第1章 荒野の旅 2
「どうぞ、とんだ安物で心苦しいのですがもらってやってください。それで今夜はここでお泊まりでしょうか?」
ガルツが空を見た。まだ2ハワーは歩けそうだよね。
「いやもう少し先まで行っておきたいので。お邪魔しました。またどこかで」
会釈を一つすると歩き出した。まあ少し休めたことだし、歩きますかー。で、何から聞こう。
馬車がみえなくなったのでアリスに声を掛ける。
「ねー、何だったのー。まず、鍋はー?」
「鍋のね、鉄がマノさんのお気に入りー。なんかすっごく喜んでるー」
「ふーん、ボタンはー?」
「あれはねー。死んだマノさん?だってー」
「ダメだ。さっぱりわからん」
あ、ガルツー、サジ投げたー。
「で、この鍋は使えるようになるんだろうな」
「んー?……ちゃんと鍋になるって。鉄の棒と分けるってー」
「ならいいか。ところでお前たち歳は幾つだ?」
「まあ?女性に歳を聞くなんてー、失礼じゃございませんコトー?」
「だから、どんなキャラだよ」
「えへへー。シスターさん」
「ふーん、あれ、かなり準備でバタバタしてたからなー。俺、自分のこと何にも言って無かったな。
俺はこう見えて32になる。生まれは北の田舎の村、そこはもうないが、親父は鍛冶屋だった。お袋が木工をやっていて、アニキが二人いたんだが、みんなもう亡くなってる。
そんな下地があったんで、近くのバルセロって街の工房に潜り込んで、いろいろと教わったんだが、15くらいで180セロまで伸びたもんだから、狭い工房ではろくに動けなくなってな。
猟師の手伝いを始めたのが16。翌年には正式に入れて貰って、いろんな動物を狩った。
3年前にスベアって領地の軍に引き抜かれて剣を鍛えられた。この間からのラムーク王国の侵攻で駆り出されて、いくつか戦場を経験したんだが……最後のやつはキツかった。
仲間が随分減っていたとこへ、目の前で3人爆炎にやられた。敵なんてどこにも見えないのにな。
で、俺は逃げて来たってわけだ」
上から下まで青ずくめ。ゴツい皮の防具におっきなリュックの左側に矢筒、右に長剣を括り付け、亀の甲羅のように1メルちょっとの盾を背負っている。頭に被った鉢金の間から短く刈った赤黒い髪が覗く。日に焼けた肌、青い目。身長は185セロといっていた。
「あたしは8歳になるの。
お父さんはひと月前の襲撃で死んだ。盗賊だったのか兵士だったのか。お母さんは救護所の助手をしていて、あたしは近所のお手伝い。
ミットはそこで良く一緒にお手伝いをしたの。お父さんはどこかのおっきな家の人だったらしくて、村では見たことのない服とか飾りを持っていた。
ガルツさんに作った普段着はお父さんの服の真似っこだよー」
薄茶の髪に黒い帽子をすっぽりと被って青い瞳、白いシャツ黒の短パン、ポケットが可愛い青いベスト、足の外側に緑のラインがグラデーションで入っている白いタイツに、ガルツ同様のゴツい靴。太めの茶のウサギ柄のベルトにガルツにもらった40セロの短剣を吊って、白いリュックに赤い弓の入った矢筒が付いている。
「あたいは7つだって、シスターさんに聞いたけどホントの年はわかんないー。
教会には他に5人子供がいて、一人立ちしたって言う人がたまに差し入れしてくれるんだー。甘いお菓子を何回か貰ったよー。すっごく美味しかったー。
お手伝いはアリスと一緒だと、他の子とよりも楽なんだー。
打たれたりしないしー。ガルツ優しいしー、肉美味しいしー………ずっと一緒にいよーね!」
あたいは背丈が130セロ、アリスの色違いだ。白いシャツに青のベスト、緑の入った白タイツは一緒で薄い青のキュロットスカート、ネコさん柄のベルトに同じ短剣。
白ヘビの背中の緑がリュックの真ん中に入っている。弓の赤も猫さん柄なんだ。
あたいとアリスはつい10日前までケルス村の子供だった。1月程の間に2回の襲撃があって、住民は殺され畑も荒らされた。
アリスの両親はその襲撃で死んでしまった。あたいたちはナタリー姉さんと逃げ、逸れてしまった。森をたぶん二日彷徨ってカイマンの餌になるところをガルツと出会った。
「そうか。みんな頑張ったんだな。あー、そうだ。鍋があるんだから干し肉スープが作れるな。ちょっと山菜を探してみるか?」
「えっ、スープー?どんな味だろー、楽しみー。さがそーよー」
「さっきから道の脇を注意して見てるんだが、おっ、あれは……」
ガルツが立ち止まり周囲を見回すと左手の藪へ向かって歩いていく。手前でしゃがみ込み葉っぱを一枚毟って、あ、食べた?
