第6章 レクサール 3
「チズに見える限りだけでもすっごく広い街だね。こんな一面瓦礫じゃあ走れないよ。どうしようか?」
「チズの更新はいつだ?それによって方向を決めないとどうにもならんな」
「明日の午後かな?エーセイが真上を通らないとチズが増えないから」
「じゃー、それまでわかる範囲で目ぼしーとこってあるー?」
「うーん、こっちの方に大きな山があるね。ガレキの山か元々の山か分かんないけど。左手には溝っぽいのが東へ続いてるね」
「溝は溝だよな。山がいいんじゃないか?あー、森の中だから高いったって周りは見えないのか」
「あはは。そうだね。山に行ってみよう。
道幅6メルで100メル先まで分解するよー。
25メニだって」
散布のあとアリスはトラクを5メル後退させ前に三角に大きな鉄の板を組み付けた。下は地面すれすれで高さが1メル、中央が2メル先まで出て左右ともトラクの角から少し離して固定して車幅より1メル近く突き出ている。
分解してできた円柱を掻き分けようというのか?
次いで床下に幅の広い直径30セロ車輪をたくさん並べて行った。
これだけ並んでいれば多少の凸凹も関係なく走れるな。曲がるのは大変そうだが。
車内、特に台所のものはしまった方が良さそうだ。
「ミット。お前の裁縫道具も蓋を閉めた方が良くないか?」
ミットの顔がサッと青褪めた。ハイエデンを出てからぬいぐるみを量産中で、今も一つ縫いかけが枕元に置いてあるのだ。俺のベッドの下の段にできたのが飾ってある。あれも散らばって汚れる前に箱詰めした方がいい。
「そろそろトラク、動かしていーい?」
「ああ、いいぞ」
ゆっくりとトラクがガタガタ揺れながら100メル前進した。うまく行ったようだな。アリスは次の散布を準備しているので、ミットと回収箒を持って左ドアから外へ出て見ると、量の多い所が崩れて車体の近くまで転がって戻り、足場が悪くそのままでは歩けない。
ミットが木質と石材の表面を箒でサッと撫で、後ろから俺がそれを2メル横の緑の薮へ片端から放り投げる。重量物を退けてしまえば、トンボで小さい粒や細い円筒を集め易くなる。
次の分解待ちになったアリスが降りて来て、後ろの資材庫の蓋を開けると、ガレキからできた木質6本に鉄、アルミー、他にも何種類かを載せた小山を二つ作った。2個しかないマノボタンをそれぞれに載せて、手を広げ一振りすると
「45メニか。やっぱり設計図にあるのは早いねー」
「なにを作ったんだ?」
「……ロボトー?に片付け手伝ってもらうよ。人と同じ動きができるって。2体しか作れないから大きめにしたよ。背丈が3メル。あ、乗るとこ作っておくよ」
そう言って車体の下端にあったステップを後ろへ40セロまで伸ばした。踏み台を貨物庫から引き出して高さ1メル半のトラクの外板の角に丸い突起を左右に付けた。
「これはベルトね。引っ張ると伸びてあっちのと繋がるの」
蓋を閉め、蓋の上端の外壁に頑丈そうな取っ手を4つ並べた。
「ロボトがこの床に足をかけて、取っ手を持つでしょ。それから足を縮めて腰のとこにベルトをかけてもらえば、それで大丈夫だよ」
「そいつらは外で雨曝しか?大丈夫なのか」
アリスがミットのマノボードを指して
「うん、なんともないよ。それよりこんな感じなんだけど、色はどうする?」
覗くと可愛いと言っていい人形が2つ立っている絵だった。丸い頭に粒らな黒い目、丸い鼻、口は笑っているようだ。腰に太いベルトが2段に巻かれている。ゴツい感じは全くない。これが3メル丈?
「わっ、かわいー。でも3メルかー?
耳つけよーよ。ネコ耳ー。あとはクマさんかな、丸い耳ー。そしたら黒猫にしよー。クマは明るい茶色ー」
「こうかな?」
ボードでは色が変わり小さめの耳を付けた2体がゆっくりと回り出す。腰のベルトが解けてウネウネと動く。
これシッポか?
