第11章 サイナス村 4
「あー、そういえばヤルクツールに移動したのって、ジーナさんの転移と同じじゃないかな?」
「そう言えばそうですね」
「ねー、ミットー」
「なーにー」
「明日もう一回サイナス村に行くよ。あんなとこに住む理由なんてもうないと思うんだ」
「あたいもそう思うけど聞いてみないとねー」
「それとさ、転移ってヤルクツールに飛ばされたのと似てない?」
バシャァッ!
「そーだよ!そっくりだよ!」
「まあ、お風呂はゆっくり入んなよ」
「うん」
「いやー、気がつかなかったねー。そっかー、転移だったんだー。でもやったのって誰ー?」
「さあ?」
「まいっか。でー?」
「地獄耳。
シロルが衛星を修理しないかって。どうだろ?」
「えーせいー?修理って出来るのー?」
「さあ?行ってみたらなんとかなるかもね」
「そっかー。行けるんだー、えーせい。アリスと行けばなんとかなるかー」
あたくしもお風呂をいただいて明日に備えましょう。
空が白んで参りました。あたくしはそろそろ朝食の用意を始めましょう。座っていた椅子から立ち上がり、各部の動きを確かめます。昨夜のお風呂は良かったですね。関節部に固まりかけていた油脂が溶け、動きが良くなっています。こうやって熱で溶けるうちに新しい潤滑材と交換したいですね。
朝食は甘いフワッとしたパンに野菜の栄養たっぷりのスープ、薄切り肉をカリッと焼き、茹で野菜を添えたもの。甘めのソースがよく合います。今日も残さず食べて頂けました。
今日はお野菜を多めに詰めてもらい準備していると、アリスさまがミットさまに道中置いて来た大量の木質の回収をお願いしています。
早速ミットさまの転移の出番と言うわけですね。木質はおそらく新しい村に使うのでしょう。
アリスさまはクロを連れサイナス村へ出かけてしまいました。あたくしはお留守番でございます。村の候補地の選定を言い付かりましたが、準備もしておりましたのに正直予想外でした。
ミケと共にこの辺りの地形を調べて回りますと候補地は2つ。
川向こうの森を一部切り拓き川と海、山との間に畑を作り村とする。
もう一つはずっと戻って森から離れ広い平原を開墾し農業を主とするもの。言ってしまえば畑作用地を確保できる場所が他にありません。あたくしは近いこともあって最初の候補地に心惹かれますが、どうなるのでしょうね。
ミットさまの木質転移が始まりました。一瞬姿が見えたかと思うと木質が5本程その場所に転がり、目を戻すともうそこには姿が見えません。1、2メニ間隔で現れるので1ハワーで200ほどの木質が運び込まれました。あたくしの記憶では道中作成して放置した木質は1500を超えていましたが全て集めるおつもりでしょうか。
次に現れた時にあたくしはミットさまをお茶に誘いますと、楽しそうに笑ってお付き合いくださいます。
「いやー、これ、おっもしろいよー。転がってるやつに手をチョンとやると木質がどこまでもついてくるんだ。次へ飛んでチョン、次へ飛んでチョンって5、6本やるとちょっと重い感じでさー、ここに飛んできてポイッと。流石にちょっと疲れたかなー?お茶飲んだらセーシキドーに行って来るよー」
「無理はしないでくださいね」
「どーだろねー?あそこに行くのも楽しみだよー。ちっちゃい世界も綺麗だけど、他にも色々見えるんだよ。
そうだ、シロルー、このあといっしょに見に行こーよ」
それはもう切実に見たいです。宇宙ですよ?静止軌道ですよ?でも行ってもいいんでしょうか?
躊躇っているとお茶を飲み干したミットさまがあたくしの手を取りました。
「いっくよー」
「はい」
思わずそう返事をしてしまい、次の瞬間には丸いアルミの球の中に浮いていました。近くの円窓に世界が漆黒を背景に小さく浮いています。
なんの音もしません。ここまで平坦な音響データは初めて見ました。ミットさまの動きに伴って生じる衣擦れの音だけが、僅かな起伏となってデータに記録されています。
「ヒューヒュー!」
ミットさまの喜びの声にホッとしました。
「これがあたいたちの世界だよー。白と青と茶色ー、緑が少し。黒いとこは夜だねー。真ん中の濃い青が西の内海ー。ちっこいねー。あー、ハイエデンは雲の下だねー」
本当に小さな世界なのですね。見ていると急に視界が切り替わります。別の窓へ転移したようです。
「ほらシロルー、あれなんだけどさー」
指し示す指の先には小さな赤い点。星空を背景に僅かに動きが見えます。唐突に惑星という言葉が浮かび検索が開始されました。このようなデータはあたくしの中にはないはずです。
第5惑星フロウラファイブと名が表示されました。
「フロウラファイブです。外惑星だそうです」
「ふーん?そんな名前なんだー」
瞬きのない見事な星空です。一つ一つの光は波長が異なりじっとそこに止まっています。動いて見えるのはこの球体が世界の自転に伴って軌道を周回しているためです。理屈が分っても、地上での生活感覚とはかけ離れたこの環境はとても奇妙に感じます。
こんにちはー。ミットだよー。
アリスでーす。
ミ:上は面白いねー。
ア:何、また行ってきたの?
ミ:うん。世界がすっごくおーきく見えたよー。
ア:そんなに大きさが変わるの?
ミ:近づけばおっきくなるのは一緒だよー?
アミ:まった見ってねー。




