第三話 洞(うつろ)の姫と呪いの一族 後編 ~咲姫編~
第三話 洞の姫と呪いの一族 後編 ~咲姫編~
護之は一度結婚したものの周囲を取り巻く状況から、沙羅と別れるようになってしまい。隣国の大名家から鈷泉咲という名の姫が嫁いできたのでした。
※ 鈷泉氏は架空の家です。 平泉・独鈷を合わせました。 近隣に独鈷城という城が存在したので、鈷泉とはじめは考えました。
今泉の郷で護之と咲姫は輿入れを行ったのであった。
「鈷泉って珍しい名前ですね」
「今泉家と同じく平泉ゆかりの姓です。 廃城になった独鈷城の周辺に住んでいたので変わった姓になりました。 護之様、末長くろしうございます」
「ああ、こちらこそ何もない貧しい領地だがよろしく頼む」
今泉の郷での輿入れは滞りなく行われた。
咲姫が嫁いでしばらくふたりは一緒にいる機会が多かったのでした。
そして6ヶ月の時が経ち、護之と咲姫が妊娠したのでした。
しかし、護之は沙羅のことが忘れられなかったのでした。咲姫が産気づいたときに、沙羅の元に通っていたのでした。
今泉家の父、政輝は咲姫との婚姻の問題で沙羅を人目がつかない村の奥に追いやったのでした。 今泉の郷は現在における宮城、秋田、岩手の境のあたりでしたので、奥羽山脈の麓の村でしたので、沙羅が住んでいるのは山の中になっていたのでした。
「沙羅、入るよ」
「護之様なの、 寂しかったです」
「済まない、俺に力がないばかりにお前をこんなところに追いやる形にしてしまって」
「いいえ、護之様。 わたくしは向こうの村でも追いやられていた身です。 慣れてしまっています」
「強がりすぎだ。 食べ物を持ってきたぞ、俺もあまりここに通うことは出来ないからそろそろ帰るぞ」
「護之様、わたくしのことなんて忘れて生きてください。 貴方は大名の跡取りです。
正室が出来ている今、側室でもない女性の元に通うのは貴方の立場を悪くするだけです」
そしてついに、護之と咲姫の間に子供が生まれたのでした。
産声が聞こえる中で咲姫にねぎらいの言葉をかけ
「護之様。 この子の名前は決めているのですか?」
「磐輝。 お前のゆかりの白磐の地名と父の輝の名を拝領している」
「いい名前ですわ」
出産の疲れですやすやと眠ってしまった咲姫。
さらに1年の月日が経ち凪は2歳になり、磐輝は1歳となり乳離れしたので、咲姫を伴って領地を巡回したのでした。
「護之様。 あの村奥にあるあばら屋は誰が住んでいるのですか?」
「廃屋だよ」と誤魔化すが、咲姫には沙羅の元に通っていることがばれていたのでした。
「あそこに沙羅という女がいるのですか?」
「どうしてそれを!」
咲姫は烈火のごとく怒り沙羅が済んでいるあばら屋の方に駆け込むのでした。
そして、家の外で沙羅と咲姫がつかみ合いになり、咲姫が足を踏み外して崖下に落ちてしまったのでした。 護之は急いで崖下に降りて咲姫を探して見つけたのですが、咲姫は瀕死の状態でした。 「わたくしは貴方のことが許せませんわ。 貴方とその子孫を末代まで祟ってやるわ」と言って息を引き取ったのでした。
そして、跡取り不足か、咲姫の実家である鈷泉家は途絶え、今泉家は続くものの子孫は短命になったのでした。
–––– 現代
そして、護道は目が覚めてあたりを見渡すと凪沙さんに膝枕をされていたのでした。
「護道君、起きたの?」
「サラ? いや凪沙さん……スミマセン寝ぼけたました」
少し据わった眼で俺を見て
「護道君。サラって誰なの?」
「夢で出てきた女の子だった。 彼女は銀髪だったけど、凪沙さんそっくりの人だった」
「へえ~。 どんな夢だったの?」
俺は凪沙に夢で見た話を伝えたのであった。
「悲しいお話ね、 でもいい今泉って君の名前よねもしかして咲姫と関係あるんじゃないの?」
「そういえば妹の美咲って咲姫と瓜二つだった」
「そうすると咲姫の呪いって今も続いているんじゃないの? 明日時間を作って厄払いの神社に行きましょう」
「凪沙さん。ありがとう」
そして俺は帰宅すると、血がむせかえるような匂いがして
「お兄ちゃんお帰り」
そこには妹の美咲が、父と母を殺し両親だったモノをむさぼり食べている姿があった。「お兄ちゃんも食べる? おいしいわよ」どちらかの心臓を引きちぎり俺に差し出してきたのだ。
そこで俺の意識は闇に閉ざされたのだった。
翌日の朝
「お兄ちゃん起きて」
ゆさゆさと布団を揺さぶられ目を覚ますと妹の美咲の姿があった。
「美咲。 父さんと母さんは?」
「お兄ちゃん何言っているの? 5年前病気で死んじゃったでしょ」
美咲に言われて気がついたのだ。 両親は5年前に死んでいることを……。