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フロウラの末裔(構想)  作者: みっつっつ
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第9章 ヤルクツール 20

「次の試合が決勝となります。圧倒的と認められた記録を持つミット嬢とキャロライン嬢による決勝戦です。キャロライン嬢から開始して下さい」


 再び大きな歓声が上がります。理不尽とも言える管理側の決勝シードに、表立って非難する人が居ないようで何よりだとあたくしは思いました。

 キャロライン嬢が先ほどと同じように棒を構え渡って行きます。若干ですが先ほどよりも速く渡って行き、最後の3メルと言うところで(わず)かにバランスを崩しました。一瞬足を止め回復に努めました。すぐに立ち直り無事に渡り切ります。先程よりも速く渡ったのは間違いありません。


「次は決勝シードとなっております、ミット嬢。競技を開始して下さい」

 キャロラインさまよりも声援は少ないですね。これで勝敗が決まるわけではありませんし、ミットさまは気にするような(たち)ではありません。

 流石に先程の試技を見て棒を構え登場しました。始めの合図に歩き出すミットさま。正面を見据え足先で綱を掴むかのような歩み。足裏を綱に向け外側から軽く振込み、足裏が綱に当たった瞬間に踏み下ろす、とでも言いましょうか。

 その見慣れない足の動きを別にすれば、平地を征くが如くスススッと進んで行きます。あっという間に残り5メル、なにを思ったのか足を止めて棒を頭上に挙げ一回しして脇へ放ってしまいます。その後は全く何事もなかったかのように渡り切ってしまいました。

 計測の審判が始まると、命綱を外し逆からミットさまが渡り始めます。ザワザワとする頭上で最初の3メルを過ぎると3歩駆けるように速度を上げて、直後上体を前に大きく曲げ両手で綱を掴みます。まるでそこに(へそ)から上の部分が逆さに固定されてしまったように止まるその上を、足が弧を(えが)いて乗り越えていきます。両足がそのまま綱を掴み、上体が遅れて起き上がると立ち姿に戻りました。なんという柔らかな背骨でしょう。


 そのまま2歩早足で進み綱がグッと沈みます。一瞬止まってタイミングを取り綱に跳ね上げられるように空中へ。

 キャー。


 そこここで悲鳴が上がりますがミットさまはどこ吹く風と前方へ一回転。流石にその態勢から足で綱を捉えきれず綱から落ちそうに、いえ、踏み外してしまいました。再び上がる悲鳴、怒号。


 しかし両手が綱を捉えてぶら下がると、体が前へ大きく振れたところで、両足を綱に触れる辺りまで大きく振り上げました。そのまま大きく足を振り下ろすと、あっさりと綱の上に上体が持ち上がります。

 (わず)かに後ろを振れる反動で足を大き前へ振り込み、返る勢いでそのまま綱に倒立しました。そこから体の向きを僅かに(ひね)ると足は綱の上へ。元通りの立ち姿です。


 唖然(あぜん)と皆さまが見上げる中、満面の笑顔で両手を振りながらあっさりと元の柱へと歩き渡り切ってしまいました。


 一瞬遅れてこれまで聞いたこともない歓声が上がりました。


 審判役も一緒になってハラハラと見上げていたと見え、騒ぎが鎮まってからハッとしたように発表がありました。


「優勝はミット嬢!おめでとうございます」

 再び大歓声が巻き起こります。

 ミットさまはすでに下へ降りて待機していましたので、お立ち台へ案内され目録(もくろく)を受け取っていました。


 表彰が終わって帰り道もあちこちから声が掛かります。広場へ入ると、ミット、ミットの連呼になってしまいました。レントガソールさまの右肩に座って右腕に支えられながら、ミットさまが両手を振って応えていきます。広場を渡って出るときは広場中の大きな拍手をもらっていました。


 食堂に着き、落ち着いた途端にガルツさまトレントガソールさま両名にヤングさま、テモンドさままで加わり、ミットさまがしこたま怒られたのは言うまでもありません。


「心臓が止まるかと思ったぞ。俺を殺す気か!」




 今日も平台の売り上げは絶好調。午前中あたくしたちが手伝ったので、この時間にはほぼ売り切りで閉店の準備をしていました。クロの連続勤務については本人がなんとも思っていませんので誰も追求しません。明日も1000個売りだせる目処は付いています。

 付いて来たテモンドさまとヤングさまは、ガルツさまがハイエデンに連絡してしばらくこちらで勤務と言うことになり大喜びしています。お休みが無くなったというのに、なぜあんなに喜んでいるのでしょうか。


 昨夜と同じ配置で食堂の手伝いに入ります。

 ガルツさまはお一人で庁舎へ向かわれました。見本市の結果の確認と交易品の話、温泉計画について話し合われるようです。

 ガルツさま、温泉を掘るのはアリスさまですよ?

 おっと、あたくしは調理を手伝わなくては。まずは賄いですね、皆さまの腹ごしらえは重要です。


こんにちはー。アリスでーす。

ミットだよー。


ア:すごかったねー。悲鳴が上がってたよ?

ミ:えへへー。あたいに演出もすごいでしょー?

ア:えー。そうなのー?ミットって演技派?

ミ:見かけによらずってかー?

ア:うん?なんか違うな。あたしが言ってるのはミットの悲鳴だよ?がルツさん達に怒られてた時の。

ミ:ひえーー!


ア:あ。また出た。まったねー。

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