第12章 トリスタン 19
「シロルー、シルバー。お出かけ準備だよー。あれっ?アリスー。シルバの外服が無いよ?」
「あー、そう言えば。でももう白ヘビの皮、いくらもないんだよね。ワニでもいいか」
「あの仕立てのいい黒服にかぎ裂きでもできたら大変だよ。何か動きやすそーなの着せよーよ。ミケー、ワニ出してー」
「シルバ、こっちに来てくれる?外行の丈夫な服を作るから」
「外行きだったらちょっと派手でもいーよねー?あたいの趣味で緑はどーよ?濃いめの緑は似合いそーだと思わないー?」
「まあ、水色よりかは安心して見られるよね。そうだなー、上だけでも明るく色を入れたいね、赤系が似合いそうなんだけど。首と袖に赤はおかしいかな?」
「それ、微妙だよー。あたいはグレーのシャツに緑のゴツい感じのベストがいいと思う」
「うーん、じゃ、それでいってみよっか」
お出かけ前にバタバタと衣装を作るなんて、アリスくらいだよー。
あれっ?あたいが言い出したんだっけー?
トリスタンの高台地下探検も3ヶ所目でございます。
上空から見るとほぼ円形の緑の濃いエリア、その真ん中に3人で降り立ちました。ミットさまが地面を調べます。首を捻りましたね。深さが予想と違うのでしょう。
「だいぶ深いけどいーかな?」
リュックから銀の穿孔筒を出して地面に立てました。
この筒は先日ミットさまがアリスさまに強請って作らせた地下探索用具で、直下にある構造物まで内径3セロの管を下ろし、続いてその構造物に同径の穴を開けます。そのあとはライトとカメラを先端から出して内部を撮影すると言う物です。ミットさまはその映像で、本来なら見ることのできない地下への転移が可能になるのです。
画像はマノボードを介して見ることができます。とは言えここにいる者でマノボードを使う必要があるのはミットさまだけですが。
「お、天井を抜けたねー。どんなとこだー?」
何か棚のようなものが間仕切りのように連なっていますね。間の通路は1メル半といったところでしょうか?カメラがぐるっと回って広そうな場所が……に、4人並んで立っています。これがミットさまの能力の一つ、転移です。
「ミットさま、声くらい掛けてくださいませ」
突然の移動にセンサがガサガサ異常値を吐きます。あたくし、思わず言ってしまいました。
「シロル、ごめんって」
口では謝っていますがいつもの通り、悪びれたご様子など微塵もありません。あたくしは各部センサーのリセットに少しかかってしまいます。シルバも頭を振って確認しています。
さて、ここはどうなっていますか?棚の物はほとんど朽ちています。元がなんだったのかも分かりませんね。ほぼ中央ですから、どちらへ行っても同じようなものです。
ミットさまが進まれる方へ付いて行きますと横切る通路がございます。倉庫のような場所なのでしょうか?
どこまで行っても空の棚が続きます。突き当たりにカウンターが見えてきました。お隣のネズミの骨が脳裏を過りますが続けてそんなことはないでしょう。
棚にあった物は見事に何一つ判別が付きません。カウンターの裏には筆記用具、ハサミなどがあります。透明な箱もありますが用途は分かりません。左にあるのは階段ですが1段の高さが30セロと高めです。あたくしのような小柄な者は昇降が大変そうです。そのまま左回りに進んでみます。
「なんだい、ここで行き止まりかいー?」
ミットさまが壁を叩いてみますが鈍い音がするだけでほとんど反響音がありません。かなり厚い間仕切りのようです。
右へ壁沿いにドアを探します。角を曲がると広い床面にポッコリと並んで突き出た1メル幅の階段が二つ。左手を見ると一面の透明な間仕切り。中程に透明なドアがあり外周の壁まで透明板でずっと仕切られています。
仕切りの向こうは黒い台に白く濁った箱が載っています。
「飾り棚かな?何があるんだろうね?」
シルバがズシっと重そうな透明扉を押して中へ入ると、白く濁っていたのは埃が積もっているためでした。側面から中の棚が霞むように見えていたのです。
覆いの表面を拭って中を覗きますがどの棚にも何一つ入っていませんでした。奥に分厚い木調のカウンターがありその裏に黒いドアを見つけました。
「鍵がかかってるねー。アリスー、なんとかなるー?」
アリスさまがナノマシンで穴を開け、灯りとカメラを中へ押し込みますが、随分と厚い金属製のドアでした。
ミットさまが中へ転移したあと、しばらくガチャガチャやってロックを外してくれました。
「ゴツいつまみが3つもあったから手間取っちゃったよー。なんでこんなめんどーな仕掛けになってるんだー?」
中はそれほど広くありません。長さ6メル、幅と高さが2メルといったところでしょうか。床も20セロほど高くなっています。壁という壁にびっしりと棚が並び、小振りの箱が隙間なく並んでいます。
一つ一つに丸いつまみがついているので手近な一つを引っ張ってみますと、蓋付きの軽い箱が抜け出て来ました。蓋は箱にはまり込むように載っているだけで簡単に外せました。
中には青い滑らかな手触りの布が入っています。取り出してみるとその下には青い透き通った石の付いた指輪が5つ。宝飾品の保管庫だったようですね。
調べるとどの箱にも何かしらの宝石、貴金属の装飾品が入っており、大変な金額になりそうです。
「どうする、これー?」
「使い道がないし仕舞い場所がないよ。ここに置いておけば後で何かに使えるでしょ」
「まー、そーなるよねー。中から元どーりロックするから先に出ちゃってー。穴も塞いでいーよー」
ドアを閉めアリスさまがナノマシンで金属を集めて開けた穴に蓋をしましたが同じ色にはできません。穴の跡にはガルツ商会の紋章をアリスさまが浮き彫りにしていました。
こんにちはー。ミットだよー
アリスでーす。
ミ:なんだかお店みたいだったねー。
ア:ビクソンのとこの宝石売り場と似てたよ。あんな厳重な倉庫はないけど。
ミ:てことはこの施設は、売り場かなー?なにがあるか楽しみだねー。
ア:あんまり期待しない方がいいかもね。ボロボロになってるのがいっぱいあったし。
ミ:きっと古いんだろーねー。
アミ:まった見ってねー。




