第3章 ハイエデン 16
朝食が終わると食材はクマとトカゲの干し肉だけになりました。この人数ですと2食分もあるでしょうか?
本格的な食糧危機が迫っています。急遽作成した背負いカゴ3つと手押し車1台、購入資金を支給しパックさま以下3名を買い出しに送り出しました。
ミットさまが残り11名とピピンを連れ、片付けと材料回収に向かわれます。
アリスさまは、まずガルツさまにせがまれ伸縮槍を一本作りました。相変わらずの青でございました。暫くは大人しくしていてくれるでしょう。
次の優先順は小型バッテリを量産する専用道具でございます。けれど、ナノマシンの材料となる各種元素の入手先に海水を推奨申し上げているのですが、通じておりません。
仕方なく骨から各種カップを量産する道具の作成です。パックさまにマシンの役割分担の手法を学んだアリスさまのご指示が、より的確なものとなりましたのでわたくしの負担が増すばかりでございます。
わたくしとしては既存の設計図に基づいて、製品の形で作成するのが最も効率が良いのです。ところが作り出す製品がそもそも特殊な上、ナノマシン操作ができない者に材料と道具を与えて作らせろと言うのですから、わたくしの苦労たるや涙ぐましいものがございます。
カップ、櫛、髪飾りを作成する専用道具の操作板にも各種の形状やサイズ、お色、模様などの設定が必要となり、画像表示用のマシンを搭載することになりました。単品生産道具でこの有様でございます。
そこまでの荒い設計と道具の試作品ができたところで、トルケスさまとビクソンさまがおいでになりました。外で槍をご堪能のガルツさまとの話声が聞こえて参ります。
「ご機嫌よう、ガルツさん」「ご無沙汰でした、ガルツ殿」
「やあ、トルケスさん、ビクソンさん、ようこそ。中へどうぞ」
「やあ、お嬢さん。アリスさんだったね。今日は注文をまとめて来たよ。ガルツさんも見てほしい。うちが欲しいのはこのリストだ。期限は10日だが、初回なのでこれはあまり気にしなくてもいい」
「うちは交易隊を14日後と18日後に出したい。それぞれにこのリストにある品を載せたいと思っている。どうだろうか?」
「見せてね。
トルケスさんのリストは細かく書いてあるので分かるのけど、ビクソンさんのはカップ80、櫛50といった書き方でどの形とか色といった指定がないですね?」
「ああ、それはお任せで構わない。他にはない商品だからな。全部同じでも各種5ずつとかでも構わないよ」
「まだ量産をしたことがないからきちんとしたお約束はできませんけど頑張ります。
新商品があるけど見て行きますか?」
「「はい、是非!」」
「では窓に入れる透明な板があるので見て下さい」
ビクソンさまが顔を顰めていますね。
「ガラスですか?」
「いいえ。まず見てください」
一昨日に作った試作品2枚を見て頂きます。お二人ともひっくり返し指で叩いてみていますね。
「これはなんだ?濁りが全くないし、割れない?この歪な丸はこういうものなのか?」
「ええと、サイズは今のところ1メル幅、長さが1メル刻みで5メルまでの四角です。厚みは1/5セロから2/5、3/5、4/5、1セロの5種類です。染料があれば色もつけられると思いますが、やってみていません。
丸が歪なのはガルツさんがナイフで傷をつけて折り取ったからです。相方はこっちですね。ちゃんとした道具で傷を深く入れれば、もっと綺麗な形にできます」
「できたら隊商に3/5厚の3メル長を20枚ずつ載せたいな。値はどうする」
「ガラスと同じでどうだ?変に値切るとサントスに怒られる」
「いや、お前はわかっていない。ガラスを運ぶのはとんでも無く大変だぞ。なにせすぐ割れちまうからな。正直ガラスを運ぶよりも原料と窯を運んだほうが安くつくんだよ。俺は倍払っても欲しい。だがお前の言う通りサントスに怒られる。
あいつに話を通してから決めよう」
「まあ、そうなるか。うちも2/5と3/5の5メル長を20枚ずつ予約させてくれ」
「ところで昨日ドルケルの連中を十何人か引き取ったと聞いた。そんな者を預かって商品の製作に支障があるのではないのか?」
「あー、それについては解決済みだよ。あいつらはすっかり改心して更生中だ。商品の製作もあいつらを仕込む」
「ふむ。虫退治の英雄殿の言葉だ。頷くしかないし、こちらは売っていただく立場だからな。
だが、何か助けがいるようなら声をかけてくれ。できることは少ないかもしれないが、必ず力になるよ」
「私も約束する」
「では早速なんですけど、銅と銀が欲しいんです。なんとかなりますか?1キルずつあると助かります」
「それくらいなら店に在庫がある。戻ったら届けさせよう。代銀は商品代金からの差し引きでいいよ」
「ああ、助かるよ、トルケスさん。
もう一つ、急に人数が増えたんでな。食料の配達をやってくれるとこはないか?
料理人も腕のいいのがいたら紹介して欲しいんだが」
「店に戻ったら聞いてみよう。ちゃんと面接して気持ちの通じる者を選ぶと良いよ。それだけは忠告させてもらうよ」
「ああ、ビクソン。お前のとこは一時大変だったよな」
「あれは、思い出したくもない」
「ははは。私も聞いておくよ、結果は知らせる。しかし、しっかりしたお嬢さんだ。これは楽しみだね」
「まったくだ。じゃあまた寄らせてもらうよ」
「商品は頼んだよ」
「毎度あり」
こんにちはー、ミットだよー。
アリスでーす。
ア:マノさん、すっごい愚痴ってるよねー?
ミ:それはほらー。アリスの扱いがねー、わかるでしょー。
ア:へ?
ミ:それにさー、ビクソンも愚痴ってたねー、大変だったのかなー?
ア:多分自爆ー?
ミ:そーかもだけど。
ミア:まった見ってねー。




