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 「な、中島くん……?」


 顔を上げると、そこには中島くんがいて、私の顔を覗き込んでいた。

 

 「どうも、お疲れ様です」


 「え、あ……」


 突然のことに頭の処理が追い付かず、うまく言葉が出てこない。


 どうして、ここに中島くんが?

 それよりも、なんて返そう!?

 なんて言えばいいの!?


 「あ、お疲れ様で……」


 「いやぁ。すごい雨ですね。傘は持ってたんですけど、吹き込んでくるから雨宿りしちゃいました」


 「あ、私も雨宿り、です」


 「相席、いいですか? 今日もすごい数のお客様が来ましたよねぇ。もうクタクタですよ」


 そう言って、私の席の前に座る。

 どうやら、断られることは想定の範囲外だったらしい。


◆ ◆ ◆


 中島くんは物憂げな顔でメニューを眺める。

 物憂げというのは、私が感じた印象であって、おそらく彼はなんとも思っていない。

 ただ、彼が俯いたときに見える長いまつ毛がそう思わせてくるのだ。


 「じゃあ、俺もブレンドで」


 散々悩んで、ブレンドかい。


 今になって背負っていたカバンが邪魔になったのか、ソファ席にどかりとカバンを降ろす。

 そこでカバンが濡れていることに気が付いたのか、「カバンがびしょびしょだ」と悪態をつきながら雨粒を手で払う。

 昨日の礼儀正しい態度とはちがい、ちょっとくだけたような感じだ。


 私は黙ったまま彼の様子を見守った。

 というか、なにを話していいかわからない。


 中島くんはこちらに向きなおると、ニヤリと笑った。


 「相沢さん、俺が渡したナポリタンをちがう席に持って行ってましたね。見てましたよ」

 

 う……。

 見られていたのか。


 落ち着け。

 冷静に話をするんだ。


 「たまにはミスくらいするよ」


 「あはは。今日もすごい数のお客さんが来てましたもんね」


 「う、うん。すごい数だったよね」


 「俺もちょっとミスって店長に怒られました」

 

 「へえ。でも、二日目でちょっとなら上出来だよ」


 自然に会話が進む。

 一瞬、嫌味を言われるのかと思ったが、そうではなかったらしい。

 話の取っ掛かりというやつだ。


 そのままアルバイトの話で盛り上がる。

 彼は厨房担当で、私はホール担当なので、共通の話題は少なかったが、中島くんはうまく会話を転がしてくれた。

 ときどき、わかりやすくおかしなことを言ってくれて、私は思わず笑ってしまう。


 こんなふうに喫茶店で男の人とおしゃべりするのなんて、初めてかもしれない。

 なんだか楽しい。

 彼の話がおもしろいというのもあるのだが、カッコいい男の子とお茶しているこのシチュエーションに心が躍っているのだ。

   

 「そういえば、さっきタブレットになにか描いてませんでした?」


 話題が急に逸れる。

 私はドキリとした。

 

 もしかして、彼の顔を描いていたこと、バレてないよね?

 

 「ああ、このタブレットでお絵描きができるの。私の趣味なんだ」


 「へぇ、どんな絵を描くんですか? 見せてくださいよ」


 「う、うん。下手だけど」


 そう言って過去に描いた中で一番自信のあるイラストを見せる。

 すると、中島くんは目を見開いた。


 「ええ!? すごい上手じゃないですか!」


 「そ、そんなことないよ。これくらいの人はいっぱいいるよ」


 「いないですよ! これ、すごい!」

 

 彼は私の描いたイラストを見てたいそう驚いていた。


 別にSNSをちょっと覗けば、こんな絵はゴロゴロと転がっているのに大袈裟だ。

 

 「相沢さん。プロなんですか?」


 「プロじゃないよ。依頼が来たことはあるけど、趣味で描いてるほうが気楽だからね」


 「ええ、もったいないですよ」


 プロと言われて思わず口元が緩む。

  

 中島くんはそういうと、また私の絵を食い入るように見始めた。

 

 正直、悪い気はしない。

 イラストは、私の唯一の特技なのだから。


 「これって、オリジナルのキャラなんですか?」


 「そうだよ。適当に描いたんだ」


 「想像だけで、こんなキャラクターを生み出せるなんて、才能あるんだぁ」


 「ううん。努力だよ。けっこう長い間、描いてるから。中島くんにだって描けるよ」


 「ほ、本当ですか」 


 キラキラとした目で私のイラストを眺める。

 

 なんだか誇らしい。

 私が目を奪われてしまう中島君が、私のイラストに目を奪われている。

 なんというか、一矢報いてやった気持ちだ。


 中島くんはしばらくイラストを眺めていると、「よし、決めた」と口にした。

 そして、信じられない言葉を続けた。


 「相沢さん。俺にイラストの描き方を教えてください!」



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