第12章 トリスタン 5
初日から甘い匂いを振り撒いたのと、珍しいので用意した7割近く売れた。夕飯時を過ぎると人通りが疎らになるので、暗くなる前に屋台だけ道を渡して片付ける。子供たちも馬車を相手に売り子をしているので慣れるのが早い。手間賃に300シルずつ渡して帰した。そしたら翌日は手伝いが5人になった。
4、5日続けるとシスターのルイーダさんが付いた。あたいが牧師さんに屋台を預けて別の商売をしたいと頼み込んだ成果だ。
料理はもう子供だけでもできるくらいに慣れて、覚えの速さには舌を巻くよ。シロルが野菜たっぷりの麺を塩味で焼く料理を追加した。
甘いばかりでは飽きてしまうだろうし、ユウビクサの葉の香りとも意外と相性がいい。この根がまた水で晒すと少し辛味が出て、いいアクセントになった。細く刻んで傍に添えたものをちょっとずつ齧ると美味しいんだ。
明日からは仕込みだけやって販売はお任せだ。
「なんで屋台なんか始めちゃったかな?忙しくて何にもできなかったじゃない」
「えーっ?アリス、ノリノリだったじゃないよー?」
「はい、アリスさまもミットさまも楽しそうでした」
「牧師さんに聞いたんだけどさー。あの林って街の土地らしーよー?なんか、公園用地ってことになってるのに、手入れもしてないから荒れ放題だったんだってー。教会の土地は道路沿いの5メルだけだってさー」
「へぇ、もったいないね。中心部に近いのに。ガルツ商会で買っちゃおうか?」
「誰が忙しくて大変だってー?さっき自分で言ったばかりだよー。買ったらまた建物建てたり忙しーよー?」
「まあそうなんだけどさ。あたし、あの子達がお風呂をどうしてるのか気になって」
「高台の調査に行けると思ったのに、こいつは。仕事増やすんだからー」
「また温泉ですか?どんなお湯が出るでしょうか。楽しみですね」
「今まで外れたことないけど、絶対出るってもんでもないらしいよ?」
「あら?うんと深く掘れば熱源は間違いなくあるんですよ?水も地下にはいくらでもあります。確実に出るとは言えませんが、十分に確率は高いですよ」
「ここの管理は市長ってのがやってるってー。あした聞きに行ってみよーか」
「おはようございます。ガルツ商会のアリスです。教会の向かいの林はこちらの土地だと聞いたんですが、お話を聞いていいですか?」
「ああ、街の管理だよ。私は市長をやっているクレスハントだよ。あの土地がどうかしたのかね?」
「公園用地だそうですね。手入れされずに放置されていると牧師さんに聞きました。
あの場所に屋台を出してまして、木漏れ日が気持ちいいいので、テーブルなんかを置かせてもらってます。枝払いも少しさせてもらいましたが、もったいなと思いまして」
「ああ。あの屋台はおたくのでしたか。庁舎の女性陣はすっかりファンですよ。いや、なかなか手が回らんのです。公園も計画はしたのですが、もう5年も手を付けられずにいます。枝払いは助かりましたよ」
「どのくらいの広さがあるんでしょうか?よろしかったらあの土地を買おうかと思っているのですが」
「確か間口60メル、次の道路まで突き抜けで85メルだったか?ちょっと待ってくださいね。
ああ、これだ。間口は75メルでした。広い土地です。本当に買ってもらえるんですか?」
「真ん中辺の木は間引いて建物を建てますが、
それでもよければ。おいくらになりますか?」
「土地は所有者が自由に使うものです。制限などはありません。市の査定額は38万シルです。相場は8掛けですから30万4千シルですね」
「そうですか。何か手続きなどはありますか?」
「いいえ。売買契約書を取り交わすだけですね」
「この場で支払っても?」
「今あるんですか?」
「ええ。ここに」
アリスはあたいのリュックから袋をいくつも取り出した。[重さ無視]を使ってるからねー。30キルの金だってへっちゃらさー。
てゆーか、まだ50キルも入ってんだよー?こんな安いと思ってなかったから。
あとは住所と広さ、金額を書いたおっきな紙に市長とアリスがサインをして終了だった。
土地の範囲を現地で教えてくれるというので戻って来た。屋台はお客さんがいっぱいだねー。塩焼きの麺が出てるよー。ユウビクサの根が効いたかなー?
目印は4隅に一本ずつ細長い石が埋めてあった。木は10数本切らなきゃだねー。なるべく教会側は木を残したいね。角に店を建ててもいいかなー?
こんにちはー。ミットだよー。
アリスでーす。
ミ:またシロルレシピが炸裂だよー。
ア:エレーナを抜いたっていう噂があるとかないとか?
ミ:それ、でどこはあたいだよー。
ア:またおまいかー。
ミア:まった見ってねー。




