第8章 魔物 6
「アリス殿は魔導師か?」
「「まどーしー?なにそれ?」」
「ぬぬ。白を切っている様子ではないか?フラクタル殿なら何かご存知であろうか?」
「これは拗れたねー。
門番さーん。食堂に行こーと思うんだけどいーかなー?」
「はっ。連絡しますのでお待ちを」
「じゃー、ここ、チャチャっと片付けるよー」
「剣はできてるから吊っちゃって。リュックはもう少しかかるから中身と一緒に馬車にしまうよ。矢筒も馬車だね。
的は置いとくよ。ミケー、矢の回収お願いー」
「剣?むう。軽いな。だが振りやすいか?身幅が狭い分頼りない感じだが」
「前のより強いくらいだよ。手入れしてればレントの力でも折れたりしないよ」
「ミット殿の剣は水色だったな。これにも色が付くのか?」
「ダメだよ。殿だなんてつけちゃー。
刃の1セロ幅以外ならどんな色にもなるよー。門番さーん。剣を抜いて見せてー」
「おう。見てくれ、この赤!男爵様の色だぞ!」
「ほう。深みと透明感のあるいい赤だな」
それを聞いて門番さんがぶるぶるっと震えた。
剣をゆっくりと鞘に収め、街路へ向き直るとしきりに空を気にしているようだ。どうしたんだろ?
「鞘の緑もいいな。やはり透明感がある。この剣も色を付けたいな」
「でっしょー?」
「フラクタル様の了承がありました。食堂へどうぞ」
「「ありがとう」」
「あたくしも参ります」
「おい、なんかあったのか?」
「いや、剣を見せたんだが……」
気になったので主屋へ入る前に門を見ると門番の二人が抱き合っていた。具合でも悪いのかな?
中にヤクトール兵長が居たのでそのことを話すと、失礼します、と言って出て行った。
反応が早いね。
食堂にはフラクタルとジョスと執事のセバークが待っていた。
「食事にはまだ早いがどうされましたかな?」
「ちょっと拗れちゃってー」
ことの一部始終をミットが話す。シロルは当たり前のように厨房へ向かった。
「ふむ。値段が折り合わぬのは私も諦めた。こちらが妥当と思う金額を、言っては悪いが押し付けるほかないな。
西の内海へ魔物討伐であるか。当家の兵ではちと荷が重いな。ヤンクレーズ-レントガソール殿が行ってくれるなら荷運びの人員はこちらが出しても良い。もっとも、クロとミケも行くのだからそれも問題ではないであろう。
さて魔導師であるか?アリスさんは似たような者ではあるな。全く我々の常識が通用しない。だが言い伝えにあるような者ではない。
その言動は信用して良いと私は考える」
「むう。変わった者達と言うことか」
「ねー。魔導師ってなーに?」
「ああ、魔導師と言うのは魔物を生み出したとされる者だ。強大な力を振るう魔物。それを生み出すほどの力。地を割り都市を一つ壊滅させたと言う。そう言った言い伝えがこの土地にはあるのだ」
セバークがフラクタルに一つ耳打ちをした。
「食事の用意ができたようだ。手を清めてもらいたい」
レントは納得した様子ではなかったけど、あたしが用意したものへの見返りとして西の内海へ行くことを承知した。レントには馬車などの移動手段はないのであたし達の馬車の御者台に乗って行く。出発は明日の朝と決まった。
馬車は大通りを北へ、中央広場を左へ折れて西門へ向かう。西門には入場待ちは無く、街道を騒がす魔物のせいか往来が少ないようだ。
門を出ると右手は草原、奥に見える窪みはチズによると川らしい。起伏がなだらかで拓けているようにみえる。左手は手前に突き立つ巨岩を先頭に連なるように南東へ岩が列を成している。まるで岩の壁だ。街道は右から来る川に押されるように曲がって岩沿いに伸びていく。
橋をかけてまっすぐ行っても良さそうなものだけど、何かあるのかな?
レントに聞いてみたけどはっきりしたことはわからなかった。道の状態は今のところ良好だ。時々揺れる程度でそこそこの速度で進んで行く。
シロルは御者台をレントに取られたので、マノボードで代わり映えしない景色をチェックしている。ミットは馬車で縫い物はしないはずだったけど、退屈には勝てず1ハワーほどチクチクやっていて、いまはお休み中。
岩山から魔物の襲撃があると聞いていたけど、全くないのであたしも退屈してきた。チズには少し先に川が右へ逸れて広くなっている場所が見えている。
「レントさん。この先に広い場所があるみたいだよ。休憩しようよ」
「ああ、分かった」
広場は遠くからも見えた。左手の岩の壁の上10数メルに隙間が見える。隙間は50セロまで無いようだし位置が高いから心配は無さそう。ここは野営場所らしく轍の跡がいくつも草地に付いていた。焚き火の跡も見える。
馬車が止まると早速クロがテーブルと椅子を出しシロルがお茶の用意を始める。おっきな椅子はすっかりレント専用になっている。
一杯のお茶を飲み終えた頃、前方から馬車が走って来た。まだ遠いけどあの全力疾走は何かあったようだ。片付けをしているうちにその2頭立て馬車は近づいて来る。
こんにちはー。ミットだよー。
アリスでーす。
ミ:馬車の旅ー。
ア:あたし達三人だけ馬車の中だね。
ミ:レントもクロミケもデッカすぎて乗れないもーん。
ア:そうなんだけどさ。
ミ:まあ良いじゃないー。レントは納得してるみたいだしー。
ア:むう、そうだろうか。
ミ:気に病んだってしゃーないってー。まったねー。




