ギフトだよ
「属性なし、ですね……」
その言葉を聞いた俺は笑顔を崩すことはなかった。
どうせ、あれだ。実はなにも反応なかったのは全属性使えるからとかそういう理由だぜ、きっと。
「またまた〜、もっかいやってみようぜ」
「いえ、間違いなく属性なしです」
「いやでももしかしたら複数使える手違いとか」
「いえ、間違いないです。ヒロト様は魔法を一切使うことはできません……」
……マジで?俺魔法使えないの?
魔法を使いたいという願望。わざわざ王様にお願いまでしたというのに。
絶望に打ちひしがれていると、右側から肩を叩かれる。振り向くと、そこには笑顔のカトレアがいた。
「慰めて、くれるのか?」
狂暴とか思って悪かったな。お前は心優しい王女様だ。
「私は三属性使えますよ!」
「え、自慢?」
こいつ少しは空気を読めないのか。泣きそうになりながら左側を見る。
未だにナイフを磨くスミレ。そんなに興味ないのか。
しかし、俺が振り向いたことにより、意識がこちら側にうつる。
「どうかしたの?」
意外にも優しい声音で返してくれる。もしかしたらこいつなら俺のことを慰めてくれるかもしれない。
「属性なしだって。俺は魔法を使えないらしいんだ」
一瞬不思議そうな顔をする。何故そんなことをわざわざ言うのかという顔だ。しかし得心したようで、もう一度こちらに向き直る。
「ふっ……」
「え、笑った?今笑ったよね?」
「笑って欲しかったんじゃないの?」
こいつ……絶対わざとだ。人を小ばかにしたようなこの笑い方は心の底からコケにしている人間にしかできない。
俺が相当落ち込んでいるのを見かねてか、この空間唯一の常識人マルクスが励ましの言葉をくれる。
「まあまあ、魔法は使えなくてももしかしたらギフトがあるかもしれない。そう気落ちすることはないですよ」
「ギフト?」
聞きなれない言葉に興味を示す。すると、ここぞとばかりにマルクスが説明を始める。
「ギフトとは魔力を消費して使用するその人特有の技能です」
「そんなものがあるのか!じゃあそれ教えて」
「ただ、全員がギフトを持っているわけではありません。少数の限られた人間だけが持つ神様からの贈り物なのです」
「ない可能性の方が高いってことか……」
しかし、ここでうじうじしていても意味がない。可能性があるならそれにかけてみようじゃないか。
「では、少々お待ちください」
しばらくすると、先程よりも一回り小さい水晶玉を持って戻ってきた。
「こちらに先程と同じように魔力を込めてみてください」
さっきとは違った意味でドキドキする。
一度深呼吸をして、水晶玉に魔力を込める。すると、今度は先程とは明らかに違い、水晶玉が発光する。それは、まるで召喚されたときに感じたそれのようだった。
「まさか本当に……!」
目を開けると、水晶玉に文字が浮かび上がっていた。
「強化?」
「それがヒロト様のギフトです!まさか本当にギフトをお持ちとは」
その言い方だと、さっきの言葉はただの気休めだと言っているようなものなんだけど。
ただ、そんなことを追求するよりも、今は強化という名のギフトへの関心が勝った。
「これってどういうものなんですか?」
早速効果を聞いてみると、マルクスは首を横に振る。
「分かりませぬ。ギフトとはその人特有の物ばかり。確かに人によっては同じものもあるし、過去に発現した人の記録が残っているものもあります。しかし、強化などという名前のギフトは聞いてこともありません」
能力の分からないギフト。いいじゃないか。今から自分でそれを考えて使っていく。ものすごく楽しそうだ。魔法が使えないと知ったときは絶望したが、これからの生活退屈せずに済みそうだ。
隣を見ると、飽きたのか寝入っているカトレアと未だにナイフを磨き続けているスミレの姿があった。怖えよ。
「ふっ……」
なんで笑ったの?怖いよ本当に。