


「あんた、流星のストラとか言ったっけ?」


「ああそうだ。君は確か、ルージュと呼ばれていたな?」


「なにあんた、狂凶のルージュを知らないの?」


「我はドラゴニルから出たことがなかったからな」


 ルージュとストラは同じ屋根の下に寝ているというのに一向に仲良くなる気配がない。目があったら喧嘩を始める日々。


 おかげでルージュはそのストレスを俺にぶつけることが多くなった。今朝も枕を川に放り投げられた。しかし俺は怒らない、ルージュの気持ちもわかるからな。


 ただストラはルージュに比べてポチや畑に対して何も危害を加えない。ルージュが勝手にストラに噛み付いているだけだ。


 しかしそれも最初のうちだけだった。日に日にルージュはストラに噛み付くことが少なくなった。これはストラがずっと大人な対応をしていたからだろう。むしろストラの行いを見てルージュは我が身を振り返ったんじゃないかと俺は思っている。


 そして夏が過ぎた。


 畑の野菜が育ち、本格的にこの地に住み着くことを決めた頃。


 ルージュがデレた。


 以前のように畑を移民区壊したり、ポチを執拗に追い回したりしなくなり、逆に畑仕事を手伝ったり、食事の後片付けをしてくれたりしている。


「なんで最近優しいんだ?」


 俺は耐えられずルージュに直接聞いてみた。


「あのドラゴン娘さ……本当に害がないってわかったんだよね。あいつはお兄ちゃんに対して優しいじゃん。お兄ちゃんはそんなの関係なしに私にも優しいけどさ」


 いや、優しいっていうか懐が広いというか。正直、ルージュが何をやってもどうでもいいというか。


「でもさ、私気づいちゃったんだよね。私、結構長く生きているのに、中身が成長してないって。自分のわがままばっかり、なんかストラは大人じゃん。なんか、なんかあいつに負けるのは嫌なの」


 言葉足らずだが、ルージュの言わんとすることは痛いほどにわかる。今までは、一人で生きてきたし、それをつべこべいう人もいなかった。


 ただ、今は違う。どうしたってストラと自分を比べてしまうし、ストラを排除しようにもストラは自分の目のつくところにいる。


 俺もそんなことがあったなぁ。同じクラスでアニメオタクのやつがいた。あいつは俺より多くの作品を知っていて、俺がなんか面白い作品を言っても、あの作品に似ているね、とか言ってくるやつだった。


 俺は無視してしまった。だが俺は、本当はそのたびたび言われる作品名を気にしていた。見ようと思った時もあるけど、だからと言って好きな作品がその作品に似ていると自覚したくなかった。


 だが、ルージュは自覚した。自分が悪いことを。俺の時だってそうだ、あいつは悪くない、それっぽいねと思ったことを言っただけで、それ以上の意図はない。なのに俺は勝手に過剰になって嫌なやつだと思っていただけだ。


 真に浅ましいのは、それっぽいと言われた作品を確かめもせずに似ていないと否定した俺の方だ。


 はたから見ればそのことに気づく。ただ、ルージュは自分でそれに気づいたんだ。


「お前、すげぇな……」


 俺はルージュのことを誤解していたのかもしれない。こいつは素直なだけじゃない。子供なだけじゃない。


 自由なんだ。


「いいんだよ、ルージュ。お前はそのままでも」


 なんか、ありきたりな言葉だな、これ。


「あー、こんなことしか言えないけどさぁ。俺、お前が騒がしくしてくれるおかげで毎日楽しいんだよ。本気で嫌なら、注意してるよ。ほら、ポチを経験値にしようとした時とか、ストラを殺そうとした時とか」


「ああ、そう言えばそうよね」


「だからさ、枕を投げたり畑を荒らしたり……最近はそんなことしてないけど、俺はお前が暴れなくなった時、変なキノコでも食ったのかと思ったぜ?」


 畑を荒らす、とは言ったものの、正直あれはまだ食べ物が育っていなかった頃の話だったので、逆に暴れたことで耕されたのだ。


 植物が育った後もルージュは暴れていたけど、育っている苗には魔法を打ってはいなかった。狂っているといえ荒れているけど、彼女には常識があるのだ。


 あの時、ルージュが俺とぶつかった時。彼女は殴ると犯罪を犯してしまうと言っていた。だから殴らない、この判断は常識的じゃないか?


「ルージュ、お前は自分が思っているより子供じゃない。お前はすごいよ、誇っていい。今まで舐められないように頑張ってきたんだもんな。それだけですごいのに」


「な、何よ。お世辞なんて」


「お世辞じゃない。お前、自分の悪いところに気がついて改善しようとしたんだろ?まぁそれはお前のいいところなんだけどな、でも自分で気づくってことがすごいんだよ」


「〜〜〜!もう!いいよ、もう!わかったから!」


 ルージュは顔を真っ赤にしてスタコラさっさとどこかへ行ってしまう。


 翌日、ルージュは元気に俺の体を山の上から放り投げた。


 俺は本気でルージュのことを怒ったのだった。

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