第1章 荒野の旅 1
第1章 荒野の旅
「ガルツー、ちょっと休もー。あたいチョットボーっとするー」
「おっ、そりゃすまん。急ぎ過ぎたか。
あの先が明るく見えるからあそこまで行ってみよう。いい場所がありそうだ」
「うん「がんばるー」」アリスも疲れてたんだなー。
そこは広く切り拓かれた街道沿いの野営地だった。まだ野営には早いだろうに、一台の馬車が止まっている。
「こんにちは。何かあったんですか?」
ガルツが声をかけると、馬車からおっさんが出て来た。
「ああ、こんにちは。馬が足を庇い出したのでここで休んでいたんだ。わしは商売でこの辺りを行き来するヤヌスという雑貨屋だよ」
「俺はガルツだ。こっちがミット、アリスだ。馬はどうなんだ?足を見てやろうか?」
「ああ、わしも見るには見たが馬はさっぱりでな、済まないがわかるなら見てほしい」
「どれ、お前たちも見るか?」
「「みるー」」
「じゃ、こっちへおいで。俺の後ろに居るんだぞ。おい、馬さんよ。足を見せてくれ。
こうやって話しかけていると意味はわからなくても馬が安心する。見える方から近づいて身体に優しく触れてやるんだ。
馬さんよ、痛いのはどの足だね?」
「右の後ろみたい」アリスが言う。
「なんだ、向こう側か。後ろは絶対に行くんじゃないぞ。前を通るよ、馬さん。足を見せてくれ。この足かい?チョット持ち上げるよ、どれどれ?
あー、これは痛いわ。尖がった石が食い込んでる、難儀だったな、馬さんや。ちょっとナイフを使わせてもらうよ、すぐ終わるからな」
ガルツがしゃがんだ膝の上に馬の後ろ足を乗せて、挟まっている石を刃先でこじり出した。馬は一瞬ビクッとしたがすぐに落ち着いた。
「アリス、ちょっと撫でてやってくれ」
「はーい。痛かったねー、頑張ったねー。良くなるからねー」
ああやってアリスが撫でると本当に痛みが引くんだ。あたいも村から逃げる時何度かやってもらったから知ってる。
「うん、馬が喜んでるな。よし」
ガルツが立ち上がるとまた馬の前を回り、馬車の方へ戻るので、あたいたちも慌てて付いていく。
「右の後ろ足にこれが挟まってた」
ヤヌスさんに石を見せて
「一晩休めば大丈夫だろう」
「おお、助かりました。何かお礼をさせてください。とは言ってもしがない雑貨屋のこと、商売物で間に合うなら、なんでも言ってみてください」
「調理道具はありますか?鍋が有ったらありがたいんだが」
「鍋は2種類しかないが、まず見てください。これは大鍋、子連れの3人だといくら何でも大きすぎるか。こちらは鉄鍋で結構重い。
旅には向かない品です。残念ながらそちらが使いやすそうなものはあいにく持っておりません。
あとは食器、お玉くらいですか」
「重い鍋ー、いいねー。もらっていいのー」
アリスが話に割り込んだ。何かあるなー。ガルツも気がついたみたい。森でナイフを再生したとか弓を作ったとか、いろいろ見てるからね。
「俺は自分で言うのも何だが、力持ちでな、重いものが大好きなんだ。是非その鉄鍋を譲ってくれ」
「それは構いませんとも。是非もらってやってください。これだけでは心苦しいのでこちらの飾り物も見てやってください」
ザラザラーって感じで小物がぎっしり入っている平たい箱を出して来た。
「どれでもひとつづつお持ちください」
アリスは箱を食い入るように見ている。まだ何かあるのー?
左の角をザラザラーっと撫でると灰色のボタンを拾い出した。顔がフッと正面にもどる。奥の方をじっと見ている。
ガルツも様子がおかしいと気がついているようで、安っぽい飾りを摘んでヤヌスに話しかけている。
アリスの右手がスッと奥へ伸びた。軽く掬い上げるように上の飾りを退けて同じ形のボタンを取り出した。
「ミット、これにしよー」
「あ、いいねー。あたいも気に入ったー」
「俺はいいわ。鍋が気に入ったし。ありがとうな、ヤヌスさん」
「これとこれもらっていー?お揃いなのー」
「どうぞ、とんだ安物で心苦しいのですがもらってやってください。それで今夜はここでお泊まりでしょうか?」
ガルツが空を見た。まだ2ハワーは歩けそうだよね。
「いやもう少し先まで行っておきたいので。お邪魔しました。またどこかで」
こんにちはー。ミットだよー。
アリスでーす。
ミ:アリスー、なんかお宝ー?
ア:えー、ちょっとねー。
ミ:顔がすっごく満足そーだよー。
ア:うん、ちょっとねー。
ミ:教えてくれそーにないなー。まいっかー。
アミ:まった見ってねー。