元カノの姉に好かれてます
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「香澄と別れたってどういうこと!?」
ファミレスに呼ばれた俺こと西城匠海はしがない大学一年生だ。目の前にいるギャル女は先日別れた彼女の双子の姉、鴇田八澄だ。
「‥‥‥‥‥‥声が大きい、どういうことも何もそのままの意味だけど」
俺の言葉を聞き、落ち着きを取り戻した八澄はメロンソーダを一口飲み、恐る恐る訪ねてた。
「で、別れた原因は?もしかして香澄に何かした?」
「別に何もしてないよ」
「何もないわけないじゃん。この前まであんなに仲良さそうにしてたのに‥‥‥‥」
何か悲しそうに呟く八澄に苦笑する。
「遠距離恋愛なっちゃったし‥‥‥‥‥ね?」
「そ、そうだけど‥‥‥‥‥‥そこは愛の力で何とかならないの?」
優しく諭すと八澄が反発してきた。
言葉の端々から俺と香澄を思って言ってることだと理解している。しかし、今はあまり心に余裕がないのもあって『ほっとけ』と思わず内心で悪態をついてしまう。
「あのな、八澄。これは二人で決めたことだから口を出さないで欲しい」
「‥‥‥‥でも、三年間付き合ってたんだよ?それなのに遠距離恋愛だからって別れるのはおかしいよぉ」
そっか‥‥‥‥‥‥俺、香澄と三年間付き合っていたんだなと八澄の言葉を聞いて感傷に浸る。
彼女の妹、鴇田香澄と俺は高校入学し、すぐに付き合い始めた。
出会いは中学二年生の頃に一緒に文芸委員をやったことがきっかけだ。初めは取っ付きにくい人だったけど共通の話題で本の話をすると饒舌なるところに好感を持っていた。とはいえ、同じ部活だった八澄よりは接点は少なかったが。
「まぁっ、恋に恋してた感じだったしこうなることは目に見えてたよ」
「と、いうことは付き合えれば誰でも良かったわけ?」
蔑むような目でこちらを睨みつける。あらぬ誤解をされそうなので言葉を付け足す。
「そんなことないよ、それに香澄は『恋人がどういうものか経験しておきたい』と言ってたし、そもそもお試しだったからな」
俺はそう言い、三年前の告白した日を思い返す。当時の自分は周りが彼女、彼氏が出来ているのに対して自分が出来ないことに焦りを感じていた。実姉に煽られたことで火がつき、仲良かった香澄にダメ元で告白してお試しであるが付き合うことになった。
とはいえ、卒業後はなかなか会えなくなり、話し合いの結果、別れることになったのだ。
「‥‥‥‥‥お前と香澄は看護師を目指して、医療系に強い大学に行っただろ。それに対して俺は親の会社を継ぐためにIT系の大学に入学したわけだ。まぁ、俺は会おうと思えば香澄に会えるのだが必修科目を取りたいらしいしさ。ようは単位に負けたんだよ」
「そういうことかぁ。なんか、変だと思ったんだよね。あの勉強第一の香澄が彼氏を作るなんてさ。相手が匠海くんだからそこはおかしいとは思わなかったけど」
八澄の言葉を耳にし、不意にこんなに気さくに話してくれる女の子が居ることにありがたみを感じた。
「お前も変わったよな、髪を茶色に染め始めて‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「別に変わってないよ、元々髪の毛染めたかったし」
「そうなのか?でも、もったいないな。お前の黒髪きれいだったじゃん。もちろん、香澄もだけど」
高校時代までの黒髪ツインテール八澄を思い浮かべた。
それが今は露出度が高い服を着ているギャルへと成り代わっている。
「え、そう思ってたの?嬉しい」
少し頬を染めながらモジモジとしながら言うものだから照れくさい。
「これでこの話は終わりしないか?」
「ちょっと待って、最後に教えて欲しいことがあるんだけど。香澄とはどこまで進んだの?」
「根掘り葉掘り聞かないで欲しい」
女の子だからこういう話に興味があるんだろう。全くめんどくさい生き物だ。
「デートは4回くらいかな‥‥」
「ん、月に?」
「いや、合計」