「これマルバ。食えるやつ。ほれ、見本だ。良く見比べておんなじ葉っぱを探せ。アリス、薄い袋このくらいのを3つ出せるか?」
「はーい」
アリスがリュックを下ろして、中の皮の塊を撫でる。手を出すと白っぽい袋が3枚握られている。
カイマンと白ヘビの皮で3人の防具代わりの衣類とテントを作った余りがあの塊なんだー。あれも非常識だけど、あたいたちが履くタイツはガルツの長剣を弾いたよー。
「おう、ありがとう。見本は中へ入れるなよ。そこから中へ行ってみるか。夢中になってはぐれるなよ」
右手へ5メル行くと藪の薄いところがあったのでそこから入って行く。
「獣道だな、こりゃ。お、これは香草かな、なんてったかな、草の名前は覚えられねーんだよな」
ちっちゃな蕾みたいなところを指ですりつぶして匂いを嗅いでいる。
「これも食える。一緒に煮ると臭みがかなり消せるんだ。大概の肉は食えるようになるぞ。ほれ見本だ」
「「ふーん?」」
普通じゃ食えない肉を食うって聞こえた?
ガルツが先に立って警戒しながらさらに奥へ行く。ふと左を見ると
「マルバみっけー。ほら、ガルツー。どーよー」
「お、やったな、ミット。ん?アリス、後ろ、それもだろ」
「あ、ほんとだー。あれ、見本とちょっと違うよー」
「葉っぱを採ってちょっと齧ってみろ。飲み込むなよ。どうだ?」
「わ、苦い!ペッペッ!」
「じゃ、見本もかじってみろ」
「これも苦い。でもちょっと甘い?うん?」
しゃがんだまま、2枚並べてジーっと見ているアリスー、なんか癒されるー。
「ふーん、そっか。マノさんすごいねー。なんかねー、食べられる草、マノさんが教えてくれるみたいー」
「なんだって?どうやればそんなことができるんだ?」
「なんかね、毒?が見えるよーにしたって。葉っぱに赤い点々が見えるのこれ」
と言って苦い方を持ち上げた。
一緒に村の手伝いで裁縫をしてた頃、布地に赤い裁断線が見えると言ってたっけ。アリスが言うならそうなんだろう。
「うーん、毒がないのと食べて美味しいかは少し違うと思うが、料理次第か。当面は煮るか焼くかだからな」
アリスが片っ端から草を採るので、アリスの見張りが大変だったー。マノさん疑うわけじゃないけど、ほんとに食べられるのー?
「お、野苺だ。ほれ」と言って、ガルツが地面近くの実を採ってくれた。酸っぱいー。
袋は3つともパンパンなので手に持てるだけ採って、道へ戻る間に一粒ずつ食べた。やっぱり酸っぱいー、けどちょっと美味しい。
アリスも微妙ーって顔で食べていた。
道へ出ると左へ曲がる。上を見ると結構日が傾いている。こんな藪じゃあ夜営はできないから、先へ行ってみようってことになった。
こんにちはー、アリスでーす。
ミットだよー。
ア:なかなかマノさん、成長?しないんだよー。とかいーながら、とんでもー、なことをいっぱいしてもらってるけどー。
ミ:アリスは一応ー、マノさんとお話しできるんでしょー?
ア:あれ、お話ってゆーのかなー?あたしの頼みは分かってるっぽい。でもー、ものすっごい早口でー、途切れ途切れだから向こうがなに言ってんのか、まるっきりなんだー。
ミ:そーなんだー。ちょっとづつやるしか無いねー。
ア:なんか、愚痴コーナー、多くないー?
ミア:ではまた、バイバーイ。