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4.ブラコン妹

一瞬だけ日間現実世界(恋愛)のランキングに載っていました。読んでくださりありがとうございます!

 俺は家に戻ってきてインターホンを押す。


「お帰り遅か…」


 玄関から出迎えてくれた妹の手のひらに買ってきたニンニクを置き、急いで2階にある自分の部屋に向かう。

 妹はいつもと様子の違う俺と背中にいる銀髪少女に驚いてあわわしている。


「お母さんお兄ちゃんが女連れ込んだ!!」


 違ーーーーう!?違わないこともないけど違う!!

 その言い方は何か勘違いしている。

 しかし、事態は一刻を争うためツッコみたい気持ちを抑えて階段を登る。

 部屋に到着し、とりあえず少女を背中から下ろして俺のベットに寝かせる。

 やはり息が荒い。

 頬が赤くおでこに手を当てると熱い。

 人間でいうと熱のような症状がみられる。


「大丈夫か?」

「何とかね…」


 さっきまでだったら「こんなの平気よ!」と強がりそうだがよっぽど弱ってきたのか余裕がなくなってきている。


「俺はどうしたらいい?」

「………」


 少女は俺をじっと見つめたまま黙り込んでしまった。

 その目は何かを恐れ、迷いのある目だった。


「俺ができることだったら何でもやってやるから言ってみろ。絶対に見捨てはしない」


 俺の言葉を聞いて少女は目をそらした。

 下唇を噛んで震えている。

 しかし覚悟を決めたのか口を開いた。


「栄養が欲しい…ご飯が食べたい」


 震えた声でそう言った。

 少女は俺に目を合わせようとしない。

 これは少女なり濁した言葉であり、つまりは()()()()()()()()ということだ。

 俺はワイシャツを第2ボタンまで開けて首から肩までが出るようにする。

 横になっている少女の背中を支えて上半身だけ起き上がらせる。


「な、何を!?」

「助けると決めたときから覚悟はしてた。せめて死ぬときは家が良いからここまで運んだ。遠慮はしなくていい」

「お前…」

「俺は笹木裕真だ。俺の名前を憶えていてくれ」

「裕真」


 少女は片手を俺の肩に置き、ぐっと俺を少女の近くに引き寄せられた。

 噛まれるの痛そうだな…覚悟は決めていたけど怖いものは怖いな…。


「優しく噛ん…ぐへっ!?」


 がぶっというような音ではなく、パチンという乾いた音が鳴った。

 首元ではなく頬が痛い。

 少女は俺をビンタした。


「え、何するの。結構感動ムードだったのに」

「何が感動ムードよこの変態!急に露出して。私が血なんて吸うわけないでしょ!?」

「お前の種族の名前に血を吸うって書いてるじゃん!?」


 俺はヒリヒリする頬を押さえて怒っている少女につっこみを入れる。

 というか今日の顔面へのダメージがえげつない。

 蜂に刺されたんかってぐらい膨らんでいる。


「人間だってトリュフやキャビアといった高級食材でも苦手な人がいるでしょ。吸血鬼でいう血もそういうもの。わたしは人間が食べるような料理のほうが好きよ!」


 くそっ、納得してしまった。

 誰だよ吸血鬼は血だけを栄養として生きているって言ったやつ。

 こいつが調子に乗っていた時ネットリテラシーがないようなキッズの顔しやがってと思っていたがリテラシーがないのは俺の方だった畜生。

 インターネットの吸血鬼の情報をうのみにしていた。

 インターネット怖い。


「じゃあなんでさっき俺にご飯を要求するのためらってたんだよ?」

「吸血鬼にとって血が飲めないのは恥じることなの!」


 下唇を噛んで震えていたのは血が飲めないという告白が恥ずかしかったからかよ。

 だからあんなに体が震えて、覚悟を決めたような眼をしていたのか。


「待てよ…今お前が弱っているのって…お腹が空いているから?」

「う、うるさい、ここ3日人間界に出てきたけど文化の違いでご飯が手に入らなかったのよ!至る所に食べ物があるのに食べようとしたら人間に怒られるし…」

「お店でお金払わないで食べようとしたらそら怒られるわ!じゃあなんで俺を襲おうとしたんだよ?」

「道に座っていたら裕真が歩いてきているのが見えて、ご飯食べさせてくれない人間を思い出してイライラしていたから脅かそうとしただけ」

「腹いせかよ!?」


 なんて奴だ。真剣に助けようとしていた俺の優しさを返してほしい。

 というかさっきまで死ぬ寸前みたいに元気がなかったのに結構ぴんぴんしてるぞ。


「とにかく私はお腹が空いたの。はやくご飯持ってきなさい!」

「ぐぐぐっ…今回だけは持ってきてやる」


 俺は自分の部屋を出てダイニングへと向かう。

 きっと母さんが俺の分の飯を作ってくれているはずだからそれを分けてやるとしよう。

 階段を降りてすぐ横にある扉の向こうがダイニングなのだが何やら騒がしい。

 扉を開けると…


「離してママ、お兄ちゃんのところに行かないと!」

「ここにいなさい美羽」


 妹は地面に倒れており、そこにのしかかって暴れている妹を押さえているのが母さんだ。

 さっき母さんが言った美羽(みう)というのは中学2年生の俺の妹の名前だ。

 明るい茶髪のロブでくりっとした大きな目が特徴。

 とてもやさしい性格をしていて俺のこともいつも気遣ってくれている。

 俺がヒモを夢見たときに誰もわかってくれなかったが、唯一応援し肯定してくれた1番の俺の理解者でもある。

 その優しさと小動物のような可愛さがある見た目から通っている中学校でよくモテているらしい。

 それにしても母さんと美羽がプロレスをすることはよくあることだが今日はどういう要因だ。


「このままじゃあの女にお兄ちゃんの童貞盗られちゃう!!」

「今お兄ちゃんは真の男になろうとしているの。邪魔しちゃだめよ!!」


 何か絶対に勘違いしている。

 階段を登るときに時間がなくても美羽の言葉に否定を入れるべきだった。

 母と妹が下にいるのにいきなりおっぱじめるとか度胸あり過ぎだろ。

 あと堂々と童貞とか叫ぶな。

 母さんも母さんで止めてくれるのはありがたいけど恥ずかしいよ。


「あっお兄ちゃん!」


 母さんも美羽もプロレスに夢中になっていたがやっと俺の存在に気付いた。


「裕真、あんた自分の部屋に女連れ込んで10分しか経っていないわよ。早すぎるわ。ちゃんと相手も満足させたでしょうね!自分だけ気持ちよくなるのは最低よ!」

「実の母親にそんな生々しいこと言われたくねぇ!あと勝手に勘違いして俺を馬鹿にするな!」


 母さんは「あんたって子はお父さんによく似て…」とため息をしながら失望した目で俺を見ている。

 父さんもなんか不満言われてるし…親の夜事情なんて聞きたくねぇよ。


「お兄ちゃん大丈夫!?」


 美羽は俺に近寄ってきて俺のズボンとパンツを脱がそうとしてくる。


「ちょっ何するんだ!?」


 俺は危機一髪でズボンとパンツを引き上げる。

 しかし、美羽もあきらめずに下げようとしてくる。


「お兄ちゃんの童貞が奪われてないかチャックする!」

「チェックしなくても大丈夫だから!あとそんなこと美羽が心配しなくていい!」

「本当に何もしていない?」

「断じて俺はしていない。長い付き合いだからわかるだろ俺がチキンだって」

「そうだった…両想いで付き合ってるのに自分から手も繋げない人ぐらいチキンだもんね」


 後半馬鹿にされていたが話がややこしくなるためツッコまないでおこう。

 とりあえず誤解は解けたようだ。


「それよりお兄ちゃんあの女誰?」


 誤解はまだ解けていなかった。

 美羽の目から光が消える。

 くりっとした目がかわいらしくチャームポイントであるのに、今はジト目をして俺を睨んでいる。

 なんだか寒気がして鳥肌が立つ。


「今もお兄ちゃんの部屋にあの女いるでしょ?」


 小さいころからそうだったが美羽は俺が女子と仲良くすることをよく思わない。

 薫はまだ許してくれるが家に来るとピーマンを食べた子どものような嫌そうな顔をする。

 いつもなら美羽が納得するまで話を聞き続けるのだが、一応吸血鬼がお腹を空かせているためご飯をもって部屋に戻ることを優先する。

 

「母さん今日部屋でご飯食べる」

「あの子はご飯食べてるの?」

「むしろあいつにご飯を食べさせたい」

「ならお父さんの分のご飯も持っていきなさい。どうせあの人社畜で帰りが遅いからそれまでに新しいご飯作っておくわ」

「ありがとう母さん!」

「お兄ちゃん話し終わって…むぐっ!?」


 母さんが妹の口を押えて言葉を遮断する。


「はやく行ってきな」


 母さんは暴れる美羽の身体を押さえて俺を見送る。

 本当に頼りになる優しい母さんだ。

 必ずお金持ちの人と結婚して親孝行するから待っててね。


「ふぐー、ふぐー!!」


 美羽が母さんの手のひら越しに何か俺に向かって叫んでいる。

 あのままじゃ埒が明かないな。


「美羽愛してるぞーーー!!」


 俺はそう叫びながら階段を登った。

 美羽がおとなしくなったのか階段を登りきるときには騒音がなくなっていた。


「ご飯持ってきたぞ」


 吸血鬼が待っている俺の部屋の扉を開けるとベットの上で体を起こしていた。


「遅い!」


 不機嫌そうな顔で俺を叱ってくる。


「しょうがないだろ俺にも事情があるんだから」


 薫と勉強会した時に出した丸机が置いたままだったのでその上に料理を並べる。


「どうして2人前?」

「俺も食べるからだよ」

「えーお前みたいな人間と一緒に食べるの?」

「嫌そうな顔するな。そんなことよりこっち座れるか」

「そのぐらいできるわよ」


 ベットから出て俺と対面する形に座る。

 俺の見間違いじゃなくてさっきまで本当に倒れてたよな?


「いただきます」

「何してるんだ?」

「こうやって手を合わせて命に感謝してるんだよ」

「…いただきます」


 不思議に思っているようだが俺の見よう見まねで吸血鬼は手を合わせた。


 



 


 



 




 


 

 

 

 

 

 


 

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