「それは少なすぎるでしょ‥‥‥‥‥‥‥仮にも三年間付き合ってるだよ!」
「だから予定が合わなかったんだって。俺は親の会社を手伝ったりしてて、香澄も週末になると大学に入るために勉強してたのを知っているだろ?」
その言葉を聞いて、呆れ顔をする八澄。
うん、言いたいことは分かるがこれが香澄との距離感だったんだ。
「なんのために彼氏彼女になったの?普通、そういうのは後回しでイチャイチャするもんでしょ」
「当時の俺も香澄もどう接していいか、分からなかったんだ。と、言っても本を読んで語り合ったりはしたがそれは付き合う前からしてるしな」
言い換えればお試しで恋人ごっこをしてたに過ぎない。結局、恋人らしいことはせず関係が終わった。
「情けないなぁ、じゃあ週末私とデートしない?」
俺は突然の申し出に困惑する。
「何言ってんだよ、八澄」
「あはは、顔真っ赤だよ」
「それはお前も同じだろうがそういう所は中学から変わらないんだな」
「言ったはずだよ、変わってないって。だから先輩、デート‥‥‥‥‥」
「すまない、今はそんな気分じゃないんだ。またな、会計は払っておくよ」
俺は席を立ち、足速に逃げるように会計に向かった。
ホント何考えてるのやら。
「うふふふ、匠海くんが本当に香澄と別れたんだ。これはチャンスだね、今の匠海くんはフリー。ここで猛烈アプローチすれば振り向いて貰えるかも。やっぱりアプローチするならあれは欠かせないよね‥‥‥‥‥‥‥‥やっぱりまだ諦められてないようだ」
ニヤニヤ顔で匠海と恋人同士になった妄想をしている八澄は作戦に取り掛かろうとする。
次の日
「次の講義まで時間あるし、お茶でもするか」
「匠海くん!」
カフェテリアに向かおうとした瞬間、背中にものすごい衝撃を感じた。
慌てて振り返るとここにはいるはずのない八澄がいた。
「なんだ、八澄か。なんでここに‥‥‥‥‥‥‥」
俺は八澄の姿を見て驚きのあまり目を見開く。
「お前、髪どうしたんだよ!それにヒラヒラのワンピース着て‥‥‥‥‥」
見間違えでないかと何度も目を擦るが目の前には髪を黒に染め、夏らしさを彷彿とされるワンピースを来た八澄が立っていた。
この前、会った時のギャルっぽさは感じられず、思わず心臓をドキドキとさせてしまう。
俺のリアクションを見た八澄はくすくすと笑う。
「久しぶりに匠海くんが驚いた顔見れた。イメチェンだよ、イメチェン。どう?似合っているかな?」
「ん、まあ似合っている」
「うわっ、なんか微妙な反応だな。中学の頃とは違い、黒髪ロングにしたんだよ?もっと『綺麗になったな』とか『可愛くなったな』とかないの?」
「綺麗だなとは思うけど八澄は八澄だしな、それは変わらないし」
ドキドキしたことは言わないでおいた方が良さそうだ、からかわれそうだし。
「というか、なんでここに?」
「もちろん、匠海くんに会いに!」
「えっ」
迷いがないその言葉に俺はまた心臓をドキッとさせてしまう。
「それにしても匠海くんが通ってる大学は凄いね。ちゃんと設備が整っているし、私の大学とは大違いだよ」
「それはそうだろ、専門にしている物が違うんだから。って、そうじゃないどうやって部外者立ち入り禁止のここに入ってきただ」
「大学を見学したいって言ったら入れてくれた」
「お前、ずる賢いな」
今は事前に体験入学とか申し込まなくても当日予約で入れるようになっているからな。しかし、こいつはもう大学に通っているからここの入試を受けるわけがないし、情報を中心に扱うここではやっていけないだろう。ホントなんでこんなことをするかな。
「ということで大学案内して欲しいけどいいかな?カフェテリアがあるんでしょ?行ってみたんだけど」
「‥‥‥まぁ、いいぞ。ちょうど行こうと思ってたからな、付いて来い」
「ちょっと待ってよ」
「おい、くっつくな」
俺が歩き始めると八澄は追いかけてきて手を握ってきた。
「花火大会の時、手を繋いでくれたじゃん」
「それははぐれないためにだな」
俺は諦めたような表情をしながら八澄を先導した。
確か、中学三年前の頃だろうか?
