第一話 護道と凪沙の出会い
注意:この作品の大名家と地名は架空のモノです。実在しません。
第一話 護道と凪沙の出会い
ゆさゆさと布団をゆすぶられて、
「お兄ちゃん起きて」妹の美咲に俺は起こされたのであった。
「美咲? 美咲なのか? お前、生きているのか?」
「お兄ちゃん、ひどいよ。私は死んでいないよ」プリプリ怒る姿はまぎれもない俺の妹だった。
なぜ、妹が生きていたのかと俺は問いたか? それは1週間前の話だった。
朝学校に通学すると下駄箱の中に封筒が入っていた。 まさか俺、今泉護道にラブレター(だと思う)と思ってこっそりとトイレで封筒の中を見ると
『放課後第2音楽準備室で待っています』ときれいな字で書かれていた便箋が入っていた。 なんだろうと思いその日は授業が集中できず色々とやらかしてしまったが、
放課後俺は第2音楽準備室に向かったのだった。 そこには長い艶かな黒髪でミステリアスな美少女が第2音楽準備室の窓で外を眺めていたのだ。
「真藤先輩?」と俺の口から声がこぼれた。
「今泉君、来たのね」2つ上の先輩、真藤凪沙が黒髪を靡かせて振り向いた。真藤先輩は俺の憧れの先輩で孤高の3年生でオカルト研究部の部長だった。
「真藤先輩どうしたのです、俺を呼び出して」
第2音楽準備室はしばらく沈黙に包まれ
「今泉君。好きです。私と付き合って下さい」突然俺は憧れの今泉先輩に告白されたのだった。
真藤凪沙。俺が通っている高校の3年生の先輩だった。 その現実離れした完璧とも呼べる容姿から好意を持つものも多数いて告白するものの玉砕する。ついたあだ名が黒魔女である。
俺はなぜ真藤先輩がと思ったが、彼女の想いに答え交際することにしたのだ。
3日後の日曜日
俺は付き合うことななったばかりの真藤先輩と遊園地でデートをすることになったのだ。 デート先は定番の代名詞であるエリカーランド。チェーンソーを持った少女がマスコットキャラの遊園地だった。
他のキャラクターもあるが一番人気がツインテのチェーンソー少女だったのだ。
「エリカちゃん人形可愛いわね」真藤先輩はマスコットキャラクターのストラップを見せてきた。
「真藤先輩。 俺の何が好きだったのですか?」
「護道君、他人行儀の呼び方はやめて、凪沙と呼んでよ」
「し、じゃなくて凪沙先輩」
「凪沙先輩でなくてなぎさと呼んで護道君」と腕を組んできた。
俺は凪沙の体温を腕から感じる胸の感触にタジタジとなりながらたどたどしく
「なぎささん、次はどこに行く?」 と聞き返したのでした。
「まだたどたどしいけど合格。 護道君照れちゃって可愛いね。じゃあジェットコースターに行きましょうか」
ふたりはジェットコースターに乗り俺は見事に気持ち悪くなってしまったのだ……。
「護道君だいじょうぶ?」
「凪沙さんごめん。せっかくの遊園地なのに」
ベンチでしばらく休んでから酔いは収まったのか、ふたりは古典的に迷路のアトラクションに挑んだのでした。
「凪沙さん右と左のどっちがいい?」
「護道君は?」
「右かなあ?」右に向かって歩くと行き止まりとなり
「残念。 左みたいだね」と左に向かって歩いて行ったのだった。
しばらく分かれ道を繰り返すうちに
「護道くんって方向音痴?」
「あんまり道に迷ってはいないけど……迷路だからねえ」
15分近く歩いて迷路を出たふたりは夕日が差し込み始めたのを見てエリカーランドの湖を背景に写真を撮ったのでした。
「湖もチェーンソー型なんだね」
「創立者のエリカッて人がチェーンソー大好きだったみたいだからその人のセンスみたいだわ」
「凪沙はどうして俺と付き合いたかったんだ?」
「そうね、オーラなのかな。 貴方の近くにいると安心できるって気がしたから。 他の人だと何か黒い雰囲気の人が多いのよね」
「オーラ?」
「そうよ。 私って霊感が強いからいろいろなモノが見えるのよ。 それが理由になって学校で魔女って呼ばれているけど、人の色が見えるのよ。 護道君の色って心地がいいのよ」
はじめて言われた俺はその意味はよく分からなかった……。 電車に乗り最寄り駅について凪沙と別れるのは名残惜しかったが、「またね護道君」
言われてああ、おれは彼女ができたのだと実感して小さな幸せを抱いて帰宅したのであった。 そして、その夜俺は凪沙が魔女と呼ばれた本当の理由を知ることとなったのだ。
日が変わり夜三時頃のことであった。
「下に~。 下に~」と布団の中にいた俺は大勢の声を聞いたのだった。
大名行列? 家の中なのに不思議なことに行列が俺の前を通り過ぎていたのであった。 布団の中なのに背筋が凍る寒気がして俺の体はガタガタと震えだしたのだ。 行列には大勢の人間(霊)が憑いていて、
中ごろになると寒気がどんどん強くなりふと、行列が止まったのであった。
「姫様?」と行列の中から声がして小さな底知れない紅い眼をした女の子が出てきたのだ。
俺の妹によく似た女の子だったが、 妹の美咲を抱えて俺の前に来て突然俺の前に来るとケタケタと嗤い始めて気が付いたら妹の腹から包丁が生えていたのだ。
妹の腹から出てくる液体が俺の布団をどんどん赤く染めて……そこで俺の意識は落ちたのだった。
朝になり俺の目が覚めたとき、妹は自室で包丁が刺さって死んでいた。
その後警察を呼んで大騒ぎとなり妹の葬式と告別式が行われた。 突然すぎて俺はよく覚えてなかったけど、 項別式が終わり自宅で呆然としていた俺に喪服を着て現われた凪沙さんは俺に、美咲ちゃんに会わせてあげると言ったのだ。
「いくら凪沙さんでも妹のこと侮辱するのは許しませんよ」「そういうわけではないのよ護道君。 美咲ちゃんは死んでいないです。生き返りますよ」
「死んだ人間が生き返るわけないでしょ、出て行ってください凪沙さん」 自分が思った以上に冷めた声をしていたのに驚いたくらいだった。
俺に言われたとおり凪沙さんはでていったのだった。
そして次の日の朝。
ゆさゆさと布団をゆすぶられて、
「お兄ちゃん起きて」妹の美咲に俺は起こされたのであった。
「美咲? 美咲なのか? お前、生きているのか?」
「お兄ちゃん、ひどいよ。私は死んでいないよ」プリプリ怒る姿はまぎれもない俺の妹だった。 なぜ? 美咲は包丁が刺さって失血死したはずじゃ……。
ふと、俺は先日凪沙さんに「美咲ちゃんは死んでいないです。生き返りますよ」と言った言葉を思い出したのだ。
俺は凪沙さんに会わなければと無性に思ったのだ。 だが、俺の脳裏に「死んだ人間が生き返るわけないでしょ、出て行ってください凪沙さん」と言った言葉が浮かんだのだ。だけど死んだ人間が生き返るはずがない……。
その思いが横切る中、俺は学校に向かったのだ。