第7章 パルザノン 10
「ううっ、そこを右です……」
案内に従って大きな屋敷の前へやってきました。門番が一人立っていますね。
「なんだー。近いじゃないかー。1ハワーしかかかってないぞー。
ホンソワ男爵ってここでいーのー?」
「なんだ、おまえたちは?ここはホンソワール男爵さまのお屋敷だ。
この馬車はお屋敷のもの?あっ、テレクソン様、なぜ縛られているのです?」
「ああ、ライクス。助けくれ。こいつらに縛られた」
「なんと!いや、しかしこんな小娘3人に男7人が縛られると言うのは些かおかしいのでは?」
「ふーん?あんたはどー思うー?」
「むむっ。薬でも盛りましたか?」
「治療ならしたけどー?腕が落ちたり、胸に穴が空いたりー?
ここの当主って居るのー?呼んでもらえるー?」
「テレクソン様を解放してもらえますか?」
「えー?ダメだよー。悪いことしたんだからお仕置きはしなくっちゃー」
「では呼んで参ります。ここでお待ちください」
「ねー、ホンソワー。何人連れてくるかなー。
いいとこ10人?もうちょっと居るかなー?
楽しみだねー」
「おまえ、頭がおかしいぞ。なんだって言うんだ」
「でー?どこへ何人売ったのか教えてくれないかなー?」
「なんの話だ?そんなことは知らん」
「ふーん?指って切ったり折ったりすると、すっごく痛いんだってー。もちろんそんな時はすぐ治療できるよー。何回でもねー?」
「ううっ、うわぁぁ。まさかそんなことを私に……」
あら、随分と気のお弱い方なのですね。そこで倒れてはお隣の方に迷惑です。皆さんの顔色が悪くなってしまいましたわ。
「あー、来た来たー。12人かー。アリスが長い剣作ってくれたから、あたい一人でいいかなー」
馬車の中で鎧が持っていた剣とアリスさまの短剣を合成して、いつもお使いの剣をアリスさまが2本用意されていました。
「いいよ。今日は見てるよ」
先頭は身なりの良いおじさまです。1メルの怪しげな黒い棒を持っています。後ろに3列に整列した者たちは同じ服に同じ剣を持っています。防具のようなものは見えません。門番は後列に居ます。
「私はホンソワール男爵家当主、フラクタルである。テレクソンが縛られていると聞いた。
そちらも名乗っていただこう」
「あたいはミットだよー。後ろがアリスとシロル。コイツらを縛ったのは女と見て4人で裏路地の建物に誘い込んで襲おうとしたから。その建物には鎧が3人居て、ものも言わず切りかかって来たよー」
「ふう。
テレクソン!」
「テレーは寝てるよー。何人をどこに売ったか聞いてたんだけどねー」
「そこにいるのはアルトルであろう。テレクソンを起こせ」
「はっ、テレクソンさま、起きて下さい」
縛られているのは一緒なので、結構乱暴に足で揺すってますね。
「うぅーーん。
は?お、お父様!」
「またやりおったな、テレクソン。
一体どこまで家名に泥を塗るつもりだ。家が途絶えることになろうとも廃嫡にしてくれる。
覚悟しておけ。
さて、お嬢さん方は7人の男を連行した上に、この人数を見ても動揺すら見えませんな。
私も末流とはいえこのパルザノンの貴族、こちらの都合で申し訳ないがご迷惑ついでに私と手合わせをするのだ」
「うん。いいよー。そのつもりで来たしー」
「お父様。こやつら雷を使いますぞ。剣も切り落とします!」
「ふん。それで心証を良くしようと言うのか。
では、参る」
それを受けてミットさまが1歩前へ出ます。彼我の距離は7メル。杖の先から荷電素子が飛んできました。ミットさまは杖の向きで難なく躱しますが、そこへ1メルもの範囲を巻き込んだ放電が飛びます。軽く左へ飛び退きます。どうしてあれが躱せるのでしょうか?顔を顰め
「ビリッと来たー」
動きの止まったところへ、杖が足の方へ向き先から何か飛び出しました。さらに左へ動こうとするところへ鉄の玉が飛んでいきます。
キィン!
おそらく体に痺れが出ているでしょうに、剣を盾に弾いてしまいます。筒の向きを僅かに変えました。ミットさまがやっと左へ一歩動いたところへ
カン!
当たった音に構わずミットさまが4メル近い間を一飛びに詰めました。剣は下へ振り抜かれています。
フラクタルの持つ黒い杖が中程からポタリと落ちます。
「痛ったいー」
と言いながら剣を返して喉元に下から当てると
「参りました」
「アリスー、痛いよー」
「あー、分かったから。ちょっと手を入れるよ」
アリスさまがキュロットの腰を緩めて脹ら脛まで右手を挿し込みます。肩の付け根までそれはもうズッポリと。この絵は男どもに見せられません。
「あ、はぁぁーー!くぅっ」
「あなた方は向こうを向いて下さいませ」
ここはあたくしが守らねば。兵たちとの間へ立ちスカートを広げます。
「あー、腫れて来たよー。ちょっと我慢しなよ」
「おい、さっきカンって音がしたよな?腫れるって?あれ、穴が開くだろ……」
「代々受け継いできた杖をダメにしてしまった……」
おや、そんな大事な杖でございましたか。
「杖を拝見します」
そう言うとフラクタルは素直に渡してくれました。かなり古いものですね。ナノマシンの制御ユニットが組み込まれています。5種類の作用があるようですが、指示はどうしているのでしょうか?フラクタルを見ると襟についた紋章が目に止まりました。あれですか。この杖はあたくしの手には負えません。
「アリスさまにお願いされてはどうかと思います」
「なっ。これを直せると言われるか?」
「はっきりとは申せません。あたくしの手に負えないのは確かです」
「ミット、これでいいよ。しばらくは痛みが残ると思うよ」
キュロットの腰のボタンを止めながらアリスさまが言います。
「うん。ちょっと変な感じがするだけだよー。アリスー、ありがとー」
こんにちはーミットだよー。
アリスでーす。
ア:厄介ごとに巻き込まれ中。
ミ:本当だよー、もう楽しくってー。
ア:いや、そこは大変だったよって言うとこだから。
ミ:えー?そうなのー?めんどくさいねー。
アミ:じゃあねー。バイバーイ。