第1章 荒野の旅 13
門を抜け、丈の高い草地を貫く街道を南へテクテクと俺たちが歩いていると、後ろから馬車が1台疾走してきた。ただごとではなさそうなので道から少し離れてやり過ごそうとしていると、馬車が前で止まりバラバラと10人ほど降りて来た。
「よう、街ではずいぶん世話になったな。お陰様でこちとら、立場がねえんだ。落とし前付けさせてもらうぜ。旦那がた、お願いします」
「ふん、普段の威勢はどうしたのだ。こんな子連れに5人も駆り出すとはずいぶんと焼きがまわったようだな。
まあ払うものさえ確かなら楽な仕事の方がいいんでな、あんたらも災難だったな」
こいつらは防具もしっかりしている。今までの相手とは違うな。揃って長剣だが、舐めてかかるわけにも行かなそうだ。
「ガルツー。なんか強そーだよー?大丈夫ー?」
「痛いのは多分もらうぞ。覚悟はしとけ。あとはこっちの攻撃が通じるかだな。お前たちは少し下がってろよ」
「あー、ガインだもんね。分かったー」
ガルツが白ヘビに長剣を渾身の力で叩きつけたときに、傷すら付かずそんな音がしたのだ。
「そうだな。覚悟は大事だぞ。大人しく死んでもらおう」
5人駆り出したって割に来るのは一人か?余程自信があるのか。
「アリス、まだ手を出すなよ」
言いざま、剣を胸辺りへ突き込んだが半身に躱され、上からの斬撃が左肩を襲う。盾を上げて受け流しながら剣を引き、少し泳いだ背中に蹴りを入れてやった。
たたらを踏んで、振り向こうとするその首筋へ俺の切先が振り上げられ、そのままザックリと手応えがあった。あれ?こんなもんなの?
「野郎!」
バタバタと4人が向かって来る。
「ガルツさーん、混ざっていーでしょー?」」
「アリス、お前さっきなんかやったろ」
「えーっ、手は出してないよー」
「そうか。手じゃないものを出したな」
「てへっ」
「また頼む。来るぞ!」
俺が大振りに長剣を左へ薙ぎ払う、その下からアリスの針が飛んで右の二人が膝を突いた。
ミットも左で射っているが防具が固く刺さらない。左の二人の剣を俺の剣で弾き距離を取る間に、アリスが右の二人の顔面にとどめの針を撃ち込んだ。
残る二人は不利を悟って一気呵成に攻めかかって来た。盾でなんとか受け流したが右の肩口に良いのを一発、貰ってしまう。
痛ってー、剣を無理矢理持ち上げ防御を固める。剣で叩かれたせいか、身体の右側がピリピリする。ミットの矢が左の男の顔面を捉えた。
馬車の5人がこちらへ駆け寄って来る。左の奴の片目に矢が突き立った。
俺の右腕では守りで精一杯だが、そのせいか周りがよく見える。正面の奴が攻めあぐね右へ動いたので俺も体を回す。その動きに反応し、俺に斬りかかる動きを見せたところへ、アリスの針が襲いかかる。
よく動きを見てるな。攻撃する瞬間が一番無防備になる。針は難なく防具を貫き、そのまま奴は前に倒れて来た。
俺は一歩右へ踏み出して避けると近づいて来る5人に突っ込んで行く。阿呆が俺に気を取られれば、ミットもアリスも射ち放題だ。
俺も盾で殴り付けると、二人吹き飛んだ。
見ると他は地面にキスをするところだった。
なんとか剣を持ち上げ、吹き飛ばしたうちの手近な方の首筋へ突き入れる。
もう一人はすでに矢と針を浴びていた。
俺は剣を抜くと地面に刺し、ふうと息を吐いた。
すぐにアリスが駆け寄って来て、腰を掴み下へ引っ張るのでされるまま座り込むと、防具の首元を拡げて左手を俺の防具の下へ突っ込んだ。
ミットは周囲を見ながら馬車へ近づいていく。
こんなときのアリスの手はやけにあったかい。あれだけの痛みがみるみるひいて行くようだ。痺れ薬でも付けてるのかと思うほどだ。
「ガルツー。馬車って乗れるー?御者もいないんだー」
「ああ、乗れるぞ。うーん、そう考えると、こいつらって案外いい奴らだったのか」
「あ、そうだねー。でもー、お礼を聞いてくれる人がいないよー」
「まったくだ。アリス、なんだかもう痛くないんだが、どうなってるんだ?」
「あー、よかったー。すごい音がしてたから心配しちゃったー」
「そ、そうか?ほら、もう全然何ともない?あれっ、ホントかよ」
「まーまー、そんなことより始末がいっぱいありますぜー、ダンナー」
「あー、そうだな。10人分の穴掘りか……。生きてても死んでても面倒な奴らだ……」
ミットが荷台からショベルを見つけたので、穴堀りに時間は掛からなかった。
本当に死んだ方がいい奴らだ。
ミットが矢の先に鉄の鏃をつけると言い出しアリスと2人で作っていたのが出来たらしい。
「あたいの矢を弾いた防具ー、脱がせてよー。ガルツーってばー」
「ああ、わかった、わかった。ちょっと待ってろ。こいつだったか?確かにちょっといい防具だな。アリス。こいつらの防具を使って何か作れるか?」
「どーかなー。別の防具ー作るー?売れるかなー?」
「じゃあ、この5人のは確保するか。武器もだな。あとはゴミだ。埋めてしまうぞ。どうだ、ミット。上手くできたか?」
「すっごいよ、これー。斜めに当たっても刺さるー」
「ほう?それはなかなか。弓引きの練習を頑張らないと、矢が重くなった分飛ばないぞ」
「「はーい」」
「ははっ。アリスも付けたのか。頑張って練習することだ。よし、埋めたぞ。馬車はどんな具合だ?」
「「きったないー」」
「ああ、よくわかったよ。どれどれ?
あー、これも一緒に埋めるんだったか?よくこれに10人も乗って来たな。後ろへどかして場所作るから、ハッポーだっけ?布団を出してお前たち荷台に座れ。早く移動しないとまたなんか来たら困るから」
「「はーい」」
「どうだ?これでいくらかマシになったろ。布団布を広げるからハッポー詰めてくれ」
「いっくよー」
「いいよー。わぁ出て来たー。よいしょ。よいしょ。ガルツー、そっち拡げてー。よいしょー」
「もういいんじゃないか?後ろに寄りかかれるしいいだろ。
じゃあ、馬車を動かすから、後ろで好きにやってろ」
「アリスー、燻製肉食べよーよ」
「おっ、いいな。だが手を洗わんと食えないぞ。汚いもの触りまくったからな」
「じゃ、ちょっと止めてー。手だけ洗っちゃおーよ」
「ああ、分かった」
そんなこんなで馬車の旅が始まった。
トラーシュの街から十分に離れたら馬車を何とかしないとな。
こんにちはー。アリスでーす。
ミットだよー。
ミ:テクテクの旅がばっちい馬車の旅になったー。
ア:ミットー、もしかして喜んでる?
ミ:なわけないでしょー、きったない馬車だよー。お馬さんはかわいーけどー。
ア:そっだねー。お馬さん可愛いーよね。
アミ:まったねー。




