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2.人ならざる者

「また明日学校ね」

「ああ、ばいばい」


 家が隣のためいつもお互いの家の玄関の前で別れる。

 朝はいつも迎えに来てくれるため、薫がインターホンを鳴らしてくれたら登校の合図だ。


「ただいま…あれ?」


 いつも俺が帰るぐらいの時間になると妹が扉の鍵を開けてくれているはずなのに。

 外に妹の自転車があるし帰っているはずなんだけどな…さては忘れているな。

 今日に限って家の鍵を忘れてきている。


「おーい開けてくれ」


 俺はインターホンを連打しながら声を出し続ける。

 しばらくしてスマホが鳴る。

 画面を見ると母さんからだ。


「もしもし?」

「RINEみろ」


 それだけ言うと母さんは一方的に電話を切った。


「な、なんて母だ。RINEってなんだよ…あっ」


 RINEのトーク履歴を見ると15分前に母さんから『帰り道のスーパーでニンニクを買え。ニンニク買ってくるまで家に入れんヒモ』と書かれていた。

 完全に薫との会話に夢中になって気づいていなかった。


「扱い雑過ぎないか!?口調も変わってるし。そんなにヒモになることがショックだったのか(当たり前)」


 窓のほうを見ると母さんが俺のことをにらんでいた。

 声は聞こえないが「買ってこい」と口が動いている。

 横には布を口で塞がれ、ひもでぐるぐる巻きにされている妹が俺に何かを訴えかけるように涙目で暴れている。

 はたから見たら家庭内暴力の現場だが、あれはただ単に何とかして俺のために扉を開けようとしていて母さんに掴まっているのだ。

 前にもあった。


「仕方がないから買いに行くか」


 俺は近くのスーパーへと向かった。

 近くと言っても15分ぐらい歩くけど…。

 

          ◇


 スーパーについて野菜コーナーに向かう。

 時間帯もあり仕事帰りの人が多い。

 全国の労働者と主婦のみなさんお疲れ様です。

 そんな人たちに紛れて見覚えのある人を見つける。

 

「内田先生~」

「うわっ!?なんだ笹木か」


 スーツが良く似合うピシっとしたクールビュティ―な先生…ではなくジャージ姿でスリッパの内田先生。


「驚かさないで、他の先生か生徒に見つけられたかと思った」


 実は仕事が終わった後の内田先生と出くわしたのは初めてじゃない。

 内田先生は表向きはクールビューティーで通しているのだが、仕事が終わるとどうしても耐えられず、学校の駐車場に止めてある自分の車の中でジャージに着替えてから帰宅しているらしい。

 ほかの人に言うなと口止めされて、その代わりに理由を教えてくれた。

「今度車の中覗きに行っていいですか」と言ったら「橘に言うぞ」と脅迫されて見に行けていない。


「それは置いといてなぜまだ帰っていない?面談から1時間は経過してるしとっくに帰っている時間だろ」

「親にニンニク買って帰るまで家に入れないと言われたので」

「それはまたご愁傷様」


 初めて内田先生のジャージ姿を見たときも、こうして母さんのお使いでスーパーに来ている時だった。


「先生は何買いに来たんですか」

「安くなっている食材を買いに来たんだよ」

「流石です。1人暮らしだけあって節約しているんですね!」

「お前には体罰関係ないからな」

「ごめんなさい勘弁してください。その大根を持った手を下ろしてください」


 大根を剣のようにして俺の頭向かって振り下ろそうとしていたのを何とか止めた。

 大根を振り上げていた時の目は完全にヤるやつの目をしていた。

 そんなことをしているとお目当てのニンニクコーナーに着いた。

 適当に1番前のニンニクを取る。


「じゃあニンニクだけ買いに来たのでお先失礼します」

「待て笹木」

「な、なんでしょう…」


 まださっきの独身イジリを根に持っているのかとびくびくしながら先生の方に目を向ける。

 怖い、大根で殺される。死因が大根による殴殺なんて嫌だ!


「そのニンニク傷んでいるぞ、こっちのにしとけ」


 俺が手に持っているニンニクを奪い取ると内田先生が選んだニンニクに入れ替えられる。

 俺には違いが分からなかったが先生は自炊をしているためよく知っているのだろう。

 よく考えると毎日自炊をしているらしいし、教師という立派な職業の公務員だし、何より進路希望調査にヒモと書いてもちゃんと向き合ってくれる面倒見の良い人だ。そして美人ときた。


「内田先生良い女すぎ!!」

「きゅ、急にどうした!?」

「こんな完璧な女性なのに世間の男どもは見る目がない。ねえ先生!」

「そうだそうだ!料理だって練習しているし、ファッションや容姿にも気配ってるのに!」

「先生結婚してくれ!」

「け、結婚!?そんな急に言われても…笹木が結婚できる年齢になったとき私30だぞ?」

「養ってくれ!」

「だと思ったよこのヒモ野郎!!」


 頭を下げて握手を求めたがその返答は後頭部への大根エクスカリバーだった。


          ◇


「だれか養ってくれないかな~」


 さっきスーパーで買ったニンニクの入った袋を見ながら歩く。

 内田先生だったら養ってくれると思ったんだけどな。

 