あの時、八澄に誘われて夏祭りに一緒に行くことになった。当初は香澄も来る予定だったんだが当日、高熱を出して寝込んでしまった。俺たちは行くのを辞めようとしたんだが香澄に『二人で行ってきて、行かないと絶縁する』と脅迫されて、二人で夏祭りに行ったんだっけ、懐かしい。
カフェテリアについた俺たちはメニューを見て八澄はアイスティー、俺はアメリカンコーヒーを頼んだ。
「やっぱりこれだよね」
「お前、ガムシロを何個入れたんだ?」
「10個くらいかな?」
「半分、ガムシロなんじゃないか?」
「飲んでみる?」
「‥‥‥‥‥‥ああ」
俺は間接キスのことが頭によぎるが今更、そんなことを気にする間柄ではないので躊躇なくアイスティーを一口飲んだ。
「‥‥‥‥あまっ!」
急いでカプチーノを飲み干し、口直しをした。
「お前、よくこんな甘いものを飲めるな」
と、八澄に問いかけたが反応がなかった。どうしたのだろうか?
「本当に間接キスしちゃったよ、どうしようニヤニヤが止まらない」
八澄は顔を下に向けて何やらブツブツ言っている。
「八澄、八澄」
「あっ」
やっと俺の呼びかけに気がついたのか慌てて様子で顔を上げる。
「八澄、もしかして間接キスを気にしているのか?」
「き、気にしてないよ。そうだ、週末空いているよね。買い物行こ!ほら、香澄とはまともにデートしたことないんでしょ?この先、彼女出来るかもしれないし、練習だと思ってさ」
話を変えるように早口で八澄が言った。
その様子から間接キスを明らかに気にしてるように思えるのだが本人が気にしてないって言っているのだからもうこの話題には触れないでおこう。
「いいけどいいのか、相手は俺で?大学に気になる人とかいないのか?」
「いるわけないじゃん、遊ぶのは楽しいけど私を色目で見てくるし。付き合うなら気が会う人がいい」
「よく分からんがそういうもんかね」
興味をなさそうにそっぽを向きながら言うと八澄が『むぅ』とすねた表情をした。
そして週末、俺はひたすら八澄に振り回されていた。ショッピングモールの店をハシゴし、有名なスイーツ店に並んだり、ゲームセンターでリズムゲームを勝負したり、ぬいぐるみをねだられて数千円が消えていった。
最後に俺たちはファミレスで立ち寄った。
「もう帰らないか?日が沈んできたし」
「えー」
八澄から批難する声が漏れる。
ホント女の子って凄いなと心から思う。
「まぁ、私も疲れたし」
「おいおい、俺に寄りかかるなよ。知り合いに勘違いされたらどうする?」
「させとけばいいじゃん‥‥‥‥‥‥‥それとも迷惑」
そう聞かれたのでなんと答えていいか分からなくなる。
「うーん、複雑だな」
「なにそれ?」
「だってさ、お前とは仲がいい同級生今まで趣味が合う親友としか見てなかったんだ。いきなりデートとか言われても意味わからないし‥‥‥‥‥‥‥って、なんでほっぺを膨らませる?」
八澄は落ち込んだような表情をしてポツリポツリと喋り出す。
「匠海くんのバカ」
「なんで罵倒された!?」
「だって匠海くん、恋に恋してたって言ってたけど彼女が欲しかっただけなら香澄じゃなくても‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「おいおい、お姉さん。彼氏と別れるなら俺たちと付き合わない」
俺は目線を八澄から声をかけてたチャラそうな男に目を向ける。八澄が泣きそうな顔をしているから別れ話をしていると思ったのであろう。
「そこのお兄さんはほっといて行こう、お姉さん?」
「や、やめて!」
男は八澄を腕を掴み強引に引っ張り連れていこうとしたのですかさず割って入る。
「なんだよ、てめぇ」
「女を手荒く扱うやつには渡せないな」
「うっせぇわ!」
俺は顔を殴られるが動じない。
ここで恐れを見せたら相手の思うつぼだ。
「匠海くん!」
「大丈夫だからそこで見とけ」
俺はひたすらに殴られ続けられるが微動だにせず男を睨みつける。
「ヤバっ、こいつあんなに殴られて笑ってやがる、気味がわり」
男はこれ以上殴っても意味がないことを悟り、去っていった。
諦めてくれたのか?よかった。
俺は気が抜けて床に座り込む。
周りの人が動画を撮ってくれていたようだし、それを警察に提出すれば男が捕まるのは確定だろう。
「いてぇ」
「だ、大丈夫。匠海くん!?」
「ああ、少し身体中にアザが出来ただけだ」
「それ、大丈夫じゃないよね!」
その叫びはファミレス中に響き渡った。
「それにしてもさっきはかっこ悪いところを見せたな、すまん」
「謝らないでカッコよかったし‥‥‥‥‥‥‥悪いのは私だから」
「そんなことないだろう、絶対あのクズ男が悪い」
そう言うとやっと八澄は笑顔を見せてくれた。
「でもなんでやり返さなかったの?」
「殴り返したらクズ男と同じレベルになってしまう。それに暴力をしても何も解決しない」
「だからって正当防衛とかあるじゃん」
「それはよっぽどの時だけだ。それに俺は八澄をちゃんと守れた。それだけでいいだろ?」
八澄は顔を赤くして『バカ』といいながら手を握ってきた。
「待って‥‥‥‥‥‥匠海くん。最後にいい?」
「なんだ?」
「なんで買い物に誘ったと思う?」
「それは荷物持ちとか欲しかっただろ?」
「そんなわけないじゃん、好きな人とデートしたかったんだよ!」
好きな人と?
えっ、八澄って俺のことが好きだったの!
自分の鈍感さが恥ずかしい。
「い、いつからそんな風に思ってたの?」
「初めて出会った時から、部活で孤立していた私を救ってくれた時から好きでした。香澄と付き合ってる間も、今だって匠海くんのことが好き!」
俺はここまで真剣に自分を思ってくれていた人がいたことに嬉しさを覚えながらも申し訳なさを感じる。
「私、後悔してたんだよ。でも遅いって思って、匠海くんが香澄を好きならしょうがないって思っていたのに我慢して忘れようと思ったのに‥‥‥‥‥‥‥‥私ね、嬉しかったんだ。香澄と匠海くんが別れてくれて。これでやっとアタック出来ると思って‥‥‥‥‥匠海くんに気に入ると思って髪を黒に戻して」
「ということは俺に会いたくて大学に来たのは冗談じゃなくて」
「そうだよ、好きな人以外にはそんな事言わないよ。匠海くんは優しいからすぐに買い物の約束できてうれしかったんだから」
「ん、そうか」
恥ずかしそうに告白している八澄に俺は見惚れて気の抜けた声を漏らしてしまう。
「あ〜言っちゃった。匠海くんから告白してもらおうつもりだったんだけどなぁ。でも言っちゃったもんは仕方ないし」
「そこはあっさりとしてるんだな」
「まぁ、ところで匠海くん。まだ返事聞いてないんだけど‥‥‥‥‥‥‥それとも私じゃダメ?女として見れない?」
八澄が不安そうな顔でこちらの顔色を伺ってきた。女の子に不安な顔をさせるなんて情けないな。
「そんなことないよ、黒髪ロングのお前本当に綺麗だと思うし、この気持ちが恋なのか分からないけど八澄と恋人同士になれば分かるよね。だからその‥‥‥‥‥よろしくお願いします」
その言葉を聞いて八澄が抱きついてくる。
「匠海くんって黒髪フェチなの?」
「そうかもな」
「へぇー、そうなんだ、へぇー」
「な、なんだよ」
「いいこと聞いちゃった」
不気味な笑みを浮かべる八澄に思わず少し引いてしまった。
「‥‥‥‥‥‥‥‥そんなことよりも本当にいいのか、俺で?」
「匠海くんじゃなきゃダメなの!一生離さないんだから」
「怖いな」
八澄の発言を聞いた俺はヤンデレならないか心配してしまう。
「ねぇ、匠海くん」
「ん?」
さっきまで隣を歩いていた八澄が俺の前に歩き、満面な笑みで言った。
「だーいすき!」
「俺も大好きだぞ!」
戸惑いながらも愛の言葉を叫んだ。