第1章 荒野の旅 6
「アリス、ミット。武器の類をその辺にあつめてくれ。俺はこいつらを埋葬する」
ガルツは一人で黙々と死体を集め、埋めている。
アリスー、なんか矢を一本、じーっと見てるねー。
「どーしたのー?アリスー?」
「うん、あたしデンキ、一発しか撃てなかった。
二つ目はまるで効いてなかった」
「デンキってナタリーを捕まえた奴に撃ったあれー?」
「そう。今はあれで精一杯みたい。弓もまだ弱いし。串焼きの串、飛ばせないかな?って」
「ねえ、カイマンのとき、目に何か飛ばしたよねー?」
「あれは足元の砂に鉄の砂が少し混ざってて、あたし、投げたけど当たると思わなかった」
「ちっちゃい鉄ー、投げてみるー?」
キョトンとした顔で、アリスが足元の剣の山から鉄をゆっくり毟り取った。それを手の中でこねて、10メルくらい離れた木に向かって投げつける。
木からビシッと音がした。
アリスが続けてもう一回投げるとビシシッと音が返る。
二人で木へ行ってみると、幹が丸く4箇所へこんでいる。
「ガルツー、ちょっとちょっとー」
「おう、どうした」
手が泥だらけのまま、急いでガルツがそばへ来てくれた。
「これ、見てー」
「なんだこりゃ?んー?鉄の玉か?どうやったらこんなことになるんだ?
こんな小さな玉が幹にめり込むなんて?……あーっ!アリス。またなんかやったな!」
「うん……鉄を丸くして投げた……2回目は3つ投げた……」
あ、ガルツ泥だらけの手で頭を抱えたー。
「ガルツー、バッチいよー?」
「え、うわっ……洗うからいいよ。もう一回やって見せろ」
アリスがさっきの場所へ戻り、剣から鉄を取って、さほど力を入れた様子もなく投げた!ビシッ。
なんか投げる瞬間だけ腕の動き、速くね!?
見ると幹の穴が7つに増えている。
ガルツがポカンと口を開けて、幹の方を見ている。
「ガルツー、虫が口に飛び込むよー」
「あ、ああ。アリス、ナイフ投げてみろ。ミット離れるぞ。刺さらなかったらどこへ弾け飛ぶか分からん」
たっぷり10メル離れて「いいぞ」と声を掛けた。アリスがナイフを見て首を捻っていたが、普通に柄を持って投げた!ドスッ!
3人で見に行くと20セロのナイフの刃が15セロは刺さっている。
ガルツはまた泥だらけの手で頭を抱えた。
それはさっき教えたぞー。
でもどうやって抜こー?いいナイフだから回収しないとー。
「ものすごい戦闘力になるんだが……」
あ、復活したかー?
「投げナイフ使いは本数投げるんで、こんな風に細身の鍔無しを持つんだ」
と言って地面に細いナイフの絵を描く。
「アリスの場合、幸いと言うか鉄で持っていればその場で作れるみたいだし、使い捨てで行くか?」
「ガルツー、ナイフどーやって取るー?」
「ああ、そんなのは……」
あ、剣を握るのをやめた。ほー、頭は泥だらけにしてもー、剣は汚したく無いとー。
「アリスは投げやすい形をいろいろやってみろ。俺は先にあいつら埋めてしまうよ。ミットは見張りな」
アリスはなんかー、長い針にしたみたい。
左手に持った鉄から3本、10セロの太めの針をスーッと伸ばしてー、ヒュッと投げるの。
幹に当たってると思うんだけど、穴がちっちゃいからなのか、分かんない。どこまで刺さってるんだろ?
あ、ガルツ埋め終わった。
「ガルツー、頭も洗いなよー」
「えっ?ああそうだったな」
洗い終わったガルツが、さっきの木の前で長剣を振りかぶった。ズガッ!ズガッ!
この人も大概無茶苦茶だよー。幹が5セロ幅で抉れてる。10セロくらい削ったよ?ナイフの柄を持って上下に揺すると、あっさり取れちゃった。
「さて、この武器どうする?」
「……鉄と要らない物ー……鉄は少しもらっておくー」
道を左へ行くが、ガルツがちょっと不機嫌だ。あんなのに出くわすとか、そりゃ普段通りって訳にはいかないよねー。
「なー、アリス。いつだ?」
「えっと、なんの話?」
「俺の長剣だよ!いつ弄った?」
「えーっ!ガルツー、黙ってるから、さっきの連中のせいで機嫌が悪いのかーと思ってたら、そっちー?」
「いや、それで合ってるだろ。
あの阿呆の剣が切れちまったんだから。あんななまくらだって鉄だろ。
打ち合って折るならともかく、切れるか?普通!首が飛んで俺が1番ビックリしたぞ」
「ごめん。靴見せてもらったでしょ。あのときマノさんがすっごく見てたの。あたしも一度触って見たいなーって。
鞘をちょっと撫でちゃった。きっとその時に中に入ったのかな」
「???いや。鞘を撫でたら鉄が切れるの?いや、どーだろ?
いくらマノさんったって、意味が分からん。……ん?じゃあお前たちのタイツもテントも、鉄が切れるような剣でも切れないってこと?
どんだけ無茶苦茶なんだ」
「てことはー、ガルツの皮防具もー、かなり怪しーよねー」
「なに!これもか?」
「だってこの薄さでガインだよー。そっちのだとどのくらいー?」
あたいたちのタイツや衣類、ガルツの革鎧なんかは、森の死闘で手に入れた白ヘビやカイマンの皮を使ってアリスが作ったからねー。
「うっわ!絶対試したくねー。だからアリスが泣いてたのか?」
「いーや。あれは純粋にガルツがゴリラだったからー」
「ああ、分かったから。ミットの性格の悪さ」
「あっ、あたいの性格がどうだって言うのよー。あんたなんか青ゴリラじゃないー」
「あはははー、あははははー」
「「アリスに笑われた……」」
こんにちはー。ミットだよー。
アリスでーす。
ミ:アリスってさーなんでも投げられるのー?
ア:なんでもじゃないよー。あたしもよく分かんないけど、鉄が良いみたい。
ミ:なんでー?
ア:考えてなかったみたいよー。
ミ:なんてドジー。
ミア:じゃ、まったねー。