「それにしてもなんか不気味だな」


 6月は日が落ちるのが遅いはずだが辺りが真夜中のように暗く、街灯だけが頼りな状態になっている。

 スーパーを出たときにはまだ明るかったはずなのに。

 既に俺の家がある住宅街を歩いているはずなんだが遠く感じる。


 なんか出そうだな    


 そう思った時だった。


「うわ!?」


 俺の顔の横を何匹ものコウモリが通り過ぎた。

 耳がキーンと鳴るほどキーキー鳴いていた。


「む、群れか?」


 あまりの衝撃的な出来事に驚きを隠せず唖然としていた。

 俺の人生でこれ以上の衝撃はないだろう、そう考えていたがさらに衝撃的なものが目に映る。


「え…」


 5メートルほど前に街灯に照らされている場所に少女が壁にもたれて足を延ばして座っている。

 さっきまであそこに人なんていなかったはずだ。

 それに何より驚いたのがその人間離れした美しい容姿だ。

 1番特徴的なのは銀色に輝く腰まで伸びた髪。

 染めたものではなく生まれつきのものだと何となく感じた。

 透き通るような真っ白な肌。

 それに相反するような黒のレースワンピを身にまとっており靴は履いていない。

 うつむいており顔が良く見えない。

 こういう時、不気味に感じるんだろうが容姿の影響でかつい見惚れてしまっていた。


「どうしてこんなところに女の子が…というか」


 全然女の子が動かない。

 寝てるのか気を失っているのかもしれない。

 顔が見えないから尚更心配になり少女に近づく。

 少女の目の前に立っても動く気配がない。

 意識がなさそうだが万が一起きているかもしれないからしゃがみ顔を覗き込もうとする。

 しかし、しゃがんだその瞬間にぐっと少女の顔が起き上がった。


「うわ!?」


 びっくりして俺がしりもちをつくと少女がとびかかってきて馬乗りの状態になった。


「なになになになにっ!!??」


 起き上がろうとするも少女に両肩を両手で押さえられて起き上がれない。

 細い腕からは考えられない力で岩を乗せられているような錯覚に襲われる。


「あのどうしまし…たかっ!?」


 挨拶か何かをしようとしたが少女が大きく口を開けたかと思うと俺の首めがけて噛みつこうとしてきた。

 俺はとっさに少女の頭を押さえて何とか嚙まれずに済んだ。

 口を開けた瞬間に見えた鋭い八重歯にこれまでにないほど体が危険信号を発して何とか反応できた。

 しかし少女はお構いなしに頭を押し付けてくる。

 細い腕から考えられないような力や噛もうとしている場所、鋭い八重歯から俺はこの少女が吸血鬼であることを確信した。

 こういう人ならざるものは信じていなかったがそれでも事実からは逃れられそうにない。


「やばい押し切られる」


 両手で頭を押さえるが徐々に俺の首筋まで近づいてきている。


 あ、噛まれる。


 覚悟を決めたが吸血鬼は俺から距離をとるように後ろへと跳躍した。

 俺は自分の顔の横に転がっていたニンニクの存在に気付く。

 

「ニンニク!」

 

 吸血鬼はニンニクに弱いと聞いたことがある。

 母さんありがとう!母さんがニンニクのお使い頼んでなかったら今頃噛まれていた。

 いや待てよ…そもそもお使いがなければこの吸血鬼と遭遇なんてしてねえよ!

 いかん、そんなこと考えている場合じゃない。


「これで俺も戦える。くらえ”ニンニクストライク”!!」


 少女のため可哀想と思ってしまいドッチボールのように体には当てずにボーリングのように転がし足元に投げた。

 これでひるんでどこかに行くはず。

 てっきり「覚えてろよー!!」と言いながら吸血鬼が逃げ出すと思っていたが吸血鬼は普通にニンニクを拾い上げた。

 

「あれ…へぶしっ!?」


 ニンニクが弱点じゃないのかと困惑していたが吸血鬼が急にピッチャーのような構えをしたかと思うとニンニクを顔面目掛けて投げつけられクリティカルヒットした。

 その勢いで俺の身体は吹っ飛び仰向けに倒れる。

 そして吸血鬼は追い打ちをかけるように片足で俺のおなからへんを踏みつけた。


「あんな臭いものを私に投げつけるな愚か者」


 そのとき初めて見ることができた吸血鬼の顔は、赤い目を輝かせた幼さを感じるような顔だった。


 

 





 

 





 

 

 

 

次からがメインストーリーですかね

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