〜頼むから喧嘩しないでくれ〜
「ふーむ、普通ならこの森にいる時点で気が狂っているはずなんだが……お主、本当に人間か?」
「それルージュにも言われたな。何?俺そんなに珍しいの?」
「貴様、この我に対してふざけた態度を取るとはな」
「いやそれよりまず!まず服を着てよ!見ちゃうからさぁ!」
「見ても良いぞ、ほうれほれ」
「くぅぅううう」
俺は紳士だ、紳士なんだ。絶対に見ないぞ!絶対に、だ!
ちら。
「おいもう服を着てるじゃねぇか!」
「ん?なんだ、やっぱり見たかったのか?」
「いや、そんなことは……ないすけど」
なぜだか後悔している俺。俺は正しい行いをしたはずなのに、なんか勿体無いような。
「おいトカゲやろぉ!よくもやってくれたなぁ!」
瓦礫の中から戻ってきたルージュ。無事だったか!ポチも無事だ。
「お兄ちゃんから離れろクソやろぉぉおおお!!」
ぴかっぴかっ!うおお、なんだと思ったらあの攻撃は光線銃みたいなやつか!やっぱ精神攻撃だけじゃないんだな!
「鬱陶しいな」
レーザービームを腕で受け止めるストラ。爆発するが、その腕は火傷を追う程度で済んでいる。
「く、このままだと腕が壊れてしまう!」
余裕で受け止めていると思ったがそういうことはないらしい。
「おいルージュ!やめてやれ!なんか話がわかる風だ!」
「そんなわけないでしょ!ドラゴンよ!?」
「敵意がなさそうなんだよ!頼むルージュ!」
「……は、しょうがないわね」
おお、珍しく素直だな。
「まぁあんたら落ち着けよ。まずそこのドラゴン娘、あんたはいったい何しにきたんだ?」
「ベルゼブブの森に住んでいる人間がいると聞いてな。それで会いにきたのだ」
「あら、私のことかしら?」
「なんだちびっこ、やるか?」
「殺す」
「まてまてまてまて!すぐに暴力で解決しようとすんなよ!」
くっそ、なんでこんなことに巻き込まれてるんだ?
「一応敵意はないんだよな?見ての通り俺はいまこのおてんば娘一人で手一杯でな、また後にしてくれないか?」
「いや、我はお主が気に入った。こんな奇妙なもの、滅多に会えないだろうて」
「ちょっと!お兄ちゃんに色目使わないでよ!」
「ふん、自分が色目を使えないからと言って変な言いがかりをつけるでないわ」
「まぁーまぁーまぁーまぁ!」
くっそー、どうせこいつもどっかで俺の眷属になった蚊に血を吸われてやってきたんだろ!あの蚊たちってどうにかできないのか?
「お兄ちゃん、気をつけて、そいつはお兄ちゃんの眷属じゃないのよ」
「え?なんて?」
「眷属?ほーう、貴様、なかなか面白いスキルを持っているようだな」
そういえば違和感があった。このドラゴンは、俺に対して親友とかお兄ちゃんだとか呼んでいない。
ずっと、貴様貴様と、下に見ている発言だ。
「もしかして、ここ最近蚊に血を吸われたりとかは……」
「我は高貴なるドラゴンぞ、羽虫に血など吸われようないわ」
おいおいおいおい、てっきり俺は眷属だから、またなんとかなると思ってたぞ?まじかよ眷属じゃないのかよ!
「しかし面白い、どれお主の体、調べさせてもらう」
「近寄んないでよ!」
ぐいと引っ張られる。おや、この感覚は身に覚えがあるな。そのせいか今度は気を失わずにすんだ。
ルージュは俺のことを守ってくれている。守り方は乱暴だけど、その心は俺の心配してくれている。どうして俺を助けるんだ?
ルージュは眷属になっていないはずだ。なら俺なんか見捨ててどこかへ行って仕舞えばいい。あのドラゴンは、おそらくルージュよりも強い。ルージュの本気の攻撃を遺体程度で済ませたのだからな。
「ルージュ、俺のことはいいよ。お前は俺のこと好きじゃないだろ?見捨てていいよ」
そして願わくばそのままどこかへ行ってほしい。いや、でもそれはそれで寂しくなるか。
「私はね、ダイ」
ルージュが俺に語りかける。
「みんなに嫌われていたの。元々魔力の量が多くて、多くの魔法を使えた。しかも、こんな子供の姿で成長を止められる呪いまでかけられて、周りからすっごい舐められた目で見られた」
その話は、ルージュと二人きりの時に話してくれたことだ。春なのに雪が降って、異世界ってこんなもんかと思った日だ。