第8章 魔物 2
店を出て、来た道を4人で戻る。遠目には幼児を連れたお父さんかな?
全身灰色の装備だね。明るいところで見る髪は紺に近い青色。厚手の革ジャンパー、小さく見えるけどガルツさんのより大きいリュック。鍔の広い皮帽子は顎紐がついていて、今はリュックの上に被さっている。太い黒いベルトにポーチが右、左に剣が下げてある。これもおっきな厚みのある剣なのに小さく見えるのがおかしい。
ズボンも何の革なのか、膝から下が太めで足首の上で絞ってある。その膝には丸くて分厚い膝当てが巻かれている。靴は元は青だったのかな、擦り切れの目立つゴツい革の編み上げ靴だ。
「ねー、名前長いからレントでいーい?」
さっそくミットが絡んで行くねー。
「ああ、構わんが」
「魔物狩り、いーねー。今日はその情報を集める日だったんだよー」
「あたし達は東から来たんだよ。こっちの珍しいものを探しにね。魔物ってどんなところにいるの?」
「洞窟、森、川べり、西の内海にも居るな。
魔物ではないカエルやトカゲ、クモなどが魔石を持って凶暴になるものと、他に似た奴がいない魔物が居る。気軽に見に行くようなものではないぞ」
「見に行くんじゃないよー。狩るんだよー。
肉とか皮とか欲しいじゃないー?」
「ふむ?普通は魔石を欲しがるんだが?」
「あー、確かに売ってる値段は良いよねー。皮のうんと固いのが欲しいけど知らないかなー?」
「皮か。タイラントスネークと言うのは聞いたな。嘘か誠か、剣が折れるそうだ」
「へー。どこに居るのー?」
「内海のどこか。俺が聞いたのはそこまでだ」
「それ、知っている人はいないの?」
「どうだろうな。10何年も前に引退寸前みたいなオヤジが酔っ払って話した事だからな。
ところで、こうして若い娘3人にほいほい付いてきたわけだが、俺の弓をどうすると言うのだ?宿と言うのも迷惑にならぬのか?
ぬ?こちらは貴族街だぞ?どこへ行く気だ」
「ホンソワール男爵はご存知でしょうか?
あたくし達の宿はこの先でございます。敷地が広いのと、あたくし達の馬車がありますので大抵のものはお作りできますよ」
「なに?ホンソワール?作るだと?
お前たち、何者だ?」
「何者って聞かれると、旅人って言うんだろ!」
「「あはははー、なっつかしー」」
レントさん、困惑してるね。あたしも説明が難しいよ。
「あー、門番ご苦労様ー。
ちょっとお客さん連れてきたよー。母屋には行かないつもりだよー」
「いや、こちらはヤンクレーズ-レントガソール殿であろう。このパルザノン広しと言えどもこの小山の如き上背の戦士は2人とおらん。
伯爵家の御3男がお客様とは男爵様に知らせぬわけにはいかぬ」
「まあいいけど、あたい達はここでやることがあるんだよ。シロルー、お茶の用意お願いねー」
「はい、お任せください」
「クロミケー。テーブル出してー」
馬車の後ろを開いてテーブルと椅子をクロミケが出してくるんだけど、こうやってみるとレントさん、おっきいね。クロミケとおんなじくらい?
椅子を引き執事然としたクロを警戒するようにレントが椅子に座った。昨日、面白半分に一つだけ作ったクロミケ用の椅子が役に立ったね。ローテーブルみたいになってるけど。
シロルがカップを並べ紅茶を淹れてくれる。お茶請けはいつものクッキー。
「お庭で紅茶もいいものだよねー」
「うん。厩が近いけど綺麗なお庭だよー。
レントはどんな弓がいーのかなー?」
「どんなと言われても、弓は子供の頃何年か引いただけであるから、分からんよ」
「そっかー。ガルツの5割増しでどうだろー?
6割かなー」
「むー。ちょっとクロと腕相撲してもらおうか?台にする木質、あー、昨日の根っこでいいや。ついでにあれ始末しちゃうよ」
あたしは兵舎の裏手に行っておっきな根っこ3つにマシンを撒いてテーブルに戻る。
「5メニくらいだね」
「西の内海へはどうやって行くのー?」
「馬車で6日であるな。途中左手の山から魔物の襲撃を受けることがあるので旅のものは護衛が欠かせない。海にも魔物は出るがあまり出ない場所が幾つかあって、漁師が船子屋を置いているな」
「ふーん。行ってみたいねー。
あ、そー言えばこの街の下水道が北西で川に放流してるらしーね?なんか知ってる?」
「ああ、聞いたことはあるが見に行ったことはないな。カエルやトカゲの魔物がその辺りの川で狩れると聞いている」
「やっぱり怪しーなー。なんかありそーだよー?」
「下水のせいで何か起きていると言うのか?
だとしても良い狩場なのであれば、それで良いのではないか?特に被害が出たとは聞こえてこないからな」
「うふふー。ミット、他所の土地なんだから、あんまり首突っ込まないの。
台ができたから、レント、腕相撲してもらってもいいかな?」
「ふふ。腕相撲か。13の時にやって以来だな」
「じゃあ、クロ対レント。用意。
はっじめー」
こんにちはーミットだよー。
アリスでーす。
ミ:お庭で優雅にお茶ー。
ア:そしてまさかの腕相撲。
ミ:いやー、どっちが勝つんだろー。
ア:普通に考えたらクロミケが強い。
ミ:ほんとかなー
アミ:さあやってみよー。バイバーイ。