「いーね。猫の耳はもう少し大きいほうが良くないー?クマのシッポは変だよねー。三毛ネコにしよーか。クロとミケー」
「顔にヒゲもつけたらどうだ」
「あ、ナイス、ガルツー。いーねー」
混ぜっ返すつもりが受けてしまった。
こうしてクロとミケが後ろの方からマシン回収と重量物の放り出しをやってくれるようになったので俺とミットはトンボで残りを小山に寄せて行く。
4回目にはトラクに追いつき折り返して来たクロとミケにトンボを預けて、手押し車に金属類や見慣れない材料の円筒を拾い集めた。
ちょうどアリスがお昼で作業をやめたので、集めた材料を見せると欲しいのがあったらしく喜んでいた。
「クロもミケも働くぞ!だが、このペースで進まれると俺たちが保たんぞ」
「もう1体作れると良かったんだけどボタンがもうないし、乗るとこがないから一仕事終わるたびに壊すようになっちゃうんだよね」
「えー、名前も付けるのにそれは可哀想だよー」
いつでも作れるんだから壊してもいいと思うが、言うとボコボコにされかねんので尤もらしい顔で頷いておく。
「そうなると1日800メルで進めるか。山まであと2日だね」
午後になり大きな木の近くへ差し掛かった時だった。近くにも木が集まっていて枝を伝って猿の20程の集団がトラクに向かった。円筒を押し分けて止まった所へ上から飛びつく数匹の猿は、微かな光を受けて屋根から転げ落ちた。少し遅れて200メル離れたここまで聞こえるバチッという音で、アリスがデンキを放ったと分かる。残りの猿はギャーギャーと叫びながら逃げて行った。
トラクへ行って見ると青い顔で呆然としたアリスが居た。
「アリスー、やりすぎだよー。黒焦げで食べるとこがないからー」
いや、猟師時代に一度食ったが、あんまり食いたいものじゃねえぞ。
「びっくりしたの。屋根にバタバタっと来て、前にワアッと出てくるんだもの」
翌日の午後、待っていたチズの更新があった。
ある程度予想はしていたが、この街は40ケラルの大きさがあったようでこの辺りは縁のほうだが、東に抜けるのが瓦礫から出る最短ルートだ。
25ケラル南の乗り場出口周辺が中心部だったのだろう。あの辺の調査もいずれはいいかもしれない。
東の78ケラル先に町があった。人も写っている。建物の数から見て、1000人くらいか。
その北東20ケラルに村がある。さらに北にもう一つ。前に見つけた村はそのもう一つ先だ。
いま目指している山は発掘してみるとして、その町までは行ってみたいか。
「南の水溜りの先にも大きな町があるねー。乗り場から67ケラルかなー。2000以上住んでそーだよー。南に良さそうな道路が見えてる、7メルかー、交易をしてるのかなー?
あたいはこっちを見たいよー」
「じゃあ東へ行ってから戻って南でどうだ?」
「東は4ケラルのガレキ付きじゃんー。縁の方なんてそんなにいいものは出ないと思うよー?」
「それは確かにそうだな。特別な施設でもなけりゃ中心部の方がいろいろあるよな。じゃあこの山を漁ったら戻って南行きで良いか?」
「「賛成ー」」
山は大きな建物だったらしく金属類が多く出た。結局新たに6輪の長さ8メルの荷台を作り、まる2日かけて集めた12トンの金属や希少な材料を積んだ。それをトラクの後ろに連結して乗り場まで曳いて行くことになった。
朝出発して乗り場の通路に着くと
「マノボタンがもうないんだよ。補充したいよ」
アリスが言うので通路にトラクを止めて隠しドアを探す。すぐに見つけて20メニほどで裏口を開けた。もう慣れたもので灯りを放り込み中へ滑り込むとミットが辺りを調べ、アリスが中から解錠する。クロが扉を押し開けた。
こんにちはー。アリスでーす。
ミットだよー。
ア:ざっくざくー!
ミ:運べないからって、もう一台トラクを曳いてくなんて。
ア:しょうがないじゃない!みんなで分けたんだから。
ミ:クロミケはかわいーからいーけどー。
ミア:まったねー。




