第10章 西の海 4
「髪傷むよー。ちゃんと乾かそうよ。タオルがあるんだし、ほら、丁寧に拭いてー」
シロルが羽交い締めにしてミットが襲いかかった。
なんとか男どもの前に出せそうな格好にしてサーラムの執務室へ。
「サーラム支店長ー、居たかーい?」
ドアが中から開きサーラムが顔を出した。
「居るよ。おやミット嬢ちゃん。アリスさんにシロルさん。よくいらっしゃった。
ナンシーまでどうしたね?」
「ちょっと相談があってねー。パルザノンのバス路線の話は聞いてるかいー?」
「ああ、聞いている。往路の昼食を出せないかと言う打診があったよ」
「ふーん、で、どうするつもりだい?」
「未だ街の片付けも出来ていないからね。考えているところだ」
「路線はパルザノンが終点じゃないんだよー。その先にも200ケラルくらいの商圏が連なってるんだー。100万シルあるんだけど、近所の村から人を雇って十字街沿道50メル幅だけでも片付けられないかいー?」
「え。ミット。100万って?」
「あぶく銭だよー。パーッと使いたいじゃないかー?
あたいたちでやるのは簡単だけどねー。それじゃただ片付いたってだけだろー?」
「ぬ……できるだろう」
「だろうじゃないんだ。あたしたちのウエスティアなんだよっ!いつまでもこんなザマで良いと思ってるのかいっ!」
「ナンシー。落ち着いてくれ」
あたしがシロルに頷くとシロルがナンシーさんを後ろへ引いて下げてくれた。
「この街をどうしたいか言うよ。パルザノンからのバスをここで一泊させようと思う。十字街を綺麗にして商店街を作りたい。ハイエデンの商会も何軒か呼ぶけど、メインはここの土地だよ。
パルザノンは山の街だから魚は200ケラル運んで来てる。生きのよさはこっちが上だ。
他にも近所の特産品をかき集めてちょうだい。お金の集まるところに人は集まるんだと思うよ」
「ろくでなしも集まるからそっちの対策も要るよー」
「分かった。一つ頼んで良いか?」
「なんですか?」
「乗合トラク……バスだったか。中型を2台入れて欲しい。人を集めるなら送迎しないと」
「ソーゲイは良いけど飲食店も誘致しなよ。宿泊施設は足りそーなのー?」
「ナンシー、今泊まれるのは20人くらいか?」
「ああ、そうだよ」
「アリスー。明日もここに泊まろーよー。あたい、お魚気に入ったよー。シロルー、美味しいお魚が食べたいー」
「なーに言ってんだか。あたしが言い出しっぺなのに、ミットにいいとこみんな攫われちゃった」
「アリスー、あたいは煽るのが担当だよー?奇跡は任せたよー」
「なにそれー、「あははははー」」
微笑ましげに見ているシロルと、なにが起きたのかわからないサーラムとナンシー。
それが可笑しくて二人で笑い転げた。でも100万シルの使い所としては悪くない。ミットに先を越されたね。
サントスさんに中型バスの予約を入れとくか。2ハワーくらいあとね。アラームを入れてっと。ガルツさんはどうかな?同じで行けるね。
よーし。ここは方針を決めないと。
「すぐに要る施設は宿舎と食堂かな?それに商店街を作る材料に木質で柱と梁、屋根材だけ作っちゃおうか?100軒分?シロル、これちょっと描いてくれる」
「はい、アリスさま」
「遠慮しないで言ったほーがいいよー。あたいたちは明日1日しか手伝わないんだから」
「そう言うこと。大変なのは分かってるから、できるだけのことはしてあげるよ。温泉の拡張もしよっか?」
シロルが描いてくれたのは12メル四方の3階建店舗の骨組み図。柱と梁だけが描いてある。間取りに合わせて筋交を入れ、壁で仕切ればどうにでもなるだろう。そこは自分たちでなんとかしろと言うメッセージでもある。
「本当にこれを100軒分作ってくれるのか?
なにを差し出せばいい?」
「あんたの本気ー」
「さっすがミットー、いいこと言うー」
「分かった。今聞いた分、当てにさせてもらう。50人の宿舎と食堂、店の柱などはそのまま、それに温泉の拡張はお願いしたい。今の倍必要と思うがいいだろうか?」
「場所があるなら2倍は問題ないよ。それ以上はお湯が足りなくなるかな?」
「宿舎の場所は大丈夫かい?そのくらいはあたいが解体やってあげるよ?」
「場所は十分にあるから大丈夫だ。一緒に海沿いの村を回ってもらっていいだろうか?」
「ふーん?いいよー」
「では明日朝までに考えておくことができた。また明日、お願いしたい」
「うん、頑張んなー」「おやすみー」
こんにちはーアリスでーす。
ミットだよー。
ア:突然始まったウェスティア整備。
ミ:まあいつものことだよー。サーラムがガルツに遠慮してるのが悪い!
ア:そーかもね。でも拾ってもらった恩とか言って、動きづらいんでしょ?
ミ:それを世間では恩を仇で変えつってゆーんでしょ?
ア:ちょっと違うかなー?まあ実力をちゃんと出さないとって感じはあるかな?
ミア:まった見ってねー。