第3章 ハイエデン 3
「ガルツさんあの像のてっぺんにこれを置きたいんだけど?」
「ああ、ちょっと待て、こう言う大きな像は大抵中に階段がつくってある。台座か裏側に入り口があるはずだ。
あー、これだな」
そう言ってガコンと像の裏を開いた。
球形の道具を見て紐をつけろと言う。紐をつけて渡すとパックと登って行った。
「アリスー、どうするのー」
「ここにぐるっと2列穴を作るよ」
「へっ?ここで上のあれ、やるのー?」
「でねー、像の上で呼んでいっぱい来たら上を止めて穴に呼ぶの。居なくなったらまた上で呼ぶの。あつまれビンビン穴だよビンビン作戦」
「あ、ガルツー。大変だよー。
今上にかけて来たので思いっきり大ムカデを呼ぶってー。矢とか槍が全然足りないよー」
「上で呼んだ時は地面だったから、町中の虫が呼べなかったんだと思うの。黒壁の影だったり、建物の影だったところの虫が残っちゃった。この像の上で呼べば影はほとんどないでしょ?」
「どのくらい残ってるかな。前回の半分。1000でどうだろう」
「穴ひとつが50くらいだから20個かなー」
「あー。そうなるな。一回上に戻って馬車に武器を積んで来よう」
途中で遭遇する大ムカデを駆除しながら洞穴へ戻り武器を回収していると、パックがピピンに馬車を引かせて奥から出て来た。
「ピピンって強いねー」
「どうしたのー?」
「僕も途中で1匹やっつけたけど、まわりに6匹も虫が死んでたよー。蹄の跡がくっきりだった」
「わー、ピピン、おてがらー」
「こっちの穴でも誘う音鳴らした方が良さそうだね」
「アリス。だいたい積んだぞ」
「蓋をして、一箇所柵を外すねー」
馬車を出したら蓋だけ開けて馬車へ乗り込む。あたしはパックの手伝いつきで中で武器の修理だ。ミットは屋根に陣取った。ガルツさんが馬車を下まで持って行く。
「着いたぞー。まず飯だろう。始まったらろくに休めないからな」
「「「はーい」」」
早めの夕飯を用意する間に落とし穴を20、外側から用意して行く。区割りはマノさんがして赤い線で見せてくれるから、その通りやればいい。
半分が終わったころ
「食べられるよー」と声が掛かる。
「ねー、ガルツー、灯りが要るんじゃないー?」
「そういえばそうか。始める前に遠いけど周りの建物の角に一つずつ吊るすか。この像にも上にぐるっと吊るしておこう」
準備はできた。みんなが灯りをつけて回る間に穴も配置できた。街の人に像の上から声を流す。
「これから石像前へ虫を、大ムカデを呼ぶので外へは出るな。繰り返すぞ。すぐに家へ入って戸を閉めるんだ。すぐに隠れろ!」
ガルツさんの声が街中に響いたはずだ。
「始めるよー」
人には聞こえない音だと言うがゾワっと総毛立つ感じは前以上だ。頭の上で鳴らしているからかな。
街中の大ムカデが動き出すのが分かる。上の穴も同時に音を出しているので、呼び漏らしは少ないと思うけどその分集まる数は多くなるだろう。
見えている街路を真っ黒にして、先頭の集団が現れた。
像の上の誘引音を切って穴へ誘うと1列目の穴に大ムカデたちが雪崩れ込む。飛び越えたりして向かって来るのを確実に殺して行く。
大ムカデの流れが薄くなって来たので、外周の穴に仕掛けておいた収穫マノさんを発動した。
前回は外からどんどん埋められて、退却が続いて追い詰められたからね。
また像の誘引音を最大に戻す。このゾワゾワ感はまだ結構いる感じだね。みるみる通りが黒に変わるので、もう少し待って像の音を切ると、同じ様に穴へなだれ落ちて行った。
3回繰り返すと大ムカデが薄くなって、石畳みが透けて見えるまでになった。それでもこの数に像を目指してこられると、対応できないので音の切り替えは続ける。
はるか向こうの山裾から、大ムカデがここまで走って来るんだと思うと、こんな短時間で終わるはずがない。山に入り込んでいるのも居るかも知れない。
そう思って日が沈んでからも1ハワー頑張っていたが、5匹10匹単位でダラダラとやって来るので気を抜けない、というか付き合いきれなくなって来た。
あたしは像の脇に穴を二つ作ると、ピピンを引いて2列目の近くへ行き、馬車ごと3メル下げて1メルの壁で囲った。上に蓋もしたのですっかり見えなくなった。
上に2箇所10セロの穴を空け、像の方の壁に入り口と階段を作る。
「ガルツー、ミットー、パックー。
もうほっとこう。ここで休むよー。入ってー」
一人づつ虫を警戒しながらこちらへ来ると、中に入って来た。最後にガルツさん入ったので10セロの穴を残して壁を閉じた。
「それでどうするんだ?」
「疲れたから寝るよー。
朝になったらきっと像が真っ黒になってるでしょ。周りの穴は一回全部掃除するから大丈夫だよ。
穴からうるさい音が聞こえるけどゆっくり休もー」
こんにちはー、ミットだよー。
アリスでーす。
ミ:何よあれー。せんとーほーきー?
ア:だってー。大ムカデめんどくさーいー。
ミ:それにしたってまさかのほーち!
ア:何よ、ミットー。あんた、あんなだらだら出てくるの、相手したいのー?
ミ:いやー、そういうわけじゃー……
ア:でもさー、この街っておっきいよね。
アミ:街に馴染めるかなー、心配ー。まった見ってねー。




