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勇者召喚だってよ

頑張ります

一話目だけ三人称視点です

 朝、通勤通学が終わり一通りの少ない時間。制服姿で悠々自適に歩く男が1人。名前を真木裕斗(まきひろと)という。


 彼は不良というわけではない。本来なら通常通りの時間に学校へ行く、ただの一般学生の1人だ。

 彼が今日遅刻した理由。それは、意地である。友人とどちらが遅く登校するかというくだらない勝負にこだわった結果だ。しかし途中で「なにやってんだろ」と思い至った裕斗は学校へ行くことにした。そもそも、始業するまでの間でどこまでギリギリを行けるかという勝負なのにも関わらず、学校を遅刻するという愚行を犯した時点で裕斗の負けは確定だ。


「この時間に歩くのってなんか優越感あるな」


 同時に罪悪感を感じているあたり、小心者であることを否定することはできないだろう。


 そんな時だった。裕斗の足元に光り輝く魔法陣が現れた。突然のことに動揺し、立ち止まってしまう裕斗。


「これって、まさか……!」


 普段からライトノベル読者である彼にとってこの状況に合致することがあった。


 異世界召喚


 一抹の不安を抱えつつも、多少の期待をする裕斗。

 次第に光が強くなり、目を開けていられなくなる。


(目を開けたら美少女目を開けたら美少女目を開けたら美少女)


 不安を和らげるべく、自分に言い聞かせる。


 しかし、彼は目を開けることなく意識はそこで途絶えてしまった。



 ------------------------------------




 これは、フォルストレーベン王国の王宮内の出来事。


「おい、ジィ!面白いもの見つけたぞ!」

「なんですかな?ルクハルト様」

「これを見てくれ!」


 そうして、フォルストレーベン王国第二王子が取り出したのは一冊の古びた本だった。


「勇者召喚の書?またなんとも胡散臭い本ですな」

「何を言っているんだ、だからいいんじゃないか!」


 ジィと呼ばれた老人は本のことを全く信じていない様子だった。それに対してルクハルトは分かっていないなぁとでも言いたげな様子でジィを煽る。


「どうせ無理だって分かっているから安心してできるんじゃないか」

「ふむ、確かに。面白そうではありますな」

「だろ、やってみようぜ!」


 面白そうだからやる。まるで子供のような言い分ではあるが、それに同調した老人はその年齢に似つかわしくないいたずらっ子のような笑みを浮かべていた。

 善は急げとさっそく場所を移動して本に書かれてある通りに行動する。


「まずは聖水、魔晶石を50キロ集める……」

「なかなかにコストがかかりますな」


 聖水、魔晶石、いずれにしろ集めるのは困難な物資の一つである。ここが資源の豊富なフォルストヘーベン王国であることと、ルクハルトが王子であること、二つのうちどちらか一つでも欠けていたら一気に困難になったことは想像に難くない。


「まあ、どうせ失敗するんだしいいだろ。使った後にバレないように戻しておけば」

「ルクハルト様……立派に育ってしまわれて」


 城の倉庫にあったものを勝手に使うルクハルトに対して、ハンカチで目元を抑えるジィ。

 王子が悪いことをしているというのに、諫めるどころか感動する始末。臣下としては確実に失格である。


「これで錬成陣を描く。この魔方陣複雑だな。見たことない形式だ」

「この本自体古いものですからな。あとは王族の血と魔力を流せば終了です」


 陣を描き終わったルクハルトは、腰に携えた剣を抜くと腕を少し切る。腕から流れ出た血は魔法陣の上に落ちる。

 それを確認したルクハルトは魔法陣に魔力を流す。

 するとその瞬間魔法陣が発光を始める。


「うぉ!本当に反応した!」

「魔晶石50キロ分の弁償をすると一体いくらになるのか……」


 光り始めた魔法陣を見て二人が最初に思ったのは、使った魔晶石と聖水の心配だった。

 光が少しずつ弱まっていき、目を覆っていた腕を下ろす。

 するとそこには、一人の黒髪の男が横たわっていた。


「…………」

「…………」

「ジ、ジィ……」

「なんですかな?王子」

「ど、どどどどうしよう!?本当に人召喚しちゃったよ!これって誘拐とかになるのかな!?」

「落ち着いてくだされ王子」


 まさか、本当に人が召喚されるとは思っていなかった二人は、現状を把握すると動揺を露わにした。特にルクハルトはそれが著しい。

 自分がしてしまったことに気づいたルクハルトは、この後どうすればよいのかをジィに尋ねる。

 ジィは最初こそ動揺したものの、すでに落ち着いている。


「王子、こういう時こそ落ち着いて対処するのが王族のあるべき姿ですぞ」


 ジィに宥められたルクハルトは多少の焦りを残しつつも冷静になることに成功した。


「この男を家に帰すことができれば、誘拐ということにはなりませんでしょう。まずは、起きるのを待ち、元居た場所を聞きだせばよいでしょう」

「……ダメだ。本によるとこの男は異世界から召喚されたらしい。それに召喚の方法は書いてあっても送還の方法は何も書かれていない」


 瞬間、ジィの顔は凍り付いた。今置かれている状況を再度確認する、

 自身が面白がって行った異世界召喚。高価な魔晶石や聖水を勝手に持ち出し、関係のない人間まで巻き込んでしまった。


「…………」

「ジィ……」


「どどどどどうしましょう!」

「嘘だろ!?さっきまであんなに冷静だったのに!」

「私は王族ではありませんからな!」

「逆ギレかよ!」


 言い合いをする両者。その姿は、責任のなすりつけ合いにまで発展した。


「そもそもルクハルト様が変な本を持ち出してきたのが悪いのです」

「てめ、俺は王子だぞ!こういうことがないように諫めるのがお前の仕事だろうが!」

「……そうですな」


 急に静かになり、ルクハルトの言葉を肯定するジィ。自身の罪を認めることで、この場を収めようとするのが意図だ。この不毛な言い合いは、どちらかが矛を収めぬ限り続いたことだろう。

 それを見たルクハルトも意図を感じ取り、冷静になる。


「私のミスです。申し訳ありません王子」

「いや、こちらこそ熱くなって悪かった。もとはと言えば、俺が言い出したことだしな」

「いえいえ、とんでもございません王子」


 そうして、互いに笑い合う。どうやら仲直りに成功したようだ。


「王子」

「なんだ?」

「つきましては王子が責任を取ってくださいね」

「は?」

「部下の不始末は上司の責任。それに、自分が悪いこともお認めになりましたね」


 一瞬、この男は何を言っているんだとでも言いたげな視線をジィに向けるルクハルト。しかし、言葉の意味を

 理解すると、顔を真っ赤にして怒り出す。


「テメェ、さっきから王子王子言ってたのはそういうことかよ!そもそも俺はお前の上司ではないからな!」

「しかし、異世界からの誘拐など、とてもとても私めがどうにかできるようなことでは」

「俺にだってどうにもできないわ!」


 二人があーだこうだと言い合っているうちに、倒れていた人物の体が起きだす。しかし、二人はそれに気づかず、未だに責任の所在について言い合っている。



「あの」

「「っ!?」」


 声がしたことでようやく、二人は件の人物が起きていることに気づく。


「ど、どうする」

「どうするもこうするも」


 二人はお互いに目を合わせ、頷き合う。召喚が行われて初めて意思の疎通に成功した瞬間だった。


「「すみませんでしたぁぁぁぁ!!!」」

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