第1章 荒野の旅 8
通りを奥の方までぶらつくことにして、あちこち覗いていると、ふと目についた武器防具屋の盾を見に寄ってみることにした。
「俺のスタイルではないが、この盾の反りはカッコいいな。使っている奴がいるとつい目を持っていかれる。ちょっと中も見て行くか」
中は2メル幅の通路で両側の壁一面に剣や槍、弓などが掛けられている。奥の方は右の棚に小さい品が並べてあるようだ。
アリスの投げナイフの参考にと、剣を眺めながら奥の棚まで行くと、アリスもミットも貼り付くように覗き込んだ。
「ああ、これが林で教えた投げナイフだ。鍔がないから重ねて持てるし、多分投げ易い。
この三角っぽいのは何だろう、トゲトゲでは投げるのは無理だし」
「その辺に転がってたらー、踏むと痛いーってなりそー」
「罠みたいなものか?面白いな」
「ガルツさんのナイフに似たのがあるよー」
「ああ、ほんとだ。うん?このナイフは畳めるのか?」
「いらっしゃい。あー、それですか。この頃いくつか入って来てまして。ここを押して刃を内側に折り曲げるんです。すっかり畳むとロックします。出すときはまたここを押して、峰を持って伸ばしロックすればそのまま使えます。一本どうですか?」
「見せてもらおう……いくらだ?」
刃が短いな6セロか。対して柄が12セロ。
バランスがいいとは言えない。
柄は邪魔になるようでなければ多少長くてもいいが、刃が短いのはどうかな。細工用なら良いのかも知れんが。
「うちにもここにある3本しか入ってないんで、少々お高くなります。6000シルですが、いかがです?」
「その三角を一つおまけしてくれないか?」
「あー、お客さん物好きですな。結構です。おまけに一つ付けますよ」
「じゃあ6000」
「はい。ありがとうございます」
「もう少し中を見せてもらうよ」
「はい、ごゆっくり」
「アリス、ミット。このポーチはどうだ?」
「いい形ねー。蓋がきちんと閉まるみたいー」
「あたいたちにはちょっとおっきーねー」
通路は奥で左へ回っていて突き当たりには鎧が飾ってある。
グルリと回ると盾が壁にズラッと掛けてあり、奥に小物の棚があった。
手甲に甲付きの手袋、鉢金、脛当て、肘膝の防具、面甲と言った小さい防具が並べられていた。
アリスは手袋を見ている。ここに合うサイズなどないが、作る時の参考にするのだろう。
ミットは鉢金が気になるようだ。
「もういいか?」
「うん、いっぱい見たー」
「かなりの品揃えだな。勉強になったよ」
店主に挨拶して外へ出た。生地屋を探していたんだった。
「アリス、あのナイフを何本か作って、別の武器屋で売ってみるか」
「面白そー。刃がパチンと出たらサッと使えて良さそーねー」
少し行くと飾りモノを並べた店があった。
銀細工の華奢な髪飾りや、細い鎖に青い石がぶら下がったもの、安っぽい指輪などがあったので入ってみる。
「邪魔するよ」
「いらっしゃい。どんなものをお探しですか?」
「いや、本当は鉱石を探してたんだが、細工がなかなかと見えたので覗いてみたんだ。この細かい銀細工はここでやってるのかい?」
「いいえ、職人の余技ってやつでして、気が向いたらいくつかってくらいです。勉強しますよ、どうですか?」
「へえ、そうなのかい。いくらだ。」
「6000シルでいかが」
「いい値段だな。で、鉱石の話だが売ってる店があれば教えてくれないか?」
「5軒門の方へ行った左の路地の、突き当たりに1軒ありますよ」
「今、手持ちがあまりなくてな。本命の石を買う金が心許ない。縁があったらまた来るよ。ありがとうな」
「お金、あんまりないのー?」
「20000シルだな」
「先にたためるナイフ、作るー?」
「材料はあるのか?」
「柄にする木が無いけど全部鉄にして、柄に皮を張っても良いかもー」
「それでいくつ作れるんだ?」
「5本かなー。刃の長さより柄の長さが長くなるからー」
「2万くらいか。どこで作る?」
「リュックの中ー」
「やめて置くよ。宿に戻ってじっくり作った方がいい」
宿の部屋へ入ると早速どんな作りになっているか調べる。
よくこの大きさで刃を固定し、指一本で解除する機構を作り込んだものだ。木製の柄も、刃を間に収めるために抉った溝から割れてしまわない工夫があるだろう。
アリスはあの場で作ると言っていたが何か腹案があるのだろうか。
「アリス、どうだ?ロックのところは上から見えるし、構造がわかり易いな。ここに見える細い螺旋の針金が伸び縮みして、ボタンを押し戻すようだな」
こんにちはー。アリスでーす。
ミットだよー。
ミ:折り畳みナイフー、ロマンだねー。
ア:鞘が要らないのはいいよね。
ミ:でも材料が良くないせいでー、肝心の刃がしょぼいー。
ア:それ。あたしも思ったよ。
アミ:まった見ってねー。